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「八日目の蝉」角田 光代

2023/01/04公開 更新
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「八日目の蝉」角田 光代


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー

いきなり不倫相手の子を身ごもる

正月は、あまり読まない小説に挑戦しました。主人公の希和子は、不倫相手の子を身ごもりました。しかし不倫相手は乗り切らない態度で堕胎することに。失意の中で、不倫相手の妻の妊娠を知って、不倫相手とわかれることを決意するのです。そして最後に不倫相手の子を見てわかれようと、不倫相手の家に忍び込んだ主人公は、大声で泣く不倫相手の子を連れ出してしまうのです。自分の手で殺してしまった、自分の子のように感じてしまったのでしょうか。


そもそも不倫相手と主人公は避妊していなかったのか!?それに他人の子どもを誘拐したら、子どもは無戸籍になってしまうじゃないか!?学校や、医療保険はどうするんだろう。と私は思いながら読み進めました。こうした理屈でないところで動いてしまうのが人間である、ということを伝えたいのでしょうか。


何をしようってわけじゃない。ただ、見るだけだ。あの人の赤ん坊を見るだけ。これで終わり。すべて終わりにする(p8)

エンゼルホームでの共同生活

主人公は不倫相手の赤ん坊を抱えて、逃避行しているうちに、エンゼルホームという女性だけの農業をしながら共同生活を行っている組織にもぐりこむことに成功します。3000万円という全財産を寄付するかわりに、エンゼルホームに入所し、共同生活を送ることにしたのです。誘拐犯として指名手配されている状況を考えれば、外界から隔離されたホームの生活は比較的安心できるものでした。


このエンゼルホームは「欲望やエゴを手放そう」という宗教的な思想を持っており、入所するためには、全財産を寄付しなくてなりません。また、指示に対し意見を言おうものなら、「なぜ、自我を手放せないのか」と夜中まで問いつめられるような場所だったのです。


これは農業組合法人「幸福会ヤマギシ会」を参考にしているのでしょう。ヤマギシ会では「なぜ嫌いなのか」「なぜ腹が立つのか」などの質問を繰り返して、我欲を捨てるというワークをしていると言われています。嫌いも怒りもなくなれば、心が軽くなるというのです。確かに欲望や自我から財産まで捨ててしまえば、確かに人間としては無になれるのでしょうが、外から見ると、深く考えない、主張のない人間の集まりに見えるのです。


ここで暮らす四、五十人の女たちには共通点がある・・深く考えない、疑問を持たない、主張がない(p134)

誘拐された子どもの人生

主人公は2年後に逮捕され、物語は、誘拐された子どもの視点に移ります。不倫していた父と、それを知り家にあまりいない母に育てられた子どもも、大きくなるにつれてすべてを知るようになります。なぜあの女は自分を誘拐したのだろうか。父はなぜ不倫をしていたのか。そうしたことを考えていたのかわかりませんが、子どもは大学生となり、アルバイト先で既婚男性と知り合いになります。そして、その男性の子どもを身籠ってしまうのです。あの女と自分は同じようなことをしている!しかし、避妊はしないのかい!?


文庫本の帯に「犯罪者の祈りが、なぜこれほど胸を揺さぶるのか」と書いてありましたが、私はあまり揺さぶられませんでした。まず避妊しましょう。避妊を小中学校でしっかり教えることで、こうした小説のようなドラマが起こらないことを祈るのみです。角田さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・美貌もお金も、平穏も結婚の保証も、それから未来も、みんな手段だと思わない?その手段の先にある、本当にあなたが欲しているものの正体を考えてみようよ(p104)


・どの蝉も七日で死んじゃうんだったら、べつにかなしくないかって。・・・仲間はみんな死んじゃったのに自分だけが行き残っちゃったとしたら・・そのほうがかなしいよね(p283)


・八日目の蝉は、ほかの蝉には見られなかったものを観られるんだから・・・ひどいものばかりでもないと、私は思うよ(p343)


▼引用は、この本からです
「八日目の蝉」角田 光代
角田 光代、中央公論新社


【私の評価】★★★☆☆(73点)



著者経歴

角田光代(かくた みつよ)・・・1967年神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部文芸科卒業。1990年「幸福な遊戯」で第九回海燕新人文学賞を受賞しデビュー。1996年『まどろむ夜のUFO』で第一八回野間文芸新人賞、1998年『ぼくはきみのおにいさん』で第一三回坪田譲治文学賞、2003年『空中庭園』で第二回婦人公論文芸賞、2005年『対岸の彼女』で第一三二回直木賞、2007年『八日目の蝉』で第二回中央公論文芸賞を受賞


鉄塔文庫関係書籍

「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
「へろへろ」鹿子 裕文


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