「ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く」アレクサンドル・リトヴィネンコ
2022/04/30公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(76点)
要約と感想レビュー
著者は暗殺指令を暴露し暗殺される
ロシアKBGには武力侵攻を行う前に、相手側がテロ活動を行ったかのように破壊活動を自作自演するマニュアルが存在するという。ロシアのチェチェン侵攻の前にも連邦保安庁(FSB)は、ロシア国内でチェチェン武力勢力に見せかけたテロ事件を行っていました。こうした事実を告白した著者のリトヴィネンコ氏は、KGB諜報局、ロシア保安庁、連邦防諜庁、連邦保安庁(FSB)に在籍していた本物の諜報のプロであり、1998年にFSBからの違法な暗殺指令を拒否し、記者会見でその事実を暴露したため、2006年に暗殺されています。2006年のロシア大統領はプーチンであり、プーチンの了解のもと暗殺されたと考えられます。
1994年、連邦防諜庁(FSK)はモスクワの鉄橋を爆破します。その犯人は石油会社ラナコの社員で、爆弾を仕掛けている最中の暴発して死亡しました。ラナコ社社長のラゾフスキーはFSKの工作員だったのです。同時にFSKは「チェチェンのテロリストがロシア国内で活動している」と発表します。これはKGBのマニュアルにある宣伝文句と同じであり、その後チェチェン人が逮捕され、チェチェンでの軍事行動(第一次チェチェン紛争)が開始されたのです。
・1994年12月・・・FSK工作員で、ラゾフスキーが経営するラナコ社で働いていたウラジミール・ヴォロビヨフという男が、路線バスに遠隔装置の爆弾を仕掛けた(p77)
アパート爆破事件はロシアFSBの工作活動
さらに1999年9月、ロシアのアパート4カ所が爆破され、300人以上が死亡しました。当時のエリツィン政権はチェチェン人によるテロと断定して、報復として第二次チェチェン戦争を開始します。アパート爆破事件の背後にいたと思われるFSB長官だったプーチンは、1999年8月に首相、12月には大統領代行、2000年5月には大統領となっていくのです。
著者がこれらアパート爆破事件がロシアFSBの工作活動である証拠として指摘するのは、同時期に起きたアパート爆破未遂事件です。アパートの地下室に時限爆弾が発見され、犯人は逃走し、なんと犯人がモスクワのFSB本部に連絡を入れていたことを捜査官が突き止めたという事案です。プーチンの後任のパトルシェフFSB長官は、「爆破未遂事件はFSBによる演習であった」と発表せざるをえませんでした。
著者の見立ては、プーチンはFSB長官としてアパート爆破事件を計画し、チェチェン人の犯行に見せかけて、ロシアの第二次チェチェン紛争を画策したのです。エリツィン大統領の後継者となったプーチンは、FSBの仲間を政府の要職に配置していきます。プーチンの後任のFSB長官だったパトルシェフは今もロシア連邦安全保障会議書記として、プーチンを支えています。旧KGB勢力によってチェチェン紛争が作られ、プーチンは強い政治家のイメージを強め、ロシア支配に成功したのです。
・モスクワとの不審な通話を受信したのだ。「一人ずつ脱出しろ。街じゅう警官だらけだ」電話の相手はそう答えた・・・電場番号から、テロリストが連絡した相手はモスクワのFSB本部であることが判明したのだ(p140)
プーチンは裏切者は決して許さない
この本に協力した多くの人が殺されました。ロシア下院議員のゴロヴリョフとユーシェンコフは射殺され、ポリトコフスカヤ記者も殺された。シチェコチーヒン下院議員と著者のリトヴィネンコは毒を盛られ、殺害されたのです。この本から分かることは、プーチンは裏切者は決して許さないということです。ウクライナもロシアを裏切ったので、許さないのでしょう。そして、暗殺や紛争による数万人の死もいとわなかったプーチンですから、70歳の今、目的達成のためなら核兵器の使用もいとわないと思われます。
映画では主人公の奥さんのクビが最後に主人公に送りつけられたり、ギャングに捜査官一家が惨殺されて気分が悪くなる作品がありますが、現実のロシアの方が怖ろしい世界なのです。この本はロシアでは発禁となっており、この本の内容を紹介するだけで暗殺される可能性がありますので注意しましょう。
