「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
2023/05/13公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(79点)
要約と感想レビュー
アルコール中毒とは
これは小説なのか、それとも自伝なのかわかりませんが、コインランドリーでアル中に出会い、不倫相手がコカイン中毒とは、ゾッとする設定のストーリー集です。著者も母親も祖父もアルコール依存症に苦しんだというのですから、どん底の描写はしかたがないのでしょう。
断酒会で出会った女性は、息が酒くさいのをごまかすためにニンニクをかじっていた。スパイスのクローブを噛む人もいれば、母親はいつもヴィックス軟膏の息をしていたという。アル中はアルコールが切れると、体が震えて、過呼吸が始まるという。酒を飲まなければ、幻覚や妄想が始まるのです。まずは糖分。砂糖入りの紅茶を飲むと落ち着くというのです。
トニーは十セント玉を三つよこした・・手が震えすぎて乾燥機が動かせないのだ(p12)
死を意識する
少し落ち着けるのは、中盤の死をテーマとしたところでしょう。主人公は掃除婦の仕事をしながら、住人が死んだ家の遺品整理をすることが多かったという。遺品整理中に出会った家族では、子どもたちが遺品整理しながら、子どもの頃のエプロンを発見して涙を流すシーンに心が温かくなりました。遺品整理とは、その人の人生の本を読むようなものなのです。
メキシコでは死者の日に「オフレンダ」と呼ばれる祭壇を作って、日本のお盆のように故人の魂を偲びます。主人公はアル中で、自殺未遂をすることもあった母親とガンで死期が近づいた妹の「オフレンダ」を作ります。母親の祭壇には、チョコレート、ジャック・ダニエル、推理小説、睡眠薬、ピストル、ナイフを捧げるのです。
主人公はガンで死期が近づいた妹を看病しながら、自分の一生をふりかえります。悔やんだり自責したり。怒りや憎しみ。それが、これらの小説となったのでしょう。時とともに、それらの苦しさは小さくなっていったという。
わたしは家が好きだ・・本を読むのに似ているのだ・・ここ最近は、住人が死んだ家の片付けをしている(p162)
掃除婦の手引書
掃除婦としては、物を盗むにしてもバレないように盗むのがコツのようです。また、初日は家具をちょっとだけずらして置けば、仕事をしていることがPRできるし、ご主人に間違いを指摘してもらってご主人の自己重要感を満たしてあげることができるという。
日本の会社員でも応用できそうな手引書としては深い内容でした。ただし、アル中、コカイン、たばこ、セックスと睡眠薬と刑務所と、よい子は読んではいけない本だと思いました。ベルリンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・メキシコでは男たちがにおう。国じゅうがセックスと石鹸のにおいだ・・たったの二ブロックの散歩が、エロスの香りと死の危険に満ちている(p174)
・ホープほどの友だちは二度とできなかった・・あの経験がなかったら、たぶんわたしは今ごろ神経症とアル中と情緒不安定だけでは済まなかっただろう(p219)
・貧乏人は、とにかく並ぶ。生活保護や失業保険の列、コインランドリー、公衆電話、緊急救命室、刑務所の面会、何でも(p51)
【私の評価】★★★☆☆(79点)
目次
エンジェル・コインランドリー店
ドクターH.A.モイニハン
星と聖人
掃除婦のための手引き書
わたしの騎手 (ジョッキー)
最初のデトックス
ファントム・ペイン
今を楽しめ (カルペ・ディエム)
いいと悪い
どうにもならない
エルパソの電気自動車
セックス・アピール
ティーンエイジ・パンク
ステップ
バラ色の人生 (ラ・ヴィ・アン・ローズ)
マカダム
喪の仕事
苦しみ (ドロレス) の殿堂
ソー・ロング
ママ
沈黙
さあ土曜日だ
あとちょっとだけ
巣に帰る
著者経歴
ルシア・ベルリン(Lucia Berlin)・・・1936年アラスカ生まれ。鉱山技師だった父の仕事の関係で幼少期より北米の鉱山町を転々とし、成長期の大半をチリで過ごす。3回の結婚と離婚を経て4人の息子をシングルマザーとして育てながら、学校教師、掃除婦、電話交換手、看護助手などをして働く。いっぽうでアルコール依存症に苦しむ。20代から自身の体験に根ざした小説を書きはじめ、77年に最初の作品集が発表されると、その斬新な「声」により、多くの同時代人作家に衝撃を与える。90年代に入ってサンフランシスコ郡刑務所などで創作を教えるようになり、のちにコロラド大学准教授になる。2004年逝去。レイモンド・カーヴァー、リディア・デイヴィスをはじめ多くの作家に影響を与えながらも、生前は一部にその名を知られるのみであったが、2015年、本書の底本となるA Manual for Cleaning Womenが出版されると同書はたちまちベストセラーとなり、多くの読者に驚きとともに「再発見」された。
鉄塔文庫関係書籍
「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
「へろへろ」鹿子 裕文
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