「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」スティーブン・E・クーニン
2025/02/24公開 更新

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【私の評価】★★★★★(92点)
要約と感想レビュー
熱波・干ばつ・山火事・洪水は増えていない
著者はオバマ政権時、エネルギー省の科学担当次官として働いていました。その著者がこの本で伝えたいのは、一部の気候学者やマスコミや政治家が、気候科学をねじ曲げていること。そして、多くの科学者が黙して語らず、そのウソに加担していることです。
タイトルの「気候変動の真実」とは、確かに地球は温暖化しているが、CO2の影響かどうかは未知数であること。例えば、確かに海面は上昇しているが、1880年頃から継続的に上昇しており、1950年頃から急速に増加したCO2の影響が見られないこと。
ハリケーンの強さ、被害は過去100年間変わらないこと。グリーンランドの氷床の縮小スピードは80年前と変わらないことが説明されています。
つまり、現在の気候変動が自然の気候変動なのか、それとも1950年頃から活発化した人間の活動による影響なのかよくわからないのです。
熱波・干ばつ・山火事・・・洪水など、異常気象に関するニュース記事は急増している。だが、過去の記録を注意深く調べると、これらのほとんどは気候の変化から予想されるような傾向は何も見られない(p6)
米国の高温日の頻度は100年前と変わらない
テレビを見れば、異常高温、水不足、洪水、台風などを地球温暖化のせいに報道するのは当然のようになっています。ところが、その根拠は薄いのです。
例えば、米政府の2017年気候科学特別報告書(CSSR)で、「米本土では極端な気温に著しい変化が見られる。過去20年間の高温記録の数は低温記録の数をはるかに上回る」と記載されていますが、これは過去最高気温を更新したときをカウントすることで、捏造したものです。
実際には米国では高温日の頻度は、100年前と変わらないのです。
捏造に近い例としては、全米気候評価(NCA2014)の「主要メッセージ8」に「ハリケーンの暴風雨の強さや降水量は気候の温暖化に伴って増加すると予測される」と記載されていますが、この評価報告書が引用している研究論文には「ハリケーンの頻度、強さ、降水量に関して自然変動以外の有意な傾向は見られない」と記載されていた事例も紹介されています。
著者の言うところの、一部の気候学者やマスコミや政治家が、気候科学をねじ曲げているとはこのことなのです。
気候科学の現状をまとめた研究文献や政府報告書によると、米国の熱波の頻度は1900年と変わらず、同じく米国の最高気温はこの50年間まったく上昇していない(p8)
石炭燃焼のエアロゾルが地球を冷却する
初耳だったのは、著者が英石油会社BPの社員だったとき、石炭を天然ガスに転換した場合、地球温暖化への影響を計算した前提です。
天然ガスは石炭の半分しかCO2を排出しないのですが、石炭の排ガス中のエアロゾルが地球冷却効果があるので相殺されて、石炭を天然ガスに転換しても地球温暖化防止にならないというのです。BP経営陣はその結果を喜ばず、公表しなかったという。
そもそも、地球温暖化にCO2がどれくらい影響しているのか検討するための気候モデルは、天気予報が2週間程度しか予測できないことから誤差が大きすぎて役に立たないというのが、専門家としての著者の認識なのです。
温室効果ガスによる温暖化が進む一方、エアロゾルによる冷却で一部が相殺されている(p85)
アメリカはパリ協定から離脱
この本の結論は、現在の地球温暖化は自然の気候変動によるものなのか、人間の活動によるCO2排出によるものなのか、よくわからないということです。しかし、地球環境を大切に考える人たちは石炭、石油の消費を削減し、高価で不安定な再エネに誘導しようと政治的に活動しています。
実際、地球温暖化対策の影響で石油・石炭への投資が不足し、ロシアのウクライナ侵攻によってエネルギー価格が上昇しているのです。グリーンピース共同創設者のポール・ワトソンは、「何が真実かは関係ない。重要なのは、人々が何を真実と考えるかだ」と語っています。
ちょうどトランプ大統領がパリ協定から離脱を発表し、日本は第7次エネルギー基本計画を閣議決定しました。幸い日本は世界の温室効果ガスの3%しか排出していません。日本が削減してもしなくても、3%くらいは1年で中国やインドが排出量を増やしてしまうので影響はないのです。
トランプ大統領は個人的には嫌いですが、地球温暖化への対応には賛成です。再エネに見切りをつける米国に対し、日本は再エネ導入によりエネルギーコストが上昇し、国際競争から没落するのか、今が運命の分かれ目のように感じます。クーニンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・AR5(IPCC第5次評価報告書)が次のように述べている。「地球全体の洪水の規模や頻度にどのような傾向が見られるかについては、確信度が低い」(p185)
・毎年山火事で焼失する面積は1998年から2015年までに約25%減っていた・・・野焼きをする習慣が減った(p191)
・世界平均海面水位(GMSL)・・19世紀末に、GMSLがすでに上昇していることがわかる。1880年から現在までの上昇幅は約250ミリ、平均すると年に1.8ミリだ(p205)
▼引用は、この本からです
スティーブン・E・クーニン、日経BP
【私の評価】★★★★★(92点)
目次
パート1 サイエンス
第1章 温暖化についてわかっていること
第2章 人間による微々たる影響
第3章 排出量をめぐる説明と推定
第4章 乱立するモデル
第5章 気温上昇の誇大アピール
第6章 嵐の恐怖
第7章 異常降水─洪水から山火事まで
第8章 海面上昇の不安
第9章 来ない終末
第10章 誰がなぜ科学を壊したのか
第11章 壊れた科学の修復
パート2 レスポンス
第12章 カーボンフリーという幻想
第13章 米国は幻想を実現できるか?
第14章 プランB
著者紹介
スティーブン・E.・クーニン(Steven E. Koonin)・・・オバマ大統領の下で米国エネルギー省の科学担当次官を務め、「4年ごとの技術レビュー」(2011年)の主執筆者となった。カリフォルニア工科大学の理論物理学の教授を務め、10年以上筆頭副学長(プロボスト)を務めた。現在は、ニューヨーク大学の大学教授。米国科学アカデミー、米国芸術科学アカデミーなどに所属。2014年からは国防分析研究所の理事を、2014年から2019年まで全米アカデミーズの工学・物理科学委員会の委員長。現在、ローレンス・リバモア、ロスアラモス、サンディア、ブルックヘブン、アルゴンヌの各国立研究所の独立理事。
気候変動関係書籍
「気候変動の真実 科学は何を語り、何を語っていないか?」スティーブン・E・クーニン
「15歳からの地球温暖化 学校では教えてくれないファクトフルネス」杉山 大志
「環境問題の嘘 令和版」池田 清彦
「日本の気候変動5000万年史 四季のある気候はいかにして誕生したのか」
「ホッケースティック幻想」A.W.モントフォード
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