「続々・失敗百選 「違和感」を拾えば重大事故は防げる-原発事故と"まさか"の失敗学」中尾 政之
2016/03/29公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★★(96点)
要約と感想レビュー
ついに失敗百選が、東京電力福島第一原子力発電所の事故を掘り下げて第三弾として帰ってきました。著者には、福島第一が爆発していく様子は、ミッドウェイ海戦で日本の空母が撃沈されている姿と重なったとのこと。東電にとっても日本海軍にとっても、その状況は「想定外」だったのです。
ミッドウェーではこちらから航空機攻撃をするつもりが、暗号を解読され、レーダーの採用も遅れ、逆に航空機攻撃によって4隻の空母を失うことになってしまったのです。福島第一原発が6台ものプラントが集中していることは東京電力の強みだったのですが、逆に6台も集中しているがゆえに、被害が大きくなってしまったのです。
・福島第一原発の事故が起きた・・ミッドウェイ海戦で、日本海軍の4隻の空母が次々に撃沈されていく、という悪夢を再生しているようであった・・大津波も原発事故も「想定外」だったのだろうか。米軍は日本海軍の暗号を解読しており、米軍の空母は日本の空母を待ち伏せしていた・・暗号を読まれていることは日本海軍にとって想定外(p15)
驚いたのは、震災前にアメリカ同時多発テロの対策として航空機の衝突や外部電源喪失の対策がアメリカでは実施されていたことです。日本はその情報を知りながら、対応していなかったのです。もし仮にそうした対応が実行されていれば、津波への耐性が高まっていた可能性があったのです。
最悪の事故は、いくつもの避けるチャンスがあったのに、なぜかそのチャンスを生かすことができないケースが多いのですが、福島第一原発事故もチャンスがあったのです。社内で15メートルを超える津波の可能性があることがわかったときに、なぜ土木学会に検討を依頼して時間稼ぎしてしまったのか。なぜ、アメリカ同時多発テロのときの電源喪失事故対策を打たなかったのか。今となっては残念と思うしかありません。
・米国は同時多発テロの後に、飛行機自爆、大火災、電源喪失が起きたときの減災方法を検討してB.5.bとよぶ行政命令を作成し、米国の原発104基に対策を実行させた。日本の保安院にも密かに2回、B.5.bの内容を説明したが、保安院は電力会社に伝えることなく隠匿した。福島原発事故の電源喪失後にB.5.bを適用していれば減災できたことを、事故後に米国から指摘された(p128)
この世の中は、"まさか"と"想定外"ばかりなのでしょうか。後悔、先に立たずですね。次はテロ対策で、しっかり対応していきたいものです。
東北電力の女川原子力は"まさか"の最悪の事態を想定して敷地を15メートルとしたり、送電線を3系統別の変電所に分けていたことなどで、ギリギリ冷温停止することができました。私には神さまがいて、手を抜いている人と全力を出している人を見切っているように感じました。中尾さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・書類作成による組織疲労・・中国電力の島根原発の点検不備問題・・原発の安全には直接・速急的に影響しない機器ばかりだったが、自主基準遵守違反に対しても保安院の攻撃は容赦なく、必要な提出書類の厚さが数十cmと厚くなった。調査中に部長が自殺し、担当者が疲れきっていたことを思い出す(p43)
・舶来品依存症になると、自分でそれを改造するのが怖くなる・・想定外の副作用が怖いのである・・後継機の高圧系冷却装置はFail As Is(制御電源が喪失してもそのままに動く)のインターロックを採用していたのに、1号機だけはFail Close(制御電源が喪失したらすぐに止まる)を採用していた(p50)
・海抜をさらに10m高くすると、現在の設計では機械損失は約1%大きくなる。事故直後は、「津波を避けるために、あと10m高いところに設置すればよかったのに」と嘆かれたが、仮に50年前に東電の社長が「熱効率が29%になってもいいから、あと10m上げなさい」と命令していたら、いまのような悲劇は起きなかったであろう(p62)
・モータだけならば完全水密構造にして、エンジンがあるならば水密構造に加えて潜水艦のようにシュノーケルを作って高さ15mから吸排気すればよい。実際、米国西海外の原発では津波・高波・洪水に備えてシュノーケルを付けていた(p65)
・福島第一原発事故とシナリオが類似する原発事故が、それ以前に起きていた・・福島第一原発のエンジニアがル・ブレイユ原発のこの事故報告書を読んだとき、どのように思っただろうか・・前述したように東電のエンジニアは、防波堤設置、電池室止水、予備電源準備を役員に提案したかったが、大津波の科学的根拠がつかめず、画餅に終わった(p138)
・笹子トンネルの天井板落下はボストンでも過去に発生・・事故の6年前にも、同様なボルトが抜け・天井板落下の事故がボストンで起きていたが、日本では施行・検査の見直しはなされなかった(p144)
・日本の10万人あたりの悪性新生物(ガン)病死者数は272.3人である。1000人の職場で10年働くと、仲間が27人、ガンで病死する。・・日本の10万にあたりの窃盗犯事件数は1020件である。1000人の職場で10年働くと、盗みが102件起きるから・・"またかア"になる(p76)
森北出版
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【私の評価】★★★★★(96点)
目次
第1部 「失敗百選」,「 続・失敗百選」から「 続々・失敗百選」 への展開
I 「続々・失敗百選」を要約する
II "つい,うっかり"から"まさか"の失敗へ注目が移る
III "まさか"の失敗の典型例─福島第一原発の事故─を学ぶ
IV "まさか"の事故の特徴は何か,どうやって防ぐか
V 違和感を拾いながら失敗を防ぎ,新しい創造を始めよう
第2 部 失敗事例を学ぼう
VI 福島第一原発は事故に先立って何が問題だったのか
VII 福島第一原発は事故処理中や事故後に何が問題になったのか
VIII "まさか"の事故から多くの問題が学べる
著者略歴
中尾政之(なかお まさゆき)・・・1983年、東京大学大学院工学系研究科を修了。卒業後は日立金属株式会社に入社し、開発・設計・生産まで幅広く従事。1992年より東京大学に戻り、研究活動に注力。ナノ・マイクロ加工等の研究を手がけ、現在に至る。2002年に畑村洋太郎氏とともにNPO法人「失敗学会」を立ち上げ、企業の生産活動に伴う事故・失敗の原因を解明する「失敗学」を研究
読んでいただきありがとうございました!
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