「「気候変動・脱炭素」14のウソ」渡辺 正
2025/03/07公開 更新

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【私の評価】★★★☆☆(78点)
要約と感想レビュー
環境研究者の失業の危機
著者は1986~1996年の11年間、東京大学生産技術研究所で環境研究の事務局を務めました。1988年に国連に地球温暖化に関する政府間パネル(IPCC)が設立され、1997年に京都議定書が採択されていますので、著者はまさに地球温暖化研究の最前線にいたのです。
著者の当時の印象は、作為的な研究テーマや、針小棒大な成果発表が多かったという。そもそも地球温暖化問題とは、国連と環境研究者が失業しないように画策したものというのが著者の理解なのです。
1988年・・失業の危機を感じた国連と環境関係者がタッグを組んで、CO2を悪とみた起死回生の一手を思いつきます(p2)
CO2が地球温暖化の原因なのか
大気中のCO2濃度は増え続けていますが、CO2が本当に地球温暖化の原因なのか、正直わからないというのが、科学者としての著者の考えです。例えば、1940~1970年代に地球は寒冷化し、氷河期接近かと騒がれましたが、CO2濃度が増え続けているのに寒冷化が進んだ理由はわかっていないのです。
また、世界の海水面は過去150年間、年2mmずつ継続して上昇しています。地球の気温もCO2排出量と関係なく1850年ごろから現在まで上昇してきたのです。最近30年間に気温が0.2~0.3℃上昇しているとしても、200~300年周期の気温の自然変動ではないかというのが著者の見立てなのです。
海の表層水温がほぼ一定の周期で変動する・・
1880年ごろ~1910年ごろ 水温の下降期
1910年ごろ~1950年ごろ 水温の上昇期
1950年ごろ~1980年ごろ 水温の下降期
1980年ごろ~現在 水温の上昇期(p61)
データの補正問題
著者が科学者として許せないのは、データの補正や恐怖を煽るウソの報道です。
データの補正でわかりやすいのは、気温の補正でしょう。例えば、八丈島の1907年からの実測気温データを見ると100年あたりの温度上昇は、0.2~0.4℃だという。ところが、GISS(地球温暖化に関する政府間パネル)のサイトでは、八丈島の気温データは補正され、100年あたらり1.2~1.5℃上昇しているグラフになっているというのです。
ウソの報道でいえば、温暖化でかわいそうなホッキョクグマは1950年代まで狩猟で数を減らしたものの、狩猟が禁止されて、最近は5倍に増えているというのです。
気温データの補正・・気温を記録する時刻の補正(朝は午後より気温が低い)・・測定器や測定法を更新したための補正・・温度計の移設についての補正・・近い観測点どうしは気温の推移も似ているとした補正・・「近い」とは1200キロメートル圏内(p40)
効果ゼロの年5兆円の温暖化対策費
世界が地球温暖化に真面目に取り組んでいるわけではありません。排出量の多いアメリカは離脱したし、CO2排出実質ゼロ化の目標は、日本と欧州が2050年ですが、中国とロシア・インドネシア・サウジアラビアは2060年、インドは2070年です。
京都議定書では日本だけが約束を守るため、他国に脱炭素費用として1600億円も支払いました。そして今度はCOP17で決まった「緑の気候基金」に、日本は1500億円を拠出済みです。さらに日本は1年間に5兆円の「温暖化対策費」を使っています。防衛費と同じ金額が、無駄に支出されているというのが著者の認識なのです。
著者は環境に関わる科学者として、ダイオキシンや環境ホルモン、BSE、気候変動(温暖化)は、どれも明確な実体はなく、宗教の教義に近いと断言しています。やや感情的表現が多かったのですが、もう少し調べてみたくなりました。渡辺さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・大気に増え続けるCO2は、むろん植物の生育を速めてきました。1970年代から続く衛生観測の結果を総合すると地球の緑は・・過去30年で10%ほど増えています(p13)
・最新かつ最強の伊勢湾台風が1959年だから、いま並べたレベルの台風は、もう60年以上も日本に来ていないのです(p49)
・京都議定書時代に払った1600億円も・・世界とつき合うための交際費と見ればいい・・賢明な官僚がそんな気分で立ち回ってきた成果かもしれません(p174)
▼引用は、この本からです
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渡辺 正、丸善出版
【私の評価】★★★☆☆(78点)
目次
「気候変動」編
ウソ1 地球の気温は近年,ものすごく上がってきた
ウソ2 IPCCの気温グラフは,現実をよく表している
ウソ3 近ごろ台風が狂暴化し,水害も増えてきた
ウソ4 人間がCO2を出すせいで, 北極と南極の氷が減ってきた
ウソ5 人間がCO2を出すせいで,各地の氷河が縮小ないし後退中
ウソ6 海水面の上昇,サンゴの死滅など,海に異変が起きている
ウソ7 地球の気温は,大気のCO2濃度が決めてきた
「脱炭素」編
ウソ8 温暖化対策は,世界の未来をよくするために提案された
ウソ9 温暖化対策には,CO2の排出削減が最善の選択だった
ウソ10 京都議定書やパリ協定は,十分な成果をあげてきた
ウソ11 脱炭素は可能。成功すれば,温暖化の防止に役立つ
ウソ12 太陽光発電や風力発電は,国のCO2排出を減らす
ウソ13 電気自動車やバイオ燃料は,国のCO2排出を減らす
ウソ14 脱炭素を説く方々は,気候変動を食い止めたい
著者紹介
渡辺正(わたなべ ただし)・・・1948年鳥取県生まれ。1976年東京大学大学院博士課程修了、工学博士。東京大学助手、助教授を経て1992年より東京大学教授(生産技術研究所)。2012年、東京大学を定年退職(名誉教授)ののち東京理科大学に勤務。
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