「脳科学者の母が、認知症になる ; 記憶を失うと、その人は"その人"でなくなるのか?」恩蔵絢子
2023/04/08公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
アルツハイマー型認知症
著者の母親は65歳でアルツハイマー型認知症と診断されました。いつもの料理が作れなくなったり、電車で自分の降りる駅がわからなくて、不安で何度も尋ねたりするようになったという。お湯の蛇口を自分でひねっておきながら、「急に熱いお湯が出てきちゃった!」と言ったり、無表情でじっと座っていることが多くなったというのです。
認知症になると、目の前の作業はできますが、複雑な段取りの作業が難しくなってきます。短期の記憶が曖昧になってしまうのです。ただ、若い頃の記憶や、言語化されない体で覚えた自転車の乗り方や包丁の使い方などの記憶は問題ないのだという。著者も最初のうちはイライラすることが多かったようですが、ちょっと前のことを覚えられなかったら、自分の行動の奇妙さを自覚できないのは当然なのかもしれないと納得したという。認知症の人たちも、記憶が曖昧になる中で、恥ずかしいと感じつつ、無力感と戦っているのです。
・認知症の人は、私たちがたくさんの仕事を引き受けてあっぷあっぷしている時の感覚を毎秒毎秒味わっている(p116)
介護は自分にできることをすればいい
興味深かったのは、認知症になった人を助けようと何でもやってあげるのは逆効果ということです。老人ホームでの研究でも、介護を受ける本人が助けを頼むかどうかの選択権を持ち、部屋の家具の配置や部屋に置く植物を自分で選択して育てることができるほうが、幸福度、活動度が高くなったというのです。
実際、母親の面倒を見ることになった著者は、何でもやってあげることは自分の自由度も減るし、母親の主体性の感覚を奪ってしまうと感じたという。認知症の母親でも、自分でできる作業をしていると幸せそうに鼻歌を歌っているので、そうした時間を増やしたいのです。ただでも、自分の生活を営めなくなることは、自尊心を傷つけられるのです。だから、料理をやらせるのではなく、母親が自分で料理をしていると感じてもらい、できないところだけ支えてあげるほうが、それまで料理を作ってきた母親の自尊心を満たしてあげることができるのでしょう。
・介護・・病気になってしまった人の主体性の感覚、自由を奪う・・負担にならない範囲で自分にできることをすればいい(p137)
85歳以上では二人に一人が認知症
85歳以上では二人に一人が認知症になると言われる時代に、こうした本で認知症について考えることは大切だと思いました。そういえば会社の50代の上司が、会議の中でだれもが情報共有していると思っていたことを「聞いてない」と発言して、周囲が凍りついたことを思い出しました。年を取れば、認知症とまではいかなくてもだれもが物忘れしやすくなるのです。プーチン大統領も認知症なのかもしれません。
アイヌでは、老人がボケてしまったとき、「神用語を話すようになった」と考えて、神様のような存在として扱ったという。そんな気楽さ、おおらかさ、許容できる余裕が必要なのでしょう。恩蔵(おんぞう)さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・アルツハイマー型認知症では、・・「お財布を盗られた」という妄想を持つことがよくある・・自分の糸と他者の意図の取り違えの一つである(p122)
・「あいつが俺を殺そうとしている」・・・統合失調症では、自分と他人と、自分の世界と外の世界とが区別できなくなる(p118)
・法律で安楽死が認められているオランダでは・・人視聴になったらいかなる治療も行わず、安楽死させるように意思表示する人が増えている(p141)
【私の評価】★★★☆☆(75点)
目次
はじめに 医者ではなく脳科学者として、母を見つめる
1 六五歳の母が、アルツハイマー型認知症になった
2 アルツハイマー型認知症とはどういう病気か
3 「治す」ではなく「やれる」ことは何か―脳科学的処方箋
4 「その人らしさ」とは何か―自己と他者を分けるもの
5 感情こそ知性である
おわりに 父母と竿燈まつりに行く
著者経歴
恩蔵絢子(おんぞう あやこ)・・・1979年神奈川県生まれ。脳科学者。専門は自意識と感情。東京工業大学大学院総合理工学研究科知能システム科学専攻博士課程修了。
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