「刑罰」フェルディナント・フォン・シーラッハ
2019/07/24公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(75点)
要約と感想レビュー
著者がドイツの現役弁護士と聞いてピンときた。これは彼が体験した事件の調書なのです。世の中には正義と悪があるが、正義が勝つとは限らない。犯罪は裁かれることはあるが、裁かれないこともある。無罪の人がつかまることもあれば、犯罪者が無罪放免になることもある。そうした世の中の矛盾が12の短編小説の形で表現されているのです。
連中がどうしてギャンブルにはまるのか、今の彼ならよく理解できた。ギャンブルの世界のきまりは、シンプルで明快だ。ギャンブルがつづいているかぎり、その部屋とトランプだけがすべてで、他の世界は存在しなくなる(p31)
著者は現役弁護士として裁判制度の限界を感じているのでしょう。無罪の人を裁かないために、犯罪は証拠に基づき法と判例に基づいて裁判にかけられます。証拠がなければ裁けないし、法に不備があれば裁けない。真実は神様しかわからないわけで人は無実の人を裁くか、犯罪者を無罪放免とするかどこかで線引をしなくてはならないのです。
あの証人はあらわれなかった・・・警察は彼女を見つけられなかった・・・警察の情報筋によると、あの若い娘は最初の裁判で証言したあと殺されて、ゴミ捨て場に捨てられたという・・・数日後、裁判官は被告人を無罪放免にした(p186)
性奴隷にされ訴えたら殺された少女。ダッチワイフにいたずらした隣人をボコボコにした男。妻に殺されたのか自殺したのかわからない男。そうした社会の歪曲した矛盾が裁判所に集まってくるのです。裁判所は怖い。
シーラッハさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・正当防衛は攻撃されたとき、あるいはその直前にしか認められないのです。あなたの場合、隣人の攻撃から時間が経っていますから、もはや正当防衛法の範疇での防衛行動とはいえません。あなたが被害者に対しておこなったのは復讐に当たります(p77)
・女性の気を引こうとしてありとあらゆることをした。超高級車を買い、クラブに足繁く通い、シャンパンをはじめとした飲み物をおごってみたが、うまくいかなかった(p96)
【私の評価】★★★☆☆(75点)
目次
「参審員」
「逆さ」
「青く晴れた日」
「リュディア」
「隣人」
「小男」
「ダイバー」
「臭い魚」
「湖畔邸」
「奉仕活動(スボートニク)」
「テニス」
「友人」
著者経歴
フェルディナント・フォン・シーラッハ(Ferdinand von Schirach)・・・1964年ドイツ、ミュンヘン生まれ。ナチ党全国青少年最高指導者バルドゥール・フォン・シーラッハの孫。1994年からベルリンで刑事事件弁護士として活躍する。デビュー作である『犯罪』(2009)が本国でクライスト賞、日本で2012年本屋大賞「翻訳小説部門」第1位を受賞した。その他の著書に『罪悪』(2010)、『コリーニ事件』(2011)、『カールの降誕祭(クリスマス)』(2012)、『禁忌』(2013)、『テロ』(2015)、『珈琲と煙草』(2019)、Nachmittage (2022)などがある。
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