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「近衛文麿の戦争責任―大東亜戦争のたった一つの真実」中川 八洋

2013/02/24公開 更新
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近衛文麿の戦争責任


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

ドイツのヒトラー、イタリアのムッソリーニ。この二人はファシストとして、「悪」というイメージがあります。では、ファシスト国家であるドイツとイタリアと三国同盟を主導した日本人は、誰なのでしょうか。当時の首相は、近衛文麿(このえふみまろ)です。


総理大臣である近衛文麿は、三国同盟の締結に加えて次の3つを行いました。日中戦争の拡大アメリカとの開戦方針決定。国家総動員法と大政翼賛会による統制です。


・日本は、近衛文麿首相の強引なリーダーシップのもとに1941年7月2日に早々と「対英対米戦を辞せず」(「情勢ノ推移ニ伴フ帝国国策要綱」)を御前会議で決定していた(p44)


口では、「平和への努力」と言いながら、日中戦争に予算をつける。軍部とアメリカの圧力を理由に、勝てない戦争決断を正当化する。これは、近衛がバランス感覚を欠いた無能な人であったか、または心の底に別の意志を持った天才であったかのどちらかなのでしょう。


著者の考えは、近衛は共産主義者として確信を持って行動していたということです。ちなみに、近衛文麿は東京帝大(哲学科)をわざわざ中退し、京都帝大(法科)へ入学しています。その理由は共産主義者の河上肇(京大助教授、共産党員、懲役五年の実刑)のもとで学びたかったからだというのです。


そして日本国首相となった近衛は、共産主義者である風見章、尾崎秀実、西園寺公一、犬養健を内閣嘱託のような形で工作活動を行わせ、日本が戦争で負けることで共産主義国家としようとしていたのです。特に朝日新聞は現在と同じように共産主義者の巣窟であり、当時は「5・15事件の首相暗殺のテロリストたちを無罪にしろ! 法なんかなんだ!」と朝日新聞(東京)は社をあげて連日、文字一面トップの大キャンペーンを展開していたという。


・近衛文麿が積極的に側近に登用した共産主義者としては、書記官長(=現在の官房長官)の風見章(親ソのマルキスト)、ゾルゲ事件の首謀者の一人として死刑となった尾崎秀実(ソ連のスパイ)、日中講和の阻止に暗躍した西園寺公一(中国共産党系のマルキスト)や犬養健(同上)、朝日新聞の佐々弘雄、松本重治など(p66)


日中戦争を拡大する近衛文麿の目的は、日本の対ソ連向け軍事力を分散させることであり、中国国民党を弱体化させ、中国を共産化することだったのです。最終的には、日本を弱体化させ共産化させることが目的であり、そのような視点で見ると、近衛首相の行動が一貫性を持ったものであると理解できるのです。


近衛は「軍よりも先手をうつ」と軍部以上に過激な強行主義者であり、軍部も近衛の過激さに驚いていたという。「支那事変」の巨額予算は、軍が強要したり要求した記録はないという。軍が独走し、戦火が拡大し、軍の圧力によって政府が圧力に屈して、その予算をつけ増税したのではないというのです。


近衛文麿については、あまりマスコミも報道しないようですので、集中的に調べてみたいと思います。さっそく、関係の本を5,6冊買いこみました。しばらくお待ちください。中川さん、よい本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・米国のルーズヴェルトの周辺が共産主義者で固められていたのと同じく、日中戦争の早期講和を阻み「南進」を決行する日本でもまた、近衛文麿首相の周辺も共産主義者の巣窟であった(p66)


・尾崎秀実の狙いは、具体的には、第一は中国の共産化であり、第二は日本の共産化・・・第三は、日本の軍事力を対中国の戦争で浪費させることによってロシアへの侵攻能力をゼロにすることであった(p30)


近衛文麿の戦争責任
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中川 八洋
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【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第1章 「八年戦争」と尾崎秀実―大東亜戦争の真実
第2章 「ハル・ノート」とロシアの「積極工作」―財務次官補H.D.ホワイトとルーズヴェルト
第3章 近衛文麿の「犯罪」(1)―「祖国」ソ連の防衛のための対英米戦争
第4章 中国共産化と計画経済の導入―日中戦争を脚本した近衛文麿の「犯罪」(2)
第5章 二・二六事件から近衛文麿「新党」へ―憲法蹂躙の国家反逆
補遺 軍部・「右翼」は、過激「左翼(革新)」



著者経歴

中川八洋(なかがわ やつひろ)・・・筑波大学名誉教授。昭和20年(1945)福岡県生まれ。東京大学工学部航空学科宇宙工学コース卒、米国スタンフォード大学政治学科大学院修了。平成20年(2008)筑波大学教授を退官。専門は、国際政治学、政治哲学、憲法思想


近衛文麿関係書籍

「近衛文麿の戦争責任―大東亜戦争のたった一つの真実」中川 八洋
「大東亜戦争の秘密―近衛文麿とそのブレーンたち」森嶋雄仁
「近衛文麿」杉森 久英
「近衛文麿「黙」して死す―すりかえられた戦争責任」鳥居 民
「コミンテルンの謀略と日本の敗戦」江崎 道朗


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