「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将
2013/04/07公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(90点)
要約と感想レビュー
福島第一原発事故の発生から、FUKUSHIMA50と呼ばれる決死隊が編成されるまでの現地の状況を再現した一冊です。およそ6mの津波しか想定していない原子力発電所に15mの津波が来れば、これはもうどうしようもない。そうした中で、現場の技術者はその場にあるもので、なんとかしようと努力したことがわかります。
不眠不休のなか、原子炉への注水、ベントの準備、本店や官邸との対応等、現場は限界に近かったのです。電力がなければ、中央制御室にいても操作も、確認もなにもできない。炉心の推移や圧力データも、本当に正しいデータなのかどうかわからないのです。1号機が爆発する。敷地内の線量はどんどん増えてくる。次に3号機が爆発する。そうした先が見通せない中、最後に残った人たちは、命を懸けていたのは間違いありません。
現場では、「ここに俺たちがいる意味ってあるんですか。」という意見もありました。ただ、「われわれが中操から退避するということは、もうこの発電所の地域、まわりのところをみんな見放すことになる。だから、俺たちは、ここを出るわけにはいなかい」そういう意味で、撤退はできなかったのです。
・トイレは水も出ないから悲惨ですよ。流すこともできませんからね。・・・とにかく真っ赤でしたよ。みんな、血尿なんです・・・誰もが疲労の極にありましたからね。およそ六百人が避難して、免震重要棟に残ったのは「六十九人」だった。(p278)
こうした状況でベント作業を進める中で、当時の総理大臣である菅直人が現場にヘリコプターで向かいます。ベントとは放射性物質を大気放出することですから、首相を被爆させるわけにはいかないのでベント作業を中断するだけではありません。総理一行に、吉田所長はマスクや防護服などの装備を本店で用意するように依頼しましたが、本店は、"現場でやってください"と言うのです。"ふざけんじゃねえ"と、東電内部では大喧嘩になったというのです。
また、海水注入している中で、官邸と調整していた東電の武黒副社長は「海水注入を止めろ」と現場に指示します。現場は原子炉を冷却するために海水注入を止めるわけにはいきません。「とにかく止めろ」「なんでですか。入れ始めたのに、止められませんよ」「おまえ、うるせえ。官邸が、グジグジ言ってんだよ!」と、大喧嘩になっていたのです。
太平洋戦争と同様に戦略(基本設計)の失敗は、戦術や精神力や努力ではカバーできないことがよくわかりました。事前の準備がなければ、現場がどんなに頑張っても、どうしようもないことがあるのです。(首相が作業中に来所するのもどうしようもない)福島第一原発の現場がどうなっていたのかを知るためには、ベストの一冊ではないでしょうか。門田さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・「最後だから、写真を撮りましょう」・・「縁起でもないから、やめろ」・・・「私たちは主に格納容器の圧力と原子炉水位計のデータをとるのが仕事でした。・・・そういうなかで、いつが"最後"になるかもわからないので、私はみんなの写真を撮っていったんです(p228)
・現場に向かう時は必ず、私の許可の上で、制限時間は"二時間"とする。そして単独行動ではなく、必ずペア、すなわち二人で行動すること。・・・何時に出発したか、そして戻ったかを、必ずホワイトボードに書くこと(p61)
・「行方不明四十名!」そのあと緊対室に轟いた声に、吉田は凍りついた。(これで、俺はここから生きて出るわけにはいかない)(p239)
▼引用は下記の書籍からです。
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【私の評価】★★★★★(90点)
目次
第1章 激震
第2章 大津波の襲来
第3章 緊迫の訓示
第4章 突入
第5章 避難する地元民
第6章 緊迫のテレビ会議
第7章 現地対策本部
第8章 「俺が行く」
第9章 われを忘れた官邸
第10章 やって来た自衛隊
第11章 原子炉建屋への突入
第12章 「頼む!残ってくれ」
第13章 一号機、爆発
第14章 行方不明四十名!
第15章 一緒に「死ぬ」人間とは
第16章 官邸の驚愕と怒り
第17章 死に装束
第18章 協力企業の闘い
第19章 決死の自衛隊
第20章 華族
第21章 七千羽の折鶴
第22章 運命を背負った男
著者経歴
門田 隆将(かどた りゅうしょう)・・・1958年、高知県生まれ。中央大学法学部卒業後、出版社に勤務。雑誌メディアを中心に、政治、経済、司法、事件、歴史、スポーツなどの幅広いジャンルで活躍する。2008年3月、出版社を退職し、ジャーナリストとして独立
福島原発事故関連書籍
「レベル7福島原発事故、隠された真実」東京新聞原発事故取材班
「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日」門田 隆将
「原発再稼働「最後の条件」:「福島第一」事故検証プロジェクト最終報告書」 大前 研一
「FUKUSHIMAレポート~原発事故の本質~」
「ザ・原発所長(上・下)」黒木 亮
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朝日新聞が、故吉田昌郎元福島第一原発所長の調書を暴露しました。公表しないという前提で調書が取られれているのに、朝日新聞らしい。
さらに、朝日新聞は「事故直後に第一原発事故現場にいた所員が吉田所長の命令に背いて、第二原発に撤退してしまった」していますが、私にはそう読めませんでした。
吉田所長は、とにかく「避難」するよう指示したのです。その中で福島第二発電所に避難した人がいたというだけなのです。
あの状況で、現場に留まっていることがありえないのです。命令に背いたはずがないし、そんなことは書いていない。朝日新聞は、とんでもないねつ造会社だと思います。
この一件だけでなく、過去に同じようなことをしつづけてきたことを考えれば、これはもう間違いではなく、会社として確信を持ってこうしたことをしていると思います。