「ザ・原発所長(上・下)」黒木 亮
2020/09/14|

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【私の評価】★★★★☆(87点)
内容と感想
■東日本大震災で福島第一原子力発電所長だった
吉田 昌郎(よしだ まさお)氏の人生を
小学校時代から追った一冊です。
関西人であり、俺らの親分と言われた
吉田所長という人間を
浮かびあがらせようとしたのでしょう。
しかし、私には東京電力という
組織の雰囲気が伝わってきました。
例えば、福島第一原子力発電所の
外部電源供給のために6系統作られている
送電線が、一部で鉄塔を共用していたり、
1カ所の変電所から供給されている。
そもそも福島第一原子力発電所の
敷地高さは5~10メートルに削られて
造成されているのです。
東京電力の設備の設計に対する思想が
そのまま反映されていると感じました。
・福一は、9キロメートル離れた首都電力猪苗代電力所新福島変電所から大熊1~4号線、夜の森1、2号線という六本の高圧線を引き、それぞれ1~6号機用の電力を受けている。大熊3号線と4号線は独立した鉄塔を使っているが、大熊1、2号戦と夜の森1、2号線は、二つの線で一つの鉄塔を共用している。「落雷なんかで鉄塔に障害が起きると、二つの線がいっぺんに使えなくなるから怖いんだよなあ」(下p121)
■面白いところは、吉田 昌郎氏が45歳のとき、
東京電力福島第二原子力発電所2号機の
蒸気タービン定期検査延長の申請を出し忘れる
という大事件を起こしていることでしょう。
吉田 昌郎氏は懲罰委員会で、
「けん責」という社内処分を
受けているのです。
しかし、その後47歳で、本店に栄転し、
原子力管理部グループマネージャー。
52歳で原子力設備管理部長(執行役員)、
55歳で福島第一原子力発電所長(執行役員)と
順調に出世し、56歳で東日本大震災を迎えます。
40歳から電事連に4年間出向しており、
原子力部のエースであったためか、
社内処分の影響はまったくなかったのです。
東京電力の人事に対する思想が
そのまま反映されていると感じました。
・首都電力が奥羽第一原発4号機(大熊町)の蒸気タービンの定期検査延長の申請を国に出し忘れ、同タービンを約2週間、無認可で運転していた問題・・・常務取締役(厳重注意)、取締役(同)、原子力管理部長(同)、宮田取締役奥羽第一原発所長(けん責)、同副所長(訓告)、富士祥夫(吉田 昌郎)同第一発電部長(けん責)(下p15)
■この本のすごいところは、
関係者へおの徹底した取材をもとに
書いていると伺われることです。
それゆえに、ノンフィクション小説
という形でしか書けなかった
のだと思います。
そしてこの本の残念なところは
朝日新聞出版から出版している
ことでしょう。
それゆえに、編集の段階で内容に
角度が付けられているのではないかと
疑う人が多いのではと思うからです。
黒木さん、
良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・(東北電力の女川原子力発電所)「敷地の高さは14.8メートルあるそうや。平井弥之助ちゅう元副社長が、敷地の高さは絶対に15メートルないとあかんゆうて、社内の反対派を押し切ったそうや」・・・「やっぱり津波のことが頭にあったわけか?」「うん。平井氏の実家の近くに千貫神社ゆうのがあって、そこは今の海岸線から7キロ以上内陸にあるんやけど、仙台藩の記録によると、慶長津波はそこまで来たっちゅうこっちゃ」(上p258)
・DG(ディーゼル発電機)が地下一階にあるって、おかしいと思いませんか?しかも海側にあるタービン建屋の」・・「実は俺も本店にいたとき、この話を何度かしたことがある。けれど、『来るか来ないか分からない津波のために、余計な金なんかかけられるか』って、もうまるで狼中年扱いだ」(上p284)
・リーディングカンパニーのうちが何かをやると、ほかの電力会社もみんな同じように対策を打たなきゃならなくなるだろうし・・・。しかも、15.7メートル(の津波)なんていう数字を公にしたら、地元は大騒ぎになるだろうなあ(下p112)
・首都電力の社員は、原発や土木に関して本当のところは分かっておらず、ふんぞり返ってメーカーに工事や機器を発注しているだけなので、猿電車の猿と同じだといわれていた(上p235)
・平成の初め頃まで90日間かけていた定期検査の日数を短縮し、今や40日前後が当たり前になっていた(下p10)
・原子力発電は水力発電と並ぶ低コストの電力源で、稼働率が1%上昇すると、首都電力の半期決算が約30億円改善する(上p150)
・資源エネルギー庁の審査員は、原子力のことではなく、どうでもいい文章の表現にばかりケチを付けてくる。先日も、「配管等」と書いたら、「等」というのは何だ、「等」のリストを作れといわれ・・・わざわざリストを作った(上p217)
・サブコンはその名のとおりゼネコンのサブ(下)に入る中堅建設会社で、工事の「前捌き」が仕事である・・・地元の有力者、業者、暴力団、エセ同和などが群がってくる。近隣対策費をばら撒いて、それらを上手く捌き、ゼネコンに累が及ばないようにする仕事が「前捌き」だ。その過程で、裏金も作られ、ゼネコンや電力会社に還元される(上p243)
・首都電力では自民党の政治資金団体である国民政治協会に対し、社長は30万円、副社長は24万円、常務は12万円、執行役員は7万円を寄付することになっており、年に一度、給与から天引きされる(下p134)
・「もんじゅ」の西村成生動燃元次長に限らず、原発がらみでは不審死や自殺が多い。原発反対派の運動家やジャーナリストが、ひき逃げされたり、何者かに刺されたり、猟銃が暴発したり、動機不明の自殺をしたりという事件は枚挙にいとまがない(下p300)
▼引用は、この本からです
黒木 亮 、朝日新聞出版
【私の評価】★★★★☆(87点)
目次
第一章 金甌(きんおう)の子
第二章 ブルーバックス時代
第三章 ローアウト精神
第四章 阿武隈の熊
第五章 コストカット推進
第六章 二つのジンクス
第七章 定期検査
第八章 裏街道の男
第九章 内部告発
第十章 東京地検
第11章 中越沖地震
第12章 運命の日
第13章 ノブレス・オブリージュ
著者紹介
黒木 亮(くろき りょう)・・・1957年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三和銀行に入行。1988年から三和銀行ロンドン支店で国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。その後、大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人でプロジェクトファイナンスに従事。2000年に国際金融小説『トップ・レフト』で作家デビュー。2003年7月に退社し、専業作家となる
関連書籍
「レベル7福島原発事故、隠された真実」東京新聞原発事故取材班
「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将
「原発再稼働「最後の条件」:「福島第一」事故検証プロジェクト最終報告書」 大前 研一
「原発と大津波 警告を葬った人々」添田 孝史
「FUKUSHIMAレポート~原発事故の本質~」
「ザ・原発所長(上・下)」黒木 亮
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