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ロシアの本質「ロシア皆伝」河東哲夫

2022/11/04公開 更新
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「ロシア皆伝」河東哲夫


【私の評価】★★★★☆(84点)


要約と感想レビュー

ロシアの経済は上からの命令で動く

在ロシア大使館公使であった著者に、ロシアの本質について教えてもらいましょう。最初に驚いたのは、ロシアの役人やプーチンの権力基盤である秘密警察の工作員は、民間は命令で動くものだと思い込んでいるという。実際、ロシアの秘密警察はテロや暗殺を仕組んで、指導者の都合のよい方向へ世論を動かしてきたのです。そうした社会の中で、庶民は人脈を大切にしてきたのです。仕事中に私用電話をするのは、人脈維持が最重要という側面があるのです。だから民間企業との交渉がうまくいかないと、裏の実力者がどこかにいるのではないか、と探すという。


逆に言えば、ロシアの経済は上からの命令で動くということです。これは日本も出資していたサハリンでの石油ガス開発事業が簡単に収奪されそうになってしまうことからもわかります。投資とは返さなくてもよいカネであり、そもそも規則や契約や法律というものは守らなくてもいいと考えているというのです。この点については、中国人とロシア人は似ているといえるのでしょう。


・直接投資は返済しなくていいから、都合いいんだ・・・ロシア人は、外国人のカネを粗末に扱う(p112)


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ロシア人はNATOに圧迫されていると思っている

興味深かったのは、私たちからして見れば、ロシア人は他国を侵略し、約束は破り、地下資源を売って、ダーチャでウォッカを飲んで楽しんでいるという人たちに見えますが、ロシア人の感覚は違うという。ロシア人はNATOやアメリカに圧迫され、昔はチンギス・ハンやナポレオンやヒトラーの軍隊が攻めてきた歴史もある。さらに共産主義という机上の空論に70年も付き合わされて、ひどい目に遭ったと思っているというのです。


こうしたロシア人の感覚は、圧政をしいたモンゴルによる支配やロシアの貴族が力によって農奴を支配した歴史の影響があると著者は考えているようです。ロシアでは「何かを進んでやれば罰せられる」という格言があるくらいで、上司の命令を受けて初めて動く方が安全という文化なのです。


・ロシア人にしてみれば・・敵に囲まれ、いつもやられていた。それに共産主義のような使いものにならない理論を70余年も実験されて、・・なぜ犬にまず実験しなかったのか(p41)


ロシアでは強い指導力を持ったリーダーが必要

ロシアには優秀な人がいます。しかし、そうした優秀な人の能力を発揮する機会がないということなのでしょう。だから、優秀な人は、どこかのコネか何か悪いことをしなければ金持ちにはなれないという感覚を持っているのです。ロシアでは強い指導力を持ったリーダーが求められます。指示を出せない人は「あのボスは弱い」と陰口をたたかれ、組織を束ねることはできないのです。ウクライナ侵攻でも成功すればプーチンは英雄となり、失敗すれば別の強いボスが出てくるのでしょう。


私も2年以上カザフスタンに滞在していたし、ロシアもモスクワ経由でペルミやスルグトといったシベリアの都市を調査したことがあります。だから著者の見方が鋭い!とわかりました。現実のロシアを説明してくれるという点で充実した内容でしたので★4とします。河東(かわとう)さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・ロシア文化と言っても、熊とか雷とか、ユーラシア寄せ鍋みたいなもの、我々が「ロシア民謡」として教わっているメロディも実はユダヤ人やジプシーのものであることが多い(p46)


・麻薬や武器、核物質の闇取引・・・クリミアや、ウクライナのオデッサ港はアフガニスタンから流れてきた麻薬を南欧方面に流すハブだと言われる(p94)


・プーシキンは日本の夏目漱石にも似て、ロシアの口語を基に独自の文学の伝統を開いたから偉いのだ(p157)


▼引用は、この本からです
「ロシア皆伝」河東哲夫
河東哲夫、イースト・プレス


【私の評価】★★★★☆(84点)


目次

第1章 ロシア―その面貌
第2章 歴史のトラウマ―栄光と悲惨
第3章 ロシアという国の経済―停滞と格差の構造
第4章 ロシアの人々―欲望と渇望のシンフォニー
第5章 ロシアの政治―収まらないものをどうやって治めるか
第6章 ロシアの外交―その無力、その底力
第7章 日本とロシア―すれ違いの二〇〇年



著者経歴

河東哲夫(かわとう あきお)・・・1947年東京生まれ。1970年東京大学教養学部を卒業後、外務省に入省。ハーバード大学大学院ソ連研究センター、モスクワ大学文学部に留学。外務省東欧課長、文化交流部審議官、在ボストン総領事、在ロシア大使館公使、在ウズベキスタン・タジキスタン特命全権大使を歴任。日本政策投資銀行上席主任研究員、東京大学客員教授、早稲田大学客員教授を経て現在、評論家として活躍中。日英中露の4カ国語で人気サイト「Japan‐World Trends」、メールマガジン「文明の万華鏡」を主宰。


ロシア関係書籍

「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎
「ロシア やはり恐ろしい闇の歴史: 教科書に載らない暗黒の履歴とは」歴史の謎を探る会
「ロシア皆伝」河東哲夫
「ロシアについて 北方の原形」司馬 遼太郎
「ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く」アレクサンドル・リトヴィネンコ
「プーチン 最後の聖戦 ロシア最強リーダーが企むアメリカ崩壊シナリオとは?」北野 幸伯


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