そういえば、アメリカでもCIAとマフィアが組んで大統領を暗殺したことがあるし、大量破壊兵器を開発しているとの理由で侵攻したこともあるので、諜報の世界は、本当に怖ろしいことがわかりました。フェリシチンスキーさん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・1917年、革命とともに誕生したソヴィエト・ロシアの政治警察は、何百万人もの人間を抹殺する非情な機関として働いたのだ。実際、ほかの仕事をしたことがない(p42)
・テロリストがチェチェンに逃げ込んだ「可能性」を戦争の口実にしながら、爆破テロの実行犯はチェチェン人ではないと認めている(p233)
・ラゾフスキーは国家による暗殺者で、命令に従って人も殺せば、破壊行為やテロも組織します(p114)
・1993年当時、ウズベク四人組はラゾフスキーの傘下にあった・・・四人の背後には「総元締め」と呼ばれる、いわば作戦司令部が存在し、殺人の契約は依頼者とこの元締めとの間で結ばれる(p308)
・科学調査研究所「ロスコンヴェルス・ヴズルイヴ・ツェルトン」・・・研究所とは名ばかりで、軍と「顧客」の間を取もつための隠れ蓑、実際の業務は爆薬の違法取り引きだ・・数万トンのTNTやTNT爆薬を売買(p210)
・KGBの手口・・・ごろつきどもがみかじめ料を要求し・・・次に工作員が顔を見せ、お宅が抱える問題の解決に手を貸しましょうと持ちかける・・・会社は工作員にすっかり浸透され、KGBの新たな資金源ともなるのだ(p46)
・退役軍人のコルジャコフ・・・海外に流出した資本を「コルジャコフ流」に回収・・・海外に持ち出している資金については先刻承知だと告げ、その資金をロシアに戻すように要求する・・国庫に戻すのではなく、コルジャコフが指定する口座に払い込む(p250)
▼引用は、この本からです
アレクサンドル・リトヴィネンコ , ユーリー・フェリシチンスキー、光文社
【私の評価】★★★☆☆(76点)
目次
存続か消滅か―ソ連解体後の秘密警察
第1章 戦争仕掛け人―権力を掌握するための戦い
第1章 情報機関の暴走―契約殺人、テロ、そして戦争
第1章 秘密警察との戦い―正義を死で葬るFSB
第1章 信頼と忠実、そして...FSB長官の素養
第1章 リャザンでのしくじり―明るみにでたFSBテロ工作
第1章 大規模テロ―ブイナクスク、モスクワ、ヴォルゴドンスクでの工作
第1章 国民の敵―無原則、無法状態のFSB
第1章 フリーランス特殊部隊―暗殺を請け負う組織犯罪グループ
第1章 契約殺人―公式には存在しないFSB配下の特殊チーム
第1章 誘拐―実行、交渉、後始末も自作自演
第1章 改革か、解体か―内部からの改革を求めた一通の手紙
第1章 政権を握ったFSB―「専制君主」プーチン大統領誕生
著者経歴
アレクサンドル・リトヴィネンコ(Alexander Litvinenko)・・・1962年ウォロネジ生まれ。1988年からソ連国家保安委員会(KGB)防諜局、1991年からロシア保安省(MB)、連邦防諜庁(FSK)、連邦保安庁(FSB)に在籍、反テロ活動と組織犯罪撲滅を専門とする。1997年、最も秘密の部門とされる犯罪組織分析局の上級作戦将校・第七部副部長。1998年11月、モスクワでの記者会見でFSBから受けた違法な暗殺指令などを暴露した。翌1999年から2000年にかけて逮捕、監獄収監、釈放を繰り返す。2001年5月、英国で政治亡命が認められ、2006年10月に英国市民権取得。2006年11月、ロンドンで殺害される
ユーリー・フェリシチンスキー・・・1956年モスクワ生まれ。1974年レーニン記念モスクワ国立教育大学歴史学部に入学。1978年に米国に移住した。米国のブランデイス大学とラットガース大学で歴史を学び、ラットガース大学で博士号(歴史)を取得。1993年にロシア科学アカデミーの歴史研究所で外国人として初めて博士論文の公開審査にパスした。ロシア社会主義10月革命に関する歴史関係著書や論文多数
ロシア関係書籍
「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎
「ロシア やはり恐ろしい闇の歴史: 教科書に載らない暗黒の履歴とは」歴史の謎を探る会
「ロシア皆伝」河東哲夫
「ロシアについて 北方の原形」司馬 遼太郎
「ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く」アレクサンドル・リトヴィネンコ
「プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?」北野 幸伯
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