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「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎

2023/10/02公開 更新
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「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

諜報国家ロシアとは

タイトルの「諜報国家」の定義は、体制維持のため、情報機関(FSB)があらゆる面に介入、浸透し、国家と社会を内部から統制する国家です。具体的には、ソ連時代にKGBの現役予備将校が、省庁、通信社・新聞社、大学、企業などに入り込み、組織を内部からコントロールしたように、ロシアでも同じことが行われているのです。


反体制派に対しては、プーチンは、政治活動や集会を妨害するために、税務署、消防署、裁判所を使って、検査で圧力を加え、身柄拘束を行います。また、クレムリンは、週一回メディア関係者の専門家会合を開催し、どのような報道をするのか指示しているという。


こうした指示に基づき、マスコミは、「ファシストのウクライナ政府は、非合法な方法で政権を転覆した」といった統一されたプロパガンダを行うのです。ロシアでは「ファシスト」や「ナチス」という表現が敵対者に対して使われますが、これは敵対者の評判を落とすための方便なのです。


・欧米諸国の「貧困」「デモ」「汚職」などを誇張して取り上げるロシアの海外向けメディアRTやロシア外務省報道官(p176)


エージェントを送り込むロシア

ロシアは国内だけでなく、海外でも同じようにエージェントを送り込んでいます。ミトロヒン文書によれば、1970年代末、東京のKGBチームは、31名のエージェントと24名の「信頼ある人物」を管理しており、その中に朝日、読売、東京新聞などの全国紙にエージェントがいたという。また、米国に亡命したレフチェンコは、石田博英自民党議員は最も重要なKGBのエージェント「フーバー」であり、首相や閣僚に対しモスクワの意向を踏まえた工作活動を行っていたと証言しているのです。


こうした過去の状況と、日本にスパイ防止法がないということを考え合わせれば、現在の日本の政治家、マスコミに多くのエージェントが存在しているということになるのでしょう。日本のテレビ番組を見ていると、どうしてこんな人がコメンテーターとして出演しているのか不思議に思うことがありますが、スパイ防止法がないのですから、何でもありなのでしょう。


・2014年のウクライナのユーロマイダン革命では、ロシアは、ウクライナ人が「ロシア人を吊るし上げろ」という民族差別的スローガンを掲げている偽の画像を拡散した(p103)


暗殺部隊を送るロシア

2016年、ロシアでは8歳から18歳を対象に全ロシア児童青年軍事愛国社会運動「ユナルミヤ(青少年軍)」を創設し子供の頃から軍事訓練を行う仕組みを作りました。2022年7月には、外国エージェント法が改正され、資金提供に限らず「外国の影響を受ける」者は「外国エージェント」として取り締まりできるようになっています。


2023年1月、メドベージェフ国家安全保障会議副議長は、海外で反体制活動を行うロシア人を「裏切り者」として、戦時下のルールに従い暗殺部隊を送ることを示唆しています。プーチンはロシアをソ連時代に巻き戻し、FSB(旧KGB)による暗殺を含む力と情報による支配を完成させているのだと思いました。


ロシアの動きと、中国の動きが似ていることも気になりました。私たちは一見、平和そうに見える日本国で、何をすべきなのか、考えさせてくれる一冊でした。保坂さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・西側がロシアの「影響圏」に侵入し、解体や弱体化を狙っているという「包囲された要塞」は特にソ連時代に広まったナラティブである(p183)


・特殊エージェントのインタビュー・・窃盗の疑いで逮捕された容疑者は、「刑務所に行くか、協力するか」の選択を迫られ、後者を選べば「事務所」の指示に従って、放火や殺人を行う(p82)


・KGBの教本は、知的レベルの高い外国人ほどソ連情報機関との協力を、自ら独自の活動であると自分に言い聞かせる傾向があると教えている(p131)


・意図せずソ連に利用された外国人を揶揄した「役に立つバカ」や「同調者」などの言葉が近年再び使われている(p277)


▼引用は、この本からです
「諜報国家ロシア-ソ連KGBからプーチンのFSB体制まで」保坂 三四郎
保坂 三四郎、中央公論新社


【私の評価】★★★★☆(82点)


目次

第1章 歴史・組織・要員―KGBとはいったい何か
第2章 体制転換―なぜKGBは生き残ったか
第3章 戦術・手法―変わらない伝統
第4章 メディアと政治技術―絶え間ない改善
第5章 共産主義に代わるチェキストの世界観
第6章 ロシア・ウクライナ戦争―チェキストの戦争
終章 全面侵攻後のロシア



著者経歴

保坂三四郎(ほさか さんしろう)・・・1979年秋田県生まれ.上智大学外国語学部卒業.2002年在タジキスタン日本国大使館,2004年旧ソ連非核化協力技術事務局,2018年在ウクライナ日本国大使館などの勤務を経て,2021年より国際防衛安全保障センター(エストニア)研究員,タルトゥ大学ヨハン・シュッテ政治研究所在籍.専門はソ連・ロシアのインテリジェンス活動,戦略ナラティブ,歴史的記憶,バルト地域安全保障.2017年,ロシア・東欧学会研究奨励賞,2022年,ウクライナ研究会研究奨励賞受賞


ロシア関係書籍

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「ロシア やはり恐ろしい闇の歴史: 教科書に載らない暗黒の履歴とは」歴史の謎を探る会
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「ロシアについて 北方の原形」司馬 遼太郎
「ロシア闇の戦争―プーチンと秘密警察の恐るべきテロ工作を暴く」アレクサンドル・リトヴィネンコ
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