「工学部ヒラノ教授」今野 浩
2013/04/08公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
東京工業大学、中央大学で工学部教授を経験した今野教授の大学の実態解説です。基本的に工学部は、マジメなのでしょう。頼まれたら断らないから、授業、実験、試験に学内の雑用もある。それ以外の時間で、自分の研究をやるのです。雑用の中で成果を出すためには、雑用を少なくするか、人に手伝ってもらうしかないのです。
忙しい教授は、技官や、修士・博士論文を書かなくてはならない学生をタダで使って、研究を進めていきます。ただし、助手は教官(研究者)なので、その人の研究が優先であり、無理に仕事をやらせることはできないらしい。そして教授は一国一城の主であって、講座の中では絶対的権力を持っています。人事から予算まで、最終判断を下すのは教授なのです。
・私立大学の場合は、1人の教官が面倒を見る学生数は国立の約3倍、講義負担も2倍以上である。国際水準の研究者を目指す者にとって重要な事は、研究時間が確保されていることである。週に6コマの講義を受け持ち、10人以上の卒研生の面倒を見ていたら、研究に割くことができる時間は週末だけになってしまう(p21)
大学運営では、1991年の大綱化で一般教育(人文、社会、自然、外国語、保健体育)が廃止されたことが大きい変化です。そして大学院重点化による博士の大量生産が、大変換であったようです。
つまり、文部省の「大学院重点化」構想により大学院の学生定員を大増員したことにより、2万人の博士浪人が発生したというのです。「人間科学」とか「国際コミュニケーション」とか変な学科が増えたなあ・・・と思っていましたが、そのような背景があったのですね。学生のためというよりも、文部省の理想の構想に対し、大学が現実的に対応した結果だったのでしょう。
・大綱化による教養教育の空洞化。大学院重点化による学部教育の軽視と、オーバードクターの大発生・・・このような政策を推し進めた文部省と、それを受け入れた大学は、将来ある若者にひどいことをしたものである(p93)
文部省の天下りについても言及しており、一度業績も研究成果もない文部省の天下り教授を受け入れると、そのポジションが権益化して次々とノンキャリ官僚を押し込んで来るのだというのです。科研費を取る秘訣は、すでにやってしまった研究を、あたかもこれからやるように書けばいいなど、大学の教授とは、民間企業からはわかりにくい世界に住んでいると思います。
給料は安くても研究が好きだったり、学生を教えるのが好きであれば、面白い仕事なのかもしれません。今野さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・[工学部の教え]
第1条 決められた時間に遅れないこと(納期を守ること)
第2条 一流の専門家になって、仲間たちの信頼を・・・
第3条 専門以外のことには、軽々に口出ししないこと
第4条 仲間から頼まれたことは・・・断らないこと
第5条 他人の話は最後まで聞くこと
第6条 学生や仲間をけなさないこと
第7条 拙速を旨とすべきこと(p98)
・日本の工学部では、たとえ新設でなくても、100%研究・教育に専念できるのは(思いやりのある教授のもとで)助手として過ごす数年間だけで、助教授に昇進した途端に大量の雑用が降ってくる(p32)
・「国際A級大学」を目指した筑波大学の計算機科学科(情報学類)が、ありきたりな学科になってしまったのは、良くも悪くも"民主的な"組織だったためである。(ヘボ)船頭が多かったため、船が山に登ってしまった(p33)
・工学部平(ヒラ)教授が年に2~3回海外出張するのは、自分の存在をアピールするため、超一流の研究者のアドバイスを受けるため、そして一流研究者のアイディアを盗むためである(p79)
・「研究活動」なるものを研究している「研究研究家」(Researcher on research)によれば、2つの研究テーマを持っているときに、研究者の生産性が最も高まるということだが、ヒラノ教授の場合にもその法則が当てはまった(p83)
・100%完璧を期すと100時間かかるが、98%なら50時間で済むような場合には、まず98%を目指し、余った時間で残り2%に取り組むことだ(p100)
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
1 工学部大教授と秘書
2 大教授と秘書:海外編
3 荒野の教育・雑務マシーン
4 大岡山教授と六本木秘書
5 2人目の秘書
6 吸い上げられた秘書ポスト
7 機々械々な人たち
8 看板教授と進駐軍事務官
9 3人目と4人目の秘書
10 "利益相反"本部長
11 ギネス・コンビ
12 名誉教授というゾンビ
著者経歴
今野浩(こんの ひろし)・・・1940年(昭和15年) - 2022年。東京大学工学部応用物理学科卒業、スタンフォード大学大学院オペレーションズ・リサーチ学科修了。筑波大学電子・情報工学系助教授、東京工業大学大学院社会理工学研究科教授等を経て、中央大学理工学部経営システム工学科教授
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