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国際資源ビジネスの最前線小説「世界をこの目で」黒木亮

2020/09/07公開 更新
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国際資源ビジネスの最前線小説「世界をこの目で」黒木亮


【私の評価】★★★★★(90点)


要約と感想レビュー

 三菱商事、三井物産、Shell社が関係した石油・ガス開発事業であるサハリン2などの資源ビジネスを描いた小説「エネルギー」を読んで、著者の黒木さんをもっと知りたくなって手にした一冊です。


 黒木さんのビジネス小説の特徴は、ほとんどが実際に起きたことを取材して、できるだけ現実に即して書いていることです。人や企業名は仮名にしていますが、一作品あたり1000万円以上かけて関係者への対面調査や現地調査を行なっているのです。綿密な調査から紡ぎ出される描写が著者の作品の特徴です。


・デビュー作が売れたといっても、単行本2万2千部で、入ってきた印税は418万円である・・・わたしのように一作書くのに500万円とか1000万円の経費をかければ、たちまち赤字になる・・・「平均的な」小説家たちがなぜ暮らしていけるかというと、配偶者が働いていたり、実家に居候したりしているからだ(p271)


 著者がこれまでに小説化した温暖化ガス排出権取引や福島第一原発事故についても、徹底した調査により事象の本質に迫っています。例えば、京都議定書では米国は7%の削減をするといって日本に6%を呑ませたのに、その米国は土壇場で議定書を離脱し、欧州は東欧のCO2削減を織り込んで目標8%の削減達成が容易だったのです。結果して世界のCO2の3%しか排出していない日本だけが、名誉のために中国や旧ソ連・東欧圏の排出権に金を支払うことになったのです。


 また、福島第一原発事故では、事故時に所長だった吉田氏がコスト削減の名のもとに安全対策費を切り詰めていたという運命の皮肉。単なる批判ではなく事実を把握したうえで、何が起こっているのか描写しようという姿勢が見えるのです。


・吉田(昌郎)氏は原子力設備管理部長時代に、福島第一原発の現場から上がってくる補修や保守点検作業を、コスト削減のために大幅に切り詰め・・・「亡くなった人を悪く言いたくはないが、安全設計を自分でゆるがせにしておいて、事故が起きたら想定外だといい逃れ、悲劇のヒーローになっているのは許せない」という声がある(p175)


 世界を旅しながら、現場を廻り、現実を把握し、小説家として経済的に独立している。純粋にうらやましいと思いました。著者の作品は小説という名を借りたノンフィクションビジネス書なのです。今後もフォローしていきます。黒木さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・クレジットカードは、海外ではあまり使わないようにしています。番号を盗られて、使われたりしますから。ホテルの支払いや買い物は可能な限り現金です(p92)


・欧米では「チェック(小切手)ジャーナリズム」と批判されるぐらい、取材相手に数千ドル単位の謝礼を払うことはざらであり、そういうものは当然税務署も認めている。一方、日本では新聞社はそういった謝礼は一切払わず、週刊誌などでも1~3万円程度である(p103)


・無罪判決を30件くらい出された著名な裁判官がおられますが、このお二人だけに無罪の事件が行っているわけではないはずです。すると本来、無罪になってしかるべき事件の数は・・・膨大な数の冤罪事件が生み出されている可能性もある。取材の中で、ある元裁判官の方は「無罪判決を一つ書くには膨大なエネルギーがいる。そんなエネルギーがあるんなら処理件数を上げたほうがいい」と、わりとさらっといわれた(p198)


▼引用は、この本からです
国際資源ビジネスの最前線小説「世界をこの目で」黒木亮
黒木 亮、毎日新聞出版


【私の評価】★★★★★(90点)


目次

第1章 世界をこの目で
第2章 ロンドンで暮らす
第3章 作品の舞台裏
第4章 作家になるまで、なってみて



著者経歴

 黒木 亮(くろき りょう)・・・1957年生まれ。早稲田大学法学部卒業。三和銀行に入行。1988年から三和銀行ロンドン支店で国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス等に関る。その後、大和証券英国法人、三菱商事英国現地法人でプロジェクトファイナンスに従事。2000年に国際金融小説『トップ・レフト』で作家デビュー。2003年7月に退社し、専業作家となる。


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