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格付会社の真の姿を描写した「トリプルA小説格付会社(上・下)」黒木亮

2020/09/25公開 更新
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【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

 格付会社(債券格付け)とは、国債や社債などの返済能力をランク付けしている会社です。例えば、トヨタの債券はトリプルA(Aaa)投資適格。一方、ソフトバンクの債券はBa3で著しい信用リスクと投機的要素があるとされています。


 これは会社を評価しているのではなく、あくまで債券が期日までにちゃんと償還されるかどうかの確実性を示したも。ただし格付会社は、これらの格付けはデータに基づく科学的なものではなくあくまでアナリストの意見でしかないと逃げ道を作っています。


・格付けとは、科学的なものでもなければ、公正正大なものでもありません。これはあくまで格付機関の意見、つまりアナリストの意見でしかないのです(ムーディーズ・ジャパン代表(1997年6月))(上p1)


 面白いのはこうした格付会社が何をしてきたのか、ということでしょう。リーマンショックでは、リスクの高いサブプライムローンを束ねた債券に対し最上級の『トリプルA』を与えていました。また、手数料を取る「依頼格付け」と無料の「勝手格付け」とでは「勝手格付け」は低めになると言われています。「依頼格付け」が年間500万円程度の手数料が得られるのに対して、「勝手格付け」格付会社が勝手にやるものなので、手数料が入らないのです。


 また、ムーディーズが投機的等級に格付けした日本企業25社の長期債券は一社もデフォルト(債務不履行)を起こしていないとの記載があり、全世界ベースでは、ムーディーズが投機的等級に格付けした企業のデフォルト率は、1970年以降の平均で11.4%、1990年前後をとると20%としています。


 それ以外にも、リーマンショックで、格付業界の最大企業であるムーディーズが、リーマンの格下げの可能性に言及したのは、破綻するわずか三営業日前だったとか、2000年代後半にムーディーズが日本の国債が国債の借換えができなくなるだろうと予想していたなど、格付会社が、評価する会社から金をもらって評価する難しさ、業界の理想と矛盾を教えてくれるのです。


・証券化において、発行体が目指すものは何だ?・・・彼らが考えることは二つ。複雑な金融技術を用いて、投資家を判断不能にすること。もう一つは、リスクとリターンの関係をカモフラージュすること(上p205)


 格付業界というものの姿は、結局はそこで働く人の権力闘争でだれが偉くなるのか、ということだと思いました。理想を追求すれば、格付け評価が厳しくなり顧客は減る。評価を甘くすれば顧客は増え儲かるのです。小説としてはドキドキを入れにくいテーマでしたが、格付業界の雰囲気が伝わってきました。


 黒木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・格付は、株や不動産のマーケットが最悪になるという、いわば土砂降りの雨の中で、持っている傘が役に立つかどうかを評価するものだ(上p64)


・昨年(2001年)12月に破綻した米国のエネルギー企業エンロンは、3500以上のSPEを使って不良債権をバランスシートから外す粉飾を行っていた(下p101)


・結局、ボールソンは、リーマンを見捨てたというわけだ・・・まあ、頭金も要らない、所得証明も要らない、物件を差し出せば返済義務もないなんてサブプライムローンを束ねて証券化して、『トリプルA』だなんていって売って、売れ残りもごっそり抱えてたんだから、いつかは破綻する運命だったんだろうね(上p16)


・仕事はできないが英語だけはできる「バナナ人間」(外見は有色人種だが、中身は白人)(上p43)


▼引用は、この本からです

黒木亮 、日経BP


【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

第一章 金融開国
第二章 勝手格付け
第三章 運命の子
第四章 ストラクチャード・ファイナンス
第五章 格担(かくたん)誕生
第六章 金融危機
第七章 CDS登場
第八章 外資へ
第九章 生保格下げ
第十章 NINJAローン
第十一章 CDOバブル
第十二章 日本版サブプライム
第十三章 ドミノ倒し



著者経歴

 黒木 亮(くろき りょう)・・・1957年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三和銀行に入行。1988年から三和銀行ロンドン支店で国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。その後、大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人でプロジェクトファイナンスに従事。2000年に国際金融小説『トップ・レフト』で作家デビュー。2003年7月に退社し、専業作家となる。


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