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なぜシリコンバレー銀行は破綻したのか?「資本市場とリスク管理」藤井健司

2024/07/11公開 更新
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「資本市場とリスク管理」藤井健司


【私の評価】★★★☆☆(75点)


要約と感想レビュー

金融機関のリスク管理

米国債を大量に保有する農林中央金庫が、米国の金利上昇で数兆円の損失を出したという記事を読んで、手にした一冊です。私の勤める会社でもデリバティブ部門があるので、勉強のつもりで読んでみました。この本では、金融機関のリスク管理について中心に書いています。


基本は株式や債権などの商品別に限度枠を設けたり、債権なら投資回収年(金利と価格の感応度に比例)や過去の市場変動から想定したバリュー・アット・リスク量を一定範囲に管理します。あとはストレステストとして、過去の最悪のパターンでどうなるか検証して、耐えられなければ対策を打つというものです。これらは、どこの会社でも行っていることではないでしょうか。


市場リスクに対しては・・限度枠を設けることに加えて・・デュレーションなどの感応度指標やバリュー・アット・リスクのようなポートフォリオ全体のリスク量をもってコントロールすることが一般的である(p25)

金融機関の破綻事例

こうしたリスクマネジメントが行われている中で、過去には多くの金融機関が破綻しています。


アメリカLTCMは、一時的に割安・割高になった市場価格が適正価格に修正されることを前提とした裁定取引で利益を出していました。しかし、ロシア危機で外国為替交換停止やロシア・ルーブルの切り下げによって取引する相手がいなくなり、巨額な損失を出したのです。


米国のサブプライムローンでは、複雑な証券化によってリスクが見えないように組成されていたため、未回収が増えてくると、適正な価格がいくらかさえもわからず、暴落どころか取引ができなくなりました。


シリコンバレー銀行は、農林中央金庫のように米国国債の金利上昇によって、破綻しました。シリコンバレー銀行の場合は、含み損が知られると預金が大量に流出したのです。シリコンバレー銀行は、ストレステストで流動性で不合格を繰り返していたが、改善策をとっていなかったという。


サブプライムローン関連の証券化商品で邦貨にして4兆円以上の損失を被ったUBS銀行では、最高位の外部格付けを有した証券化商品については、リスク管理上無リスクという扱い(p111)

リスクを減らすのが基本

農林中央金庫も金利変動は想定していたはずで、金利が上がったから売るようでは、想定していなかったということなのでしょうか。農林中央金庫は債権投資の比率が高かったとの情報もありますので、過去の株式投資の損失経験があって、株式、債権、不動産など分散してリスクを減らす運用が制約されていてできなかった可能性もあります。


私の会社でもデリバティブ部門がありますが、先物を買って利益を確定させるなど、収益のばらつきを減らすためであれば許容されるのでしょう。これが短期で利益を増やそうなどと欲を出すと、可能性は低くてもリスクが顕在化したときに大きな損失となるわけです。


内容としては難しく書いていますが、常識的な内容でした。藤井さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・2003年の国債市場の急落・・VaRリミットを限度額の範囲内に収めるために各銀行が一斉にポジション縮小の売り注文を出し、売りが売りを誘発する(p116)


・英国LMEのニッケル市場では、わずか数分の間に価格が2倍以上に急騰したことから取引所が取引を停止し、この期間に成立した取引をキャンセルするという異例な事態も発生した(p187)


・各国におけるカーボン・プライシングの取組みが進んでいくと、各国ないし地域間のカーボンプライシングの違いが、公正競争の議論に発展していく可能性が高い(p171)


▼引用は、この本からです
「資本市場とリスク管理」藤井健司
藤井健司 、イノベーション・インテリジェンス研究所


【私の評価】★★★☆☆(75点)


目次

序 章 金融・資本市場とリスク管理
第1章 金融・資本市場のエコシステムとシステミックリスク
第2章 デリバティブがもたらしたミクロの市場リスク管理
第3章 もうひとつの金融工学:証券化市場の発展
第4章 リスク管理標準としてのVaR
第5章 ストレステスト~補完ツールからメインツールへ
第6章 脱炭素社会に向けた金融・資本市場の役割とリスク管理
第7章 ウクライナ侵攻と地政学リスク
第8章 2023年春の欧米金融危機とリスク管理
座談会 これからの金融リスク管理の視点
第9章 金融・資本市場とリスク管理の将来像



著者経歴

藤井健司(ふじい けんじ)・・・東京大学経済学部卒。ペンシルヴェニア大学ウォートンスクール経営学修士課程修了。1981年日本長期信用銀行入行、2004年UFJホールディングスリスク統括部長兼UFJ銀行総合リスク管理部長。2006年三菱UFJフィナンシャル・グループリスク統括部副部長兼バーゼル2推進室長。2007年あおぞら銀行入行、専務執行役員チーフ・マーケット・リスク・オフィサー。2008年みずほ証券入社、リスク統括部長。2011年同執行役員。2016年同常務取締役常務執行役員グローバルリスクマネジメントヘッド。2020年7月グローバルリスクアンドガバナンス合同会社代表社員。


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