「イギリス人アナリスト 日本の国宝を守る 雇用400万人、GDP8パーセント成長への提言」デービッド・アトキンソン
2022/11/03公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★★☆(83点)
要約と感想レビュー
非正規社員だった職人を正社員とする
ゴールドマンサックスで日本の銀行の不良債権をレポートし、同社の取締役からパートナーまで上り詰めた著者の日本復活の提言です。著者はゴールドマンサックスを早期リタイア後、趣味の茶道を学びながら、日本文化への興味から300年の歴史を持ち文化財補修を専業とする小西美術工藝社の社長になっています。
小西美術工藝社では、本社のコスト削減と同時に、それまで日雇いの非正規社員だった職人を正社員としています。年功序列の給与体系も一定年齢以上は昇給しないようにして、若者の給与を増やしたのです。著者も若い職人に高い給与を支払い、育成していくのは効率が悪いことは理解しています。研修も必要だし、途中で辞めてしまうかもしれない。コストが高いと、入札で負けてしまうリスクもあるのです。
それでも十年、百年と文化財を補修していく仕事を維持していくためには長期的な人材育成の視点が必要というのが著者の見立てなのです。
・本部コストのなかで削れるものは徹底的に削減・・・「職人の正社員化」に取り組みました(p72)
文化財の修理と利活用に経済効果がある
著者の提案は、文化財の修理にお金をかけることです。当時の国指定国宝・重要文化財の補修予算はたった80億円しかありませんでした。これを10倍以上にしようと提案しています。ハコモノを作るお金を削減して、文化財の修理と利活用のほうが圧倒的に経済効果があることは証明されているし、海外では常識といことなのです。
衝撃だったのは、著者が文化財の修復で使用する中国産漆(うるし)を日本産漆に切り替えようと折衝しているときの文部科学省の対応です。まず、どれくらいコスト増となるか、供給は間に合うか質問する。品質は問題ないか証明書を出させる。これだけやらせておいて、最後は、「メリットがあるのは十分承知していますが、日本産にするとなるといろいろ手続き上のことがあるからやめておきます」との回答だったというのです。
当時から文部科学省は、加計学園問題と同じように腐っていたのです。幸運にも下村博文文部科学大臣に日本産漆の使用について説明したら、担当者が検討を再開し、日本産漆が使用されることになったという。人によって行動を変えるというのは、悪い意味で文部科学省の本質を表しているのでしょう。
・国産漆・・・国産は材料単価としては中国産の5倍から7倍・・・漆塗り修復の総事業費の大半は塗る職人の賃金です・・・事業費は5%くらいしか上がらないのです(p63)
日本は経営レベルが弱い
著者の考える日本の衰退の原因は、経営レベルでの数字に基づいた分析と、細かい改善が行われていないということです。日本には勤勉な労働者がいて、日本の成功を支えていますが、その上の経営層や官僚が足を引っ張っているのです。
著者が日本はアメリカを逆さまにした国と表現しています。著者は日本の銀行の経営者と面談して、感心したり感動したことはなかったという。日本には勤勉な平社員がいますが、日本には経営を良い方向に変えていくことのできる経営者がいないのです。これは失敗を恐れる日本人の特性に原因があるのか、それともそうした挑戦せず失敗しない人しか出世できない日本の組織文化に原因があるのか、ナゾは深まります。
著者は頭がいい!という印象でした。もう少しアトキンソンさんを調査してみたいと思います。アトキンソンさん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・女性の就業比率を高める・・・他国よりも明らかに劣っている部分を改善する(p52)
・日本の銀行の経営者と付き合ってわかったのは、彼らが利益に興味がなく、抽象的な話が多くて、何ら問題解決をしようとしないということでした(p82)
・2008年から2010年の調査では、京都市の市街地には4万7735軒の町家があるといいますが、年に1000軒壊されている(p189)
【私の評価】★★★★☆(83点)
目次
第一章 外国人が理解できない「ミステリアスジャパニーズ現象」
第二章 日本の「効率の悪さ」を改善する方法
第三章 日本の経営者には「サイエンス」が足りない
第四章 日本は本当に「おもてなし」が得意なのか
第五章 「文化財保護」で日本はまだまだ成長できる
第六章 「観光立国」日本が真の経済復活を果たす
著者経歴
デービッド・アトキンソン(David Atkinson)・・・小西美術工藝社会長。元ゴールドマンサックスアナリスト。裏千家茶名「宗真」拝受。1965年、イギリス生まれ。オックスフォード大学「日本学」専攻。アンダーセンコンサルティング、ソロモンブラザーズを経て、1992年にゴールドマンサックス入社。日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。98年に同社managing director(取締役)、06年にpartner(共同出資者)となるが、マネーゲームを達観するに至り、07年に退社。同社での活動中、99年に裏千家に入門。日本の伝統文化に親しみ、06年には茶名「宗真」を拝受する。09年、創立300年の国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、取締役に就任。10年に代表取締役会長、11年に同会長兼社長に就任し、日本の伝統文化を守りつつ、旧習の縮図である伝統文化財をめぐる行政や業界の改革への提言を続けている。
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