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ミニマリストの闇「滅私」羽田 圭介

2023/09/06公開 更新
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「滅私」羽田 圭介


【私の評価】★★★☆☆(76点)


要約と感想レビュー


モノより思い出!

宮城県仙台のいろは横丁に金曜日だけ開いている本好きによる本好きのための「鉄塔文庫」というバーがある。その「鉄塔文庫」で行われる月1回の読書会の9月の課題本が、「滅私」なのである。そもそも小説を読まない本のソムリエは、こうした機会を作らないと小説を読まないし、そのために読書会に参加しているのです。


この本の主人公は、物を持たない、置かない、とにかく捨てる!生活を実践しています。そんな生活を「身軽生活」というサイトで情報発信し、シンプル生活をサポートする「MUJOU」ブランド商品を販売しているのです。さらに「モノより思い出!」というモノを持たない生活に憧れる人を集めてセミナーを開催し、コミュニティを作って稼いでいこうという、今どきの設定なのです。


物ではなくて、やっぱり経験が大事っていうことです(p11)

物を捨てるということ

そんなシンプル生活のコミュニティの内側がどうかといえば、実は主人公の収入の半分は株式の短期売買によるもので、シンプル生活からの収入はそれほどではないのです。また、何でも捨てる主人公は、思い出を大切にする彼女と価値観が違いすぎて、結局分かれてしまいます。主人公は写真もデジタル化して捨てるし、人からもらったものも捨てる。実は過去の人をいじめたり、悪いことをした思い出を捨てようとしているのではないかと感じました。


また、物を捨てるコミュニティの人たちの中には、豊富な資産と収入があって、高級車やタワマンなどを保有することで"自分の幸せを物に頼っていた"経験を持っている人が多い印象です。つまり物を捨てる、少ない収入で豊かに暮らすという発想は、ある程度の資産や収入のある人だからこそ、到達するわけです。収入が少なくてどうしてもその収入でやっていかなければならない人は、必然的にシンプル生活となるのです。


道具を捨てるということは、上達した末の、なりたい自分像を捨てることでもある(p37)

「捨てる」のは手段

シンプル生活の先駆者の家がゴミ屋敷になっているという話から、ラストにむけて強引なストーリーとなっていましたが、全般的に暗い内容でした。むだにお金を使わないシンプル生活は、あるべき姿だと思いますが、極端に「捨てる」ことばかり意識してしまうと、その道具を活用して努力することを捨ててしまうことになってしまいます。そこそこでバランスのよい生活が望ましいように感じました。「捨てる」のは手段であり、目的ではないのです。


ドラマ化を意識してなのかサスペンス的な脚色が印象的でした。なお、9月の読書会は北海道移動中につき参加できませんので、皆さんお楽みください。羽田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言


・道具や時間をあまり消費したくない、あらゆることから身軽でいたいという精神は、なにかを真剣に行うことと相性が悪い(p97)


・不動産を除外し最低でも一億円分の純金融資産を持てば解脱できる・・・本当は三億円くらいないと(p32)


・皆がログハウスを建てのんびり野菜を植えたりと自然回帰ごっこをしてストレスフリーの生活をしだしたら、今見ている世界は終わる(p113)


▼引用は、この本からです
「滅私」羽田 圭介
羽田 圭介、新潮社


【私の評価】★★★☆☆(76点)



著者経歴


羽田圭介(はだ けいすけ)・・・1985年東京都生まれ、小説家。2003年に『黒冷水』でデビュー。2015年『スクラップ・アンド・ビルド』で芥川賞を受賞


鉄塔文庫関係書籍


「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
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「へろへろ」鹿子 裕文


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