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「空海の風景(下巻)改版」司馬 遼太郎

2019/07/17公開 更新
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空海の風景〈下〉 (中公文庫)


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

空海は密教の正系を伝承する相伝者

空海は、唐の首都長安で密教の正系を伝承している恵果から相伝者として選ばれ、密教のすべてを日本に持ち帰りました。恵果には千人もの弟子がいたと言われていますが、後継者として選ばれたのは日本からの留学生である空海であったのです。空海が選ばれたのが奇蹟とすれば、短期間に漢語、サンスクリット語で密教の伝承を完了したことも奇跡といえます。


空海はサンスクリット語というインドの語学を学んだということになります。空海が長安に入ってわずか五カ月ほどでサンスクリット語を習得したというのは、事実であるように思われるが、しかしそれほどの頭脳が、この世に存在するのか司馬遼太郎は疑問を呈しています。


空海に密教の法を教えた恵果は、青竜寺で亡くなり、長安の東郊孟村に埋葬され、碑が建てられました。恵果ほどの重要人物の碑文の場合、一流の名士に委嘱されるのがふつうであった碑文は、空海が起草し、空海が書いたという。恵果の数千の門人のなかから空海が選ばれたのです。


・恵果は質問をうけるだけでなく、口伝や動作以外では伝えようのない秘旨のすべてを空海に教えた。空海は・・いちいち筆記した・・そのノートが、空海の『秘蔵記』一巻である(p25)


空海は嵯峨天皇に新しい「真言宗」を提案

空海と同時に唐にわたり天台宗の体系を持ち帰った最澄は、その費用は国家が出していました。一方で、空海は私費留学生であり、その費用は自分でスポンサーから集めたものと考えられています。20年間唐で学ぶことを前提とした留学生の空海は、たった2年の滞在で密教の正統の後継者となったのです。


当時、密教は彫刻と絵画を中心とした美術によってその思想を表現しており、経費のかかるものであったという。したがって、宮廷のもつ権力と財力を追い使わねば、その経費を要する真言密教の伽藍や密教仏の制作、多量の金属を必要とする法具類の調製は難しかったという。空海は嵯峨天皇に新しい「真言宗」を提案し、天皇はその提案を受け入れたのです。
空海は、国を安定させるためには


・空海は、恵果から、一個人としてゆずりうけたのである・・要するに空海は、日本国から義務を負わせられず、経費をあたえられずして、密教を「請益」してしまったのである(p31)


空海は真言宗を作りあげる

帰国後の空海は、密教を既存の仏教と同じレベルかそれ以上の宗教としての真言宗を作りあげました。もともと密教は、唐では「宗」という一個の体系のものではなく、既成仏教のなかの呪術部門のようなものだったのです。空海は、本来仏教の呪術部門である密教を一宗とし、既成仏教のすべてを、密教と対置する顕教として規定してしまったのです。


また、高野山に密教の思想を反映させた寺院を建立し、現在の高野山の祖となったのです。もう一度、高野山に行ってみたいと思います。司馬さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・空海の嵯峨(天皇)に対する態度は友人のようであり、嵯峨もまた空海を友人のように遇したことは、嵯峨の詩を見ても想像できる(p180)


・「万灯、万華会を興行せよ」と、弟子たちにその趣旨や方法をのべ、大いに奉行することを命じたのは、かれの死の二年前の八月であった。この時代、庶民が夜間、油をもって灯をともすということはまずなかったほどに油は高価だった(p390)


空海の風景〈下〉 (中公文庫)
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司馬 遼太郎
中央公論社
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【私の評価】★★★★☆(85点)


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著者経歴

司馬 遼太郎(しば りょうたろう)・・・1923年大阪市生まれ。本名、福田 定一。学徒出陣のため大阪外国語学校蒙古語部卒業後、入隊。終戦後、いくつかの新聞社に勤務。「ペルシャの幻術師」で講談倶楽部賞、1960年『梟の城』で直木賞を受賞。1961年に産経新聞社を退職し、作家生活に入る。『竜馬がゆく』『国盗り物語』『坂の上の雲』『空海の風景』『翔ぶが如く』など構想の雄大さ、自在で明晰な視座による作品を多数発表。1996年逝去。


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