「工学部ヒラノ教授の事件ファイル」今野 浩
2013/04/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(88点)
要約と感想レビュー
東京大学→スタンフォード大学→筑波大学→東京工業大学→中央大学と渡り歩いた著者が教える大学の秘密です。これまで読んだ大学ものの中で、もっともリアルで、わかりやすい一冊でした。「白い巨塔」ではありませんが、日本の大学では一度教授になってしまえば、研究費さえ引っ張ってこれるのであれば、ゼミの王様として自由に研究をしていくことができます。そういう意味では准教授は、教授になるために研究・教育実績を積み上げ、大学内の雑務をこなしているわけです。
一方でひどい待遇でこき使われているのが、非常勤講師です。非常勤講師の時給が4000円程度であるのに対して、教授に支払われている給与を週5コマで割ると、時給2万円以上にもなります。さらに教授となると、テレビに出たり、ゲームを監修したりしてアルバイトで稼いでいる人もいます。外部から資金を引っ張ってこれる人なら、日本の大学の教授は魅力的な職業なのかもしれません。
・国立大学という組織では、学長以外には交際費は一切付かない。・・・長い間自腹を切って賓客を接待してきたヒラノ教授は、教授になって8年目に、50万円の奨学寄附金を頂くようになって、初めて接待問題から解放された(p60)
また、最近、報道されるようになったパワハラ・アカハラ(アカデミック・ハラスメント)についても書いてあります。自分のゼミの学生を優遇する教授や、他人の論文を盗作する教授もいるのが実態です。昔から、変な教授はどこにでもいるようです。社会に出ていない分だけ、民間に比べて変な人が多いのかなあ、などと思いました。
・ライバル教授の研究室に所属する学生に対しては、絶対にAを出さないG大トンデモ教授。学生が提出した博士論文を、1年以上放置したS大の無責任教授。研究費がないという理由で、学生のアルバイト代を踏み倒した、T大の吝嗇(りんしょく)教授(p123)
研究は何年も継続されるのに会計処理は単年度で行うので、毎年予算を使い切るのに苦労しているようです。民間企業でも同じだと思いますが、わざと手続きを面倒くさくして、資金をプールでもしようものなら税務調査や会計検査院の餌食になるのでしょう。
ネタの事例が多すぎて、頭が混乱してきました。まだ、私は大学生活には適応できないようです。「大学」の実態に興味のある人におすすめします。今野さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・"滞在費丸儲け"事件は、福岡出身の東工大助教授が九州大学に出張する際に、実家や友人の家に泊まるようなときにも発生する。地方に実家がないヒラノ教授は、残念ながらこのような恩典に浴する機会はなかった(p16)
・東電・福島第一原発事故のあと、東電や原子力関係団体から研究費をもらっていた東大教授・東工大教授がやり玉に挙がった。しかし3000万円ならともかく、たかが50万円や100万円の奨学寄附金で買収されることはあり得ない。(p127)
・流動性の高いアメリカでは、二流大学の一流教授は、たちまち一流大学に引き抜かれてしまう。また業績が上がらない二流教授は解雇され、三流大学に流れていく(p39)
・アメリカの大学では、多額の研究費を取ってきた教授には、給与を増額した上に、教育負担や雑用を減らす方策が講じられている。(p141)
【私の評価】★★★★☆(88点)
目次
自宅潜伏1週間
経歴詐称
服務規程違反
幻の奨学寄附金
単位略取
違法コピー
大学という超格差社会
セクハラとアカハラ
研究費の不正使用
論文盗作とデータの捏造
領土略奪事件
キャンパス殺人事件
原発事故
著者経歴
今野浩(こんの ひろし)・・・1940年生まれ。東京大学工学部応用物理学科卒業、スタンフォード大学大学院オペレーションズ・リサーチ学科博士課程修了。Ph.D.、工学博士。筑波大学助教授、東京工業大学教授、中央大学教授等を経て、東京工業大学名誉教授
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