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「珠玉」開高健

2023/08/05公開 更新
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「珠玉」開高健


【私の評価】★★★☆☆(73点)


要約と感想レビュー

アクアマリンはさびしい

開高健というと釣りをしているおじさん、というイメージですが、食道がんで亡くなる前に書き残したのが、この「珠玉」です。「珠玉(しゅぎょく)」とはきれいな石の意味で、この本では、アクアマリン、赤いガーネット、ムーン・ストーンが出てきます。


最初のアクアマリンの思い出は、汐留の小さなバーで知り合いになった先生と呼ばれる人です。先生は著者を自宅に呼び、一杯やることになったのです。趣味で集めているアクアマリンの粒々を見せてくれたのですが、先生はアクアマリンを前に「さびしいですが、私は」と著者に言うのです。寂しい人が石を集めるのだろうか。実は著者もさびしいんじゃないか、などと感じました。


・汐留の貨車駅の近くにあるその小さな酒場に入ると、凸凹の古い赤煉瓦の床にまいた松のオガ屑のしっとりとした香りが鼻と肩にしみこんでくる(p12)


ガーネットは血の色

二つ目の石は、渋谷の中華料理店の店主から貸してもらったガーネットです。その赤い石を見て、著者は遊ぶというのです。遊ぶとは著者の記憶をさかのぼることなのでしょう。それはアラスカのキング・サーモンを釣りに行ったときのことであったり、ベトナムの森の中で、せりだした内臓をおさえる兵士が死んでいくのを見ていたときの記憶なのです。


三つ目の石は白いムーン・ストーンです。白い石から、著者は白いお城をイメージしています。白いお城といえば、インドのタージマハル。愛する妃のために作ったお墓です。その後、新聞社に働く阿佐緒(あさお)という女性との情事が赤裸々に描かれてあるのが不思議でした。ムーン・ストーンに女性がイメージされるのでしょうか。


・ムーン・ストーン・・この石、妙にドイツ人が好きで、毎年、何万カラットと輸出されているんだそうですよ・・「ベートーヴェンのせいじゃないのか?」「月光の曲ですか。なるほどォ!」(p123)


作家の不安と焦り

作家として生きた開高健さんは、不安と焦りの中で、常に書くネタを考えていたことがわかります。中国の王朝の歴史を学び、そこから短編小説を書こうと考えていたという。また、脱稿した後には、家にじっとしていられなくなり、新宿、渋谷、銀座の映画館をつぎつぎ立見して歩いていたというのです。


どこかに所属していない作家の心の中をのぞいたような気分になりました。サラリーマンも定年退職になると、おなじ焦燥感を覚えることになるのでしょう。開高さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・フィッシュンチップス・・エロ新聞に包んでもらうといつまでもホッカホカと温かいけれど、「タイムズ」なんかだとたちまちさめてしまう(p8)


・「走馬看花」と書いてみせ、これは馬を走らせつつ花を見ると読めるが、じつはあたふたとせわしいだけの観光旅行のことをいうのだよ、といって笑う(p47)


・料理の味がよくなかったら・・アメリカ人ならざんざん叱言を並べたあげく、勘定をきちんと払い、チップもおいて、出ていくだろう・・・日本人は叱言をいわずに・・二度とその店にはもどってこない(p70)


・「東方見聞録」・・マルコ・ポーロは中国からの帰途にあちらこちらに寄港したが、セイロン島にも立寄り、そこで島の王様の所有する巨大なルビーを目撃したことになっている(p100)


・ジンが入って血管に明るい灯がついた(p140)


▼引用は、この本からです
「珠玉」開高健
開高健、文藝春秋


【私の評価】★★★☆☆(73点)


目次

掌のなかの海
玩物喪志
一滴の光



著者経歴

開高健(かいこう たけし/けん)・・・1930年大阪に生まれる。大阪市立大を卒業後、洋酒会社宣伝部で時代の動向を的確にとらえた数々のコピーをつくる。かたわら創作を始め、「パニック」で注目を浴び、「裸の王様」で芥川賞受賞。ベトナムの戦場や、中国、東欧を精力的にルポ、行動する作家として知られた。1989年逝去。


鉄塔文庫関係書籍

「八日目の蝉」角田 光代
「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ: 文豪の名言対決」頭木 弘樹
「囚人服のメロスたち 関東大震災と二十四時間の解放」坂本 敏夫
「コルシア書店の仲間たち」須賀 敦子
「掃除婦のための手引き書 ルシア・ベルリン作品集」ルシア・ベルリン
「春にして君を離れ」アガサ・クリスティー
「目の見えない人は世界をどう見ているのか」伊藤亜紗
「珠玉」開高健
「滅私」羽田 圭介
「へろへろ」鹿子 裕文


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