「ムラブリ 文字も暦も持たない狩猟採集民から言語学者が教わったこと」伊藤 雄馬
2023/08/01公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
タイの少数民族ムラブリ
ムラブリとは、タイ北部の山岳地帯に住む文字を持たない少数民族です。ムラは「人」,ブリは「森」。ムラブリは「森の人」という意味になります。ムラブリはもともと定住せず、森の中で竹とバナナの葉っぱなどを使って簡易テントをつくり、寝泊まりするノマド生活をしていました。
タイ国の政策により、ムラブリの多くは定住するようになっていますが、今も時々ぶらりとノマド生活をしているという。ムラブリは森の中で他民族との接触を避けて暮らしてきたので、タイでは「精霊」とも呼ばれています。著者は大学生のときに、ムラブリ語を聞いて、タイ語も話せないのにムラブリ語を話せるようになりたい!と思い、言語文化調査として現地に入っていたのです。
サル,リス,モグラ,ネズミなどの小動物が多い。ヘビは食べない。あとは竹虫。竹の中にいる幼虫で,炒めて食べることができる(p49)
ムラブリの特徴
調査してわかったムラブリのすごいところは、文字を持たないこと。数の言葉が1から10までしかないこと。物を持たないこと。食事は森で探すこと。森で寝泊まりすること。すべて自分だけで日常生活が完結するのです。原始時代の人間は、こうして単独生活していたのかもしれません。
個人が中心だからムラブリ語には家族、友達という単語がないという。そして一人なら感情を伝える必要がないので、表情があまり変わらないというのです。著者もムラブリでの生活に慣れると日本人から「何か怒ってる?」と聞かれることがあるという。
ムラブリ語には数詞が1から10までしかない。また,「4」には「たくさん」の意味にもなる。1,2,3,たくさん,の世界だ(p117)
ムラブリの自由気ままな生活
驚くべきことは、ムラブリとの交流で、著者の伊藤さんの人生も変わっていったということです。ムラブリと一緒に生活していくことで「なぜ家は必要なの?」「お金とはなんなのか?」「人間関係とは?」という疑問が浮かび上がってきたというのです。もともと集団生活に馴染めなかった著者は、なんと、2年で大学教員を辞めてしまい、フリーで言語文化を独立研究しているのです。
ムラブリの自由気ままな生活様式が、著者の日本人としての常識を破壊してしまったのです。確かに、衣食住さえなんとかなれば、生きていけるのです。伊藤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・意見を伝える場面になったとしても「わたしは本当に怒っていないんだよ,本当だよ」などの口上を必ず,しかも何回も伝える(p5)
・人間は,どうでもいい情報を交換し合うことで仲間意識を育むらしい。その最たるものが「あいさつ」なのだ(p101)
・ムラブリにはいかなる専門家もいない・・しかし,そうした一方で獲物はすべて平等に共有し,助けを求められればできる範囲で助ける(p158)
▼引用は、この本からです
伊藤 雄馬、集英社インターナショナル
【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
第1章 就活から逃走した学生、「森の人」に出会う
第2章 駆け出し言語学者、「森の人」と家族になる
第3章 ムラブリ語の世界
第4章 ムラブリの生き方
第5章 映画がつなぐムラブリ、言語がつなぐ人間
第6章 ムラブリの身体性を持った日本人
著者経歴
伊藤雄馬(いとう ゆうま)・・・言語学者、横浜市立大学客員研究員。1986年、島根県生まれ。2010年、富山大学人文学部卒業。2016年、京都大学大学院文学研究科研究指導認定退学。日本学術振興会特別研究員(PD)、富山国際大学現代社会学部講師、東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所共同研究員などを経て、2020年より独立研究に入る。学部生時代からタイ・ラオスを中心に言語文化を調査研究している。ムラブリ語が母語の次に得意。2022年公開のドキュメンタリー映画『森のムラブリ』(監督:金子遊)に出演し、現地コーディネーター、字幕翻訳を担当。
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