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「メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫」黒木 亮

2023/07/31公開 更新
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「メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫」黒木 亮


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

国際金融の世界に入り込む

黒木亮さんの本はすべて読んでしまおうと思っているので手にした一冊です。黒木さんは銀行マンとして13年間、主にロンドン支店で中東向け国際金融に取り組みました。本書はその仕事の記録となっています。国際金融とは、M&Aやプロジェクトへの国際協調融資、企業への融資、貿易金融などで各国の商業銀行や投資銀行や証券会社や商社がしのぎを削っているのです。


当時の三和銀行ロンドン支店国際金融課には、融資案件を座って待っているだけの人ばかりであったという。そうしたぬるい環境に、国際金融のことを何も知らない20代の著者が東京からやってきたのです。著者の担当地域は、中東でした。中東はリスクが高く、これまで案件の実績のない地域です。どうせ何もできないのだから、と形だけ中東担当にされたのは明らかでした。元々国際金融をやりたいと思っていた著者は、週末に出勤して、オフィスのキャビネットに格納されている案件ごとの稟議書、テレックス、ファックス、契約書などを読んで取引のやり方を覚えたという。


・投資銀行の英国版であるマーチャント・バンク・・元々、毛織物、砂糖、金、小麦といった商品を扱っていた大商人が、自己の信用力を活用し、貿易金融を提供することから金融業に参入したもの(p27)


国際金融の案件を組成する

著者は自ら案件を組成・販売しようと中東の情報を収集していきました。案件を組成するためには、確実に返済できるであろうことを同じ金融機関のプレーヤーに納得させ合理的な金利を設定しなくてはなりません。組成して完売すれば称賛されますが、失敗すれば笑いものになるだけなのです。


特に三和銀行では販売不調で組成が失敗すれば、その案件が完済になるか、流通市場で売却するまで、ほかの案件引受けは禁止となったという。そのため、案件を組成するより、案件が来るのを待っている人が多かったのでしょう。米国の銀行では、組成に失敗したら不足分は自社で抱え込み、ほかの案件に取り組むことができるくスタイルで著者は羨ましかったとしています。


逆に言えば米国の銀行は、小さい失敗には目もくれず短期で利益の最大化を目指しているのです。そして大きな儲けが出ればボーナスをがっつりもらって、後で不調になったとしてもその時には自分はいない、というスタイルであり一長一短なのかもしれません。


著者が自ら案件を組成しようとした理由は、企業に500万ドルの融資について案件の組成に成功すれば、利率1%として5万ドルの利鞘に加えて10万ドル程度の主幹事手数料が入ってくるからです。著者は、自分が生きた証が残るような仕事がしたかったのです。
 

・トルコの英字日刊紙「ターキッシュ・デイリー・ニューズ」を読んだり・・日々のトルコ情勢やトルコという国への理解が深まり、顧客への食い込みや国際審査部との議論で非常に役に立った(p139)


「バンカブル」なのかどうかを判断

著者はサウジアラビア、トルコ、ジンバブエなど各国の中央銀行、大使館、商社、地元の銀行などから情報収集を行うために旅を続けました。その国、企業、事業を分析し、タイトルの「バンカブル」なのかどうかを判断するのが、仕事なのです。サウジアラビアでは航空機を担保にした融資を実行しています。トルコではタバコの在庫を担保にして融資を実行しています。日露戦争の戦費調達のために日本政府が関税収入を担保に外債を発行したのと同じ考え方なのでしょう。


トルコへの融資を検討しているときには湾岸戦争が勃発して、湾岸戦争がトルコ経済にどのような影響を与えるのか分析し、トルコへの融資を決断しています。トルコの銀行への融資で引受グループ6社のうち2社の社内承認が取れていない状況で、社内承認が取れると判断し、融資契約を決断したこともあります。また、ロンドンの事務所ではIRAのテロ爆破事件に遭遇し、背中や腕を切り、九死に一生を得ました。著者の国際金融の経験は波乱万丈なのです。


・葉タバコ商社は、葉タバコ価格が上昇すると予想したときは、在庫を抱え込んで相場を張ったり・・その数年後、かなりの数の葉タバコ商社が、相場の博打に失敗して倒産した(p134)


国際金融の世界

私も10年ほど海外事業に携わっていましたので、融資側(レンダー)の仕事の詳細がわかり興味深く読めました。著者が自分の仕事と人との出会いについて、これだけ詳細に書けるのは日記を書いていたからでしょう。私も日記やパソコンデータや苦しいときの職場の音声データがありますから、今のうちに何があったのか赤裸々に書いておいて、70歳くらいになったら、オープンにしていくのも面白いのではと思いました。


国際金融に興味のある方にお勧めの一冊です。この本でもよく出てくる国際的な金利指標であるロンドン銀行間取引金利(LIBOR)のドル建てが2023年公表廃止と聞きました。時代の流れを感じます。黒木さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ドイツの銀行はトルコに食い込んでいる・・ドイツとトルコは第一次世界大戦の同盟国で、約120万人のトルコ系移民がドイツに住んでいる(p183)


・当時、トーメンはイランに深く食い込んでおり、同社のエネルギー部門を率いていた武重勇蔵氏は「ジャパンズ・リアル・アンバサダー・トゥ・イラン」とイラン側から呼ばれていた(p212)


・ソ連崩壊・・日本の銀行や政府に対する返済はストップする一方で、アメリカやカナダに対する穀物輸入代金などはきちんと支払っている。・・・だいたいロシアのリスケ交渉がIMFと世銀の主導でおおなわれていることが問題だ。ロシアに対する債権を多く持っているのは、日本とドイツである(p288)


▼引用は、この本からです
「メイク・バンカブル! イギリス国際金融浪漫」黒木 亮
黒木 亮、集英社


【私の評価】★★★★★(90点)


目次

第1章 マイワード・イズ・マイボンド
第2章 航空機ファイナンスにしびれる
第3章 アフリカの夜明け
第4章 メイク・アンバンカブルズ・バンカブル
第5章 中東のサソリ
第6章 二重マンデート
第7章 爆破テロ事件
第8章 エマージング・マーケッツ
第9章 米銀との激突



著者経歴

黒木 亮(くろき りょう)・・・本名の金山雅之。1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。三和銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がける。2000年、『トップ・レフト』でデビュー。大学時代は競走部に所属し、箱根駅伝に2度出場、20kmで道路北海道記録を塗り替えた。


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