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「「強い日本」をつくる論理思考」デービッド・アトキンソン,竹中 平蔵

2022/11/15公開 更新
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「「強い日本」をつくる論理思考」デービッド・アトキンソン,竹中 平蔵


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

なぜ日本でコロナ病床が逼迫するのか

欧米思考のお二人の議論に興味があって手にした一冊です。批判されることが多い二人ですが、主張は合理的に見えます。まず、新型コロナウイルスへの対応については、日本には、160万人分の病床があるのに、なぜ病床が逼迫するのか。それは民間の病院が新型コロナ患者を受け入れていないからです。イギリスでは病床全体の4、5割を、新型コロナウイルスの感染者にあてたというのですから、日本にはできない理由があるということなのでしょう。


特にアトキンソンさんが問題としているのは、一生懸命新型コロナ患者を受け入れている公的病院がたいへんな思いを引き受けている一方で、引き受けていない民間病院を代表する医師会が新型コロナへの対応をどうこう主張するのは、違和感があるのでしょう。確かに民間病院は中小規模の病院が多く、日本ではこうした中小企業の主張が通りやすい風土があるようなのです。


・新型コロナウイルス対策もそうです。医者に対して国は医師免許を与えたのだから、感染者を引き受けてもらうべきです・・・むしろ引き受けないほうが得をする。きちんと仕事をしている人ほど、周囲からあれこれ言われる(アトキンソン)(p162)


中小企業を大企業に育成する

強い日本を作るためにアトキンソンさんの提案しているのは、日本の中小企業の給与(生産性)は低いので、中小企業を保護するのではなく、中小企業を大企業に育成することです。もちろん、日本政府は中小企業に補助金を出したり、税制上の優遇を与えています。しかし、アトキンソンさんに言わせれば、補助金そのものが問題だというのです。


つまり、中小企業である限り優遇され、大企業になると補助金をもらえないという意味で、日本政府の補助金は逆のインセンティブが働くのです。これは農業についても同じであり、援助するだけ弱い業者が生き残り、弱い業者が高齢化していなくなるまで援助は続くのです。その結果、産業は弱体化したまま維持されることになるのです。


・中小企業には、さまざまな税制上の優遇策があります。しかも中小企業である限り、永遠に優遇が続きます。これでは大企業になろうとするインセンティブは働きません(アトキンソン)(p116)


中小企業を大企業に育成する

お二人は「政策に規律がない」と指摘しています。つまり強い日本をつくるという目的に合致した政策が行えていないということです。具体的には、民間の医療機関にコロナ対応を強制できない。中小企業を保護して、中小企業のままでいることを推奨している。街並み維持の規制がなく、景観を破壊している。技能実習生制度という技能の低い労働者を合法化したまやかしの制度を運用している。


また、新しい試みは潰されることを指摘しています。具体的には1980年代に生まれた民泊が旅館業法に反するとして止められた。ドローンも自由に飛ばせない。すべての人の意見を聞いて、反対があると進めないのが、今の日本だというのです。中小企業の論理で言えば、二人が批判される理由がわかりました。弱い人に合わせて、全体が弱くなるのを選択するのか、それとも弱い人を減らし、強い人を増やして全体としては強くなる方を選ぶのかということです。


アトキンソンさん,竹中さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・日本では・・・一日4000人が亡くなっています。一方新型コロナウイルスで亡くなった・・・一日20人になります・・一方自殺する人は一日60人で、新型コロナウイルスで死亡する人の3倍です(竹中)(p37)


・外国の国会の権限が強い・・・歴史的建造物が多い地域は政府による指定に基づいて、所有者の権利は徹底的に制限されています。だから、綺麗です。京都のように、毎日約三軒の京町家が取り壊されるなんてことは欧州では論外です(アトキンソン)(p38)


・煽るマスコミと、全体に責任を負わなければならない総理大臣が、つねに戦わなければいけない状態・・・残念ながらそれが、日本の民主主義の実態だと思います(竹中)(p41)


・霞が関は、業者に丸投げ・・・修理する職人に求める国家資格がないのです。実績も問われません・・・成果物に責任を担保する入札のルールもない(アトキンソン)(p161)


・小規模事業者の場合、税制のインセンティブが働くので、労働者に賃金を払ったら、残りを自分たちの役員報酬として分配するところが少なくありません。だから70%弱の日本企業は赤字なのです(アトキンソン)(p128)


▼引用は、この本からです
「「強い日本」をつくる論理思考」デービッド・アトキンソン,竹中 平蔵
デービッド・アトキンソン,竹中 平蔵。ビジネス社


【私の評価】★★★★☆(85点)


目次

第1章 政府のコロナ対策、何が問題か
第2章 日本の経済成長に求められるもの
第3章 改革は中途半端でなく、徹底的に
第4章 日本に欠けている「競争戦略」の視点
第5章 AI、デジタル庁の可能性
第6章 霞が関にもの申す!



著者経歴

竹中平蔵(たけなか へいぞう)・・・1951年、和歌山県和歌山市生まれ。一橋大学経済学部卒業後、1973年日本開発銀行入行。1981年に退職後、大蔵省財政金融研究室主任研究官、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で経済財政政策担当大臣、郵政民営化担当大臣などを歴任。現在、慶應義塾大学名誉教授、世界経済フォーラム(ダボス会議)理事などを務める。博士(経済学)。ほか公益社団法人日本経済研究センター研究顧問、アカデミーヒルズ理事長、株式会社パソナグループ取締役会長、オリックス株式会社社外取締役、SBIホールディング株式会社社外取締役などを兼職。


デービッド・アトキンソン(David Atkinson)・・・小西美術工藝社社長。1965年イギリス生まれ。日本在住31年。オックスフォード大学「日本学」専攻。裏千家茶名「宗真」拝受。1992年ゴールドマン・サックス入社。金融調査室長として日本の不良債権の実態を暴くレポートを発表し、注目を集める。2006年に共同出資者となるが、マネーゲームを達観するに至り2007年に退社。2009年創立300年余りの国宝・重要文化財の補修を手掛ける小西美術工藝社に入社、2011年同社会長兼社長に就任。2017年から日本政府観光局特別顧問を務める。


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