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ノーベル文学賞「日の名残り」カズオ イシグロ

2022/11/02公開 更新
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「日の名残り」カズオ イシグロ


【私の評価】★★★★☆(86点)


要約と感想レビュー

 舞台設定は第二次世界大戦後、200年の歴史を持つ英国ダーリントン家のお屋敷「ダーリントン・ホール」が、米国の資産家に売却されたところからはじまります。「ダーリントン・ホール」に長く仕えた老執事が、新しい主人から与えられた小旅行のなかで、自分の執事としての人生を振り返っていくのです。


 「ダーリントン・ホール」と老執事は、日の沈まない国といわれた英国の政治の歴史の裏を見てきました。「ダーリントン・ホール」では英国の首相と外相がナチスドイツ大使と密談したり、第一次世界大戦後の処理について方向性を決定する非公式な国際会議が開かれていたのです。興味深いのは、日本では料亭で政治が決まっていたのに対し、英国では貴族のお屋敷で政治が決まっていたということです。


・議論も決定も、およそ重要な事柄はすべて、この国の大きなお屋敷の密室の静けさの中で決まるものでした(p143)


 偉大な品格を持った執事とは、英国ではどう定義されているのでしょうか。


 執事はお客様への応対からお屋敷の管理、召使いの管理は当然のこととして、主人の要望があれば何でも対応しなてくてはなりません。そして品格を持った執事は、正しい言葉づかい、主人との会話とジョークにつきあえるだけの博識と遊び心を持ち、決して私を出さずあくまで職業人として業務を執行していくことができるのです。もちろん秘密厳守で。


 そして偉大な執事は、「この雇主にこそ私のすべてを捧げよう」という主人を持っています。そして、何事にも落ち着いて対応し、一歩下がった慎ましさを備えています。日本でいえば、創業社長を滅私奉公で支えるサラリーマン執行役員のようなものでしょうか。


・品格の有無を決定するものは、みずからの職業的あり方を貫き、それに堪える能力だと言えるのではありますまいか(p52)


 慎ましいというか、内省的というか、真面目というか、精神性を重視するというか日本人とイギリス人は似ていると感じました。王室や貴族という階級を持つ英国と、皇室や皇族という階級を持つ日本騎士道と武士道といった精神性にも、同じ島国として親近感があります。また、栄光の時代から右肩下がりで国力が低下してきているのも似ているのです。


 この本ではかつて世界を支配したイギリス紳士のあり方を、帰化した日本人が小説としてまとめたところに、高い評価を受ける秘密があるように感じました。品格を感じる一冊でした。★4つとします。イシグロさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・雇人がジョークで主人を楽しませるのも、アメリカでは立派に仕事のうちらしいとは聞いております(p22)


・大陸の人々が執事になれないのは、人種的に、イギリス民族ほど感情の抑制がきかないからです(p52)


・いちばん上には、王室や公爵家をはじめとする、古い家系を誇る家々があります。やや下ったところに「新興階級」が位置し、さらにずっと下ってある位置を越えますと、あとは単純に財産の多寡で上下関係が決まります(p142)


▼引用は、この本からです
「日の名残り」カズオ イシグロ
カズオ イシグロ、早川書房


【私の評価】★★★★☆(86点)


目次

プロローグ  1956年7月 ダーリントン・ホールにて
一日目 夜  ソールズベリーにて
二日目 朝  ソールズベリーにて
二日目 午後 ドーセット州モーティマーズ・ポンドにて
三日目 朝  サマセット州トーントンにて
三日目 夜  デポン州タビストック近くのモスクムにて 
四日目 午後 コーンヲール州リトル・コンプトンにて
六日目 夜  ウェイマスにて



著者紹介

 カズオ・イシグロ(Kazuo Ishiguro)・・・1954年11月8日長崎生まれ。1960年、5歳のとき、海洋学者の父親の仕事の関係でイギリスに渡り、以降、日本とイギリスのふたつの文化を背景に育つ。その後英国籍を取得した。ケント大学で英文学を、イーストアングリア大学大学院で創作を学ぶ。1982年の長篇デビュー作『遠い山なみの光』で王立文学協会賞を、1986年発表の『浮世の画家』でウィットブレッド賞を受賞した。1989年発表の第三長篇『日の名残り』では、イギリス文学の最高峰ブッカー賞に輝いている。2017年にはノーベル文学賞を受賞。2018年に日本の旭日重光章を受章し、2019年には英王室よりナイトの爵位を授与された。


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