「エネルギー政策は国家なり」福島伸享
2020/07/21公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
元経済産業省の官僚であり、元民主党衆議院議員である著者が教える日本のエネルギー業界事情です。特に、著者は官僚時代に資源エネルギー庁で電力自由化、科学技術庁で東海村JCO臨界事故に対応しており、電力業界に詳しいのです。電力自由化は村田成二・元事務次官が主導してきたものであり、経産省は福島第一原発事故を利用して東京電力を実質国有化して支配し、電力業界再編を狙ったものとしています。
東京電力には経済産業省からエース中のエースである嶋田隆・前経済産業省事務次官が派遣されました。嶋田氏も村田組のDNAを持つ人間であり、東京電力を使って電力業界の再編を進めたのです。東京電力は持ち株会社形式にして、発電・小売・送電を分離し、発電部門は中部電力の発電部門と統合してJERAを作らせたのです。
・1994年に資源エネルギー庁公益事業部長に就いた村田氏と、そのものに集まった「村田組と」呼ばれた若い官僚たちが旗振り役となり、業界と役所のぬるま湯構造をぶち壊す改革が始まります・・・IPPといわれる卸電力入札制度を導入したのです(p28)
著者は民主党の与党議員として、2011年4月27日の経済産業・内閣委員会連合審査で、原子力損害賠償法3条1項ただし書きの「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるとき」に無限責任を逃れることができるという規定を適用して、国が前面に出て対応をすべきと主張しましたが、結局、3条1項ただし書きは適用されませんでした。メルトダウンの原因となった津波は、「巨大な天災地変ではない」となったのです。なぜか東京電力は、裁判で争っていません。
面白いところは、国会議員と官僚の関係の一端が見えることでしょう。なぜ欧州で問題の多いことがわかっていたあの再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)が成立できたのか。それは、当時の菅首相がFIT法を通したら辞めると言ったからだというのです。民主党政権下では、審議会をなくしてしまったため、それまで役所と業界のやりとりは、審議会の議事録を通して明らかにされていましたが、どのような経緯で政策が決められたのか民主党政権時代はわからないのです。
著者の感覚では民主党政権は役人をコントロールできれおらず、役所の中で政策が作られ、決められたという。つまり、なぜ自民党が政権を失うと消費税増税が決定されるのかといえば、自民党のチェックが弱くなって官僚が勝手に政策を決めることができるようになるからだというのです。ウソのような話ですが、それが現実らしいのです。固定価格買取制度(FIT)法は、菅直人首相と経産省が手打ちをした結果なのです。
・菅氏は、固定価格買取制度(FIT)法を成立させないと内閣を退陣しないと言い出します・・・当時は、多くの人がFIT法という生煮えの法案に不安を感じていたし、根強い反対の声があったけれども、菅氏を辞めさせたい一心で与野党が一致してFIT法を通したのです(p42)
著者は石油公団やJOGMECが、経済産業省からの天下りが多く、技術、投資のプロが育っていないことを批判しています。役人の行動原理は、「与えられた予算を適性に執行すること」であり、国の予算をただ消化するという感覚で使い続けたことが、石油公団の不良債権問題の一番の原因としているのです。JALが破綻したのも同じ理由なのでしょう。
中国は中国共産党が支配する国ですが、日本は官僚が支配する国なのかもしれないと感じました。その支配に対し何とか内閣や国会がチェックを入れ、バランスをとりながら政策が決められているのです。著者のエネルギー政策には納得のいかない点もありますが、官僚と国会議員を経験した著者だからわかるところもあるのでしょう。福島さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・役所が審議会を立ち上げる際には、立ち上げる前に「まず報告書を持って来い」って幹部から言われます。この時点で報告書の素案はできているのです。粗筋ができたうえで、その報告書どおりになるように委員会を開き、それに基づく資料を作ってから進めるのが通例です(p105)
・考えてみれば、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)にしても、発送電分離にしても、すべて民主党政権のときに始まっていたことです。民主党政権は政治主導の名の下の官僚主導でした(p44)
・サンシャイン計画には、1974年から1992年までの18年間に4400億円もの国家予算が使われました・・・私たち経済産業省の事務官は、これらを「技官のおもちゃ」と呼んでいました。技術系の人が新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの外郭団体を通じて、研究者たちの考えた「あんなこといいな、できたらいいな」をプロジェクトにしただけで、大部分はものにならないものでしたから(p70)
・原発メーカーの日立製作所の会長でもある中西宏明氏・・・稼働しない原発に巨額の安全対策費が注ぎ込まれているが、8年も製品を造っていない工場に存続のための追加対策を取るという、経営者として考えられないことを電力会社はやっている(p14)
▼引用は、この本からです
福島伸享、エネルギーフォーラム
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
第1章 政治不在・行政主導のエネルギー規制改革
第2章 平成のエネルギー政策はなぜ迷走を続けたのか
第3章 平成のエネルギー失策の構造
第4章 実は革新的な第5次エネルギー基本計画
第5章 令和時代のエネルギー政策かくあるべし!
著者経歴
福島 伸享(ふくしま のぶゆき)1970年生まれ。1995年、通商産業省(現:経済産業省)入省。2003年に退官し、2009年民主党公認衆議院議員として初当選。2017年希望の党から出馬し落選。
エネルギー資源関係書籍
「エネルギー(上・下)」黒木 亮
「石油の「埋蔵量」は誰が決めるのか? エネルギー情報学入門」岩瀬 昇
「エネルギー政策は国家なり」福島伸享
「資源論―メタル・石油埋蔵量の成長と枯渇」西山 孝
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