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「原発再稼働「最後の条件」:「福島第一」事故検証プロジェクト最終報告書」 大前 研一

2013/03/20公開 更新
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原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書


【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

原発事故の原因は電源の喪失

東京電力の福島第一原子力発電所の事故から、もう2年がたちました。あの事故は何だったのか。それに対してこれから何をすべきなのか。それを考えるために関連書籍を10冊くらい購入しました。まず、ご紹介するのは元原子力発電技術者の大前研一氏がまとめたこの一冊となります。


この本の特徴は、他の書籍のように作業員がこうすればよかったのに・・・といった細かいところにはあまり触れていないことです。何が起こったのかという事実と、どうすればそれが防げたのか、これからどうするのか、という構成となっています。未来に向けて考えるという点で、コンサルタントがまとめると、こうなるのでしょう。


まず、原発の事故については、全交流電源の長期喪失や、全交流電源と全直流電源の同時喪失といった事態が、まったく想定されていなかったことを指摘しています。福島第一原発の安全性評価報告書では地震に対するリスクを、<全国的に見ても地震活動性の低い地域の1つにあたっており、特に原子炉敷地付近は、地震による被害を受けたことがない>とし、津波に対するリスクについても<チリ地震津波時(1960年)最高3.1m>としているのです。


1990年8月30日付で原子力安全委員会が決定した、「発電用軽水炉型原子炉施設に関する安全設計審査指針」・・そこには、こう書かれています。「長期間にわたる全交流動力電源喪失は、送電線の復旧又は非常用交流電源設備の修復が期待できるので考慮する必要はない」(p116)

指針では外部電源喪失を想定していない

このことから根本的な事故の原因は、「電源の喪失であった」としています。絶対に電源を喪失してはならない、ということが大事なのに、日本の安全設計審査指針では電源喪失はない、という前提だったのです。電源の確保について、「バッテリーが機能している8時間の間に、交流電源を復旧する。復旧した交流電源からバッテリーへ充電する」という1つの手段しか用意されていなかったのです。


そのため交流、直流とも電源を失った現場の作業員は、車のバッテリーをつないで直流電源を確保したりしています。それしか、打つ手がなかったのです。戦略の失敗は、戦術ではカバーできないという典型的な例だと思います。


最大の教訓は、「多様性と多重性を持った電源確保」の重要性です。同じ仕様や同じ原理で動くものを複数用意する(多重化)だけでは、今回のように、すべて一緒に津波にやられてしまう可能性があります。(p101)

安全を謙虚に考えていなかった

同じ津波の被害を受けながら、安全に冷温停止した東北電力女川、日本原電東海第二との比較も出てきます。これらの発電所は、津波対策があったこと、複数の変電所から外部電源を供給しているなど、東京電力よりも安全への配慮が見られます。こうした配慮により、紙一重で福島第一のような重大事故を回避できたのです。


なお、隣の福島第一原発6号機では、非常用ディーゼル発電機(D/G)が使用できました。その理由は、6号機の設置場所が、1~4号機よりも高い海抜13.2mにあり、さらに6号機の発電機が1階に設置されており、さらにたまたま空冷式で海水系ポンプを冷却源としなかったことで助かったのです。


大前氏は40年前に日立製作所で原子炉の設計に従事していました。その頃から原発関係者は、「いかに周辺住民を説得するか」しか考えていなかったというのです。本来は原発は本当に安全なのか、自分がたちが想定していない事態はないのか、といったことを謙虚に考えることこそ、最も重要な仕事であり、それを怠っていたとしています。


こうした事実を理解したうえで、大前さんが言うように、私たちは冷静な判断をしていかなくてはなりません。以前は、津波について議論できなかった。今は、主要エネルギー源としての原子力停止による電気料金値上げによる経済悪化を議論できていません。本当に日本の将来が心配になる一冊でした。大前研一さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・運転員は緊急時の手順通り、非常用復水器の弁(バルブ)を開閉していました。ところが津波で交流・直流電源が失われたために、弁の開閉ができなくなってしまいました。さらに問題は、復水器の弁が「フェイル・クローズ」といって、電源が失われた場合は「閉」となる設計になっていた(p155)


・事故直後から2か月ぐらいの間、日本は"無政府状態"に陥っていた。米軍と米国のNRC(原子力規制委員会)が実質的に官邸にも指図をしていた。「石棺」計画、窒素の注入、大規模避難、浜岡原発の停止などは、外国政府の指示であったと思われる。(p161)


・現場と東電、原子力安全・保安院、そして首相官邸の間でどのような情報共有がなされていたのか、メルトダウンを2か月にわたって隠蔽したのは誰なのか、どこでどんな情報が妨害されたのかといった流れを明らかにし、適切なメッセージを発信できなかった原因を解明していかなければなりません(p133)


・原発は、再稼働しても、もはや民間企業での運営は無理なので国営化することとし、発電と核燃料サイクルを併営するしかないでしょう。(p164)


▼引用は下記の書籍からです。
原発再稼働「最後の条件」: 「福島第一」事故検証プロジェクト 最終報告書
大前 研一
小学館
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【私の評価】★★★★☆(84点)


目次

第1章 「地震」と「津波」は原発にどんなダメージを与えたか?
第2章 福島第一原発はどのようにして過酷事故(シビアアクシデント)に至ったか?
第3章 メルトダウンした原子炉と生き残った原子炉の分かれ道
第4章 福島第一事故からどんな「教訓」が得られるか?
第5章 今後はどんなアクシデント・マネジメント(AM)体制が必要か?
第6章 再稼働した大飯原発3、4号機の安全対策を検証する
第7章 なぜ福島第一原発1号機だけが事故の進展が早かったのか?



著者経歴

大前 研一(おおまえ けんいち)・・・1943年生まれ。経営コンサルタント。マサチューセッツ工科大学博士。日立製作所、マッキンゼー日本支社長を経て、1992年に「平成維新の会」を設立。1994年マッキンゼーを退職し、「一新塾」「アタッカーズ・ビジネス・スクール」を設立。現在、ビジネス・ブレークスルー大学学長、韓国梨花女子大学国際大学院名誉教授、高麗大学名誉客員教授、(株)大前・アンド・アソシエーツ創業者兼取締役、株式会社ビジネス・ブレークスルー代表取締役会長、カリフォルニア大学ロサンゼルス校公共政策大学院教授、スタンフォード大学経営大学院客員教授等を務める。


福島原発事故関連書籍

「レベル7福島原発事故、隠された真実」東京新聞原発事故取材班
「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将
「原発再稼働「最後の条件」:「福島第一」事故検証プロジェクト最終報告書」 大前 研一
「FUKUSHIMAレポート~原発事故の本質~」
「ザ・原発所長(上・下)」黒木 亮


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