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「脱・失敗学宣言」中尾政之

2022/01/04公開 更新
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「脱・失敗学宣言」中尾政之


【私の評価】★★★★☆(94点)


要約と感想レビュー

安全ルールを守らない人は監視カメラで記録される

これまで書籍「失敗百選」シリーズで、過去の失敗データベースを提供してきた中尾さんは、こうしたデータ重視の失敗回避が時代に合わなくなってきたと教えてくれます。いくら「過去の失敗に学べ」といっても交通事故がなくならないように、一定数の人はルールを守らないし、注意しろと言っても完璧に注意することはできないのです。


さらに、近年のICT、デジタル技術の普及によって、だれもがスマホを持ち歩き、アプリで情報共有できるようになったため、簡単に危険個所を写真で共有できるようになり、さらには監視カメラが自動で危険動作を注意することさえ、できる時代となっているのです。これまでは作業者の安全意識を持たせるための教育が中心でしたが、これからは安全教育をしつつも、安全ルールを守らない人は監視カメラで記録され、ルールが守れなければ職場から排除される時代なのです。


ICT活用の失敗学・・・「この段差で誰か転びそうだなあ」と思ったら、その段差の写真を撮ってSlackやLINEで共有すればよい・・センサやカメラが、勝手にデータを集めてくれる(p3)

精神論より安全装置を買う

興味深いのは、近年、非正規社員が増えたことによって、ルールを守らない人は守らないという現象が顕在化するようになったということです。つまり、いくら教育しても守らない人は守らないのですから、そうした人は、証拠を示したうえで現場から排除するしかないとしています。 同じように外国人の多い職場では、マニュアルの文字を少なくし、絵や図解を多くして、賞罰を明確にすることが肝要です。過大な仕事への誇りや自主性や愛社精神を期待してはならず、ルールを守れないようであればクビにするしかないということです。


ちなみに国の建前は「非正規社員は5年で正規社員」と言いますが、現実は非正規社員は5年でクビです。大学でも特任のつく人は実質非正規で10年でクビになってしまうのです。このような待遇で、非正規社員に愛社精神や自主性など期待するのは難しいのでしょう。だから著者は、安全は精神論や心理学よりも、安全装置を買う「お金」のほうが効果的な時代になったというのです。


非正規社員に教育しても効果は小さい・・・習慣的に不順守する作業者を排除することが肝要である。不順守の証拠を集めてクビにする。作業ラインには5mごとに監視カメラを設置(p194)

中尾先生の授業は面白い

とはいえ、中盤からはいつもの過去の失敗例の説明が続き、「えっ、あのJRの台車の亀裂」は、製作時の変形を肉盛り溶接で調整したため残留応力が残ったのが原因だったのか・・・首里城にスプリンクラーがなかった理由は・・福島第一原発1号機の非常用復水器は設置以来一度も作動させて強制冷却させたことがなかったんだなどが楽しめました。


それ以外にもコラムが充実していて、最近の試験でのカンニングの手法と対策、研究室の薬品や廃液の不正のテクニックと対策など大学の先生らしい話題を興味深く読めました。中尾先生の授業は面白いのだろうなと思いながら、皆さんにもこの本をおススメします。中尾さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・人類は1945年から原爆や水爆の実験を繰り返し・・・核実験の3100PBqのほうが、福島第一原発の27PBqよりも、100倍多く放出していたことがわかる(p105)


・沖縄の首里城正殿が原因不明の火災で焼失・・・重要文化財にもなっていないから、普通の事務所と同じ消防規格が適用されていた・・・どうして設計者は厳重な消化設備の設置を求めて粘らなかったのだろう(p161)


・車両基地の北陸新幹線は冠水・・・国土交通省が千曲川の水位をリアルタイムに報告してくれたら、避難の判断がもっと早くできたのに」と悔やんでいた。役所が情報を独占していた(p135)


▼引用は、この本からです
「脱・失敗学宣言」中尾政之
中尾政之、森北出版


【私の評価】★★★★☆(94点)


目次

第1章 失敗学はもはや「お役御免」なのか?
第2章 情報化時代の桃太郎
第3章 「持論工場」のススメ
第4章 創造的作業の実践術
第5章 失敗学の履歴書
第6章 「情報の民主化」がもたらすもの
第7章 文豪に学ぶ科学の基本姿勢
第8章 誰でもリスクは見つけられる
第9章 違和感がないと事故は防げない
第10章 個人では見つけられない巨大リスクがある
第11章 型破りの失敗学をやってみよう
第12章 新型コロナと大学教授の憂鬱
第13章 失敗学の伝道師は電子の神の夢を見るか?



著者経歴

中尾政之(なかお まさゆき)・・・1983年、東京大学大学院工学系研究科を修了。卒業後は日立金属株式会社に入社し、開発・設計・生産まで幅広く従事。1992年より東京大学に戻り、研究活動に注力。ナノ・マイクロ加工等の研究を手がけ、現在に至る。2002年に畑村洋太郎氏とともにNPO法人「失敗学会」を立ち上げ、企業の生産活動に伴う事故・失敗の原因を解明する「失敗学」を研究。


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