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「空海の風景(上巻)改版」司馬 遼太郎

2019/07/16公開 更新
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空海の風景〈上〉 (中公文庫)


【私の評価】★★★★☆(85点)


要約と感想レビュー

空海の天才性

高野山へ行ったので、弘法大師、空海を知らなくてはならないと手にした一冊です。これは小説なのでしょうか。司馬遼太郎が空海について徹底的に調べ、その人生を浮かび上がらせた調査報告書に思えました。


空海は四国の讃岐国に生まれ、讃岐国の国学に学びました。そこで儒教と道教と仏教を比較する物語を書いています。現代でいえば、単純に自己啓発本を書くのではなく、わかりやすく小説形式で書いたということでしょう。空海の天才性の一端が現れているように思います。


・空海の年少のころは修学生であった・・・わざわざ演劇的構成でもって『三教指帰』を書くことによって、かれが大学で学ばされている儒教と道教と仏教の三者の優劣を比較し、結論として仏教のほうが他の二者よりはるかにすぐれているということをひき出すのである(p58)


唐に渡る前には漢語がペラペラ

空海は24歳で学びの場を離れ、放浪の旅に出ています。その放浪の7年間は記録がないものの31歳で唐に渡る前には漢語がペラペラで、漢人が驚くような文と書を書くことができたというのです。日本における独学だけで漢語を完璧に仕上げるのは、これもまた空海が天才と言われる所以なのでしょうか。


そして、最澄が天台教学を学び持ち帰ることは国家が公認し、その経費は国家から出たが、空海は自前で経費を調達し遣唐使船に乗っているのです。空海が真言密教を確立した後、四国に多くの寺を建設したのは、出発前に経費を寄進してくれた諸豪族に対してそのような形で還元したのではないかと、司馬遼太郎は想像しているのです。


・この七年間のあいだにかれは山林において修行しつつも・・・諸寺を歩き、その経蔵に籠り、文字どおり万巻の経典を読んだらしい(p154)


通常20年で学ぶものを2年で帰国

空海という天才は、通常20年間、中国で学んで帰国するものを2年で帰国しています。空海は二十年分の国家の給与と、寄進を受けていましたが、空海は真言密教のぼう大な体系を経典、密具、法器もろとも持ちかえったのです。それも真言密教の正統な後継者として認められたうえで、その体系全体を引き継いできたのです。


これも空海の天才性、奇跡と言えますが、空海が日本においていかに学び切り、学問的に完成していたということなのでしょう。また、長安で二十年分の金を二年でつかいきったということでもあり、贅沢に金銀を費ったということでもあるのです。


司馬さん、良い本をありがとうございました。以下下巻に続く。


この本で私が共感した名言

・この時代に、地方に国学という教育機関があり、中央に大学があった・・・教授は国博士とよばれた。一人いる・・・讃岐国では、「聖堂」と、俗によばれていた(p39)


・奈良朝以来、庶民にして耕作からのがれるべく勝手に頭を剃って山林に遊行し、私度僧になって里人に食を乞うという安易な暮らしをする者が多く、歴朝は官僧以外には認めずとして庶民の私度を禁止ずるのに躍起になってきた(p99)


・一沙門が空海に伝授してくれたのは、あるいはこの当時とすればきらびやかな科学としてであったにちがいない。つなり、ある真言を、ある場所へゆき、そこで一定の時間内に百万べんとなえるというものである・・八万四千といわれる経文を意のままに暗誦できるようになる(p107)


・空海のほうは、「密教こそ仏教の完成したかたちである」として最澄の体系に対抗し、しかもその自信は終生ゆるがなかった(p128)


・おそらく人類がもった虚構のなかで、大日如来ほど思想的に完璧なものは他にないであろう。大日如来は無限なる宇宙ののすべてであるとともに、宇宙に存在するすべてのものに内在していると説かれるのである(p141)


・『大日経』七巻三十六章は、すでにインド僧の手で唐の長安にもたらされ、そこで漢訳されている。その漢訳が完成してわずか五年後の730年に日本につたわっていることをおもうと、当時の東アジアにおける交通の活発さに目をみはらざるをえない(p158)


・長安が世界の都であることが・・・かれがのちにその思想をうちたてるにおいて、人間を人種で見ず、風俗で見ず、階級で見ず、単に人間という普遍性としてのみとらえたのは、この長安で感じた実感と無縁でないに相違ない(p327)


空海の風景〈上〉 (中公文庫)
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司馬 遼太郎
中央公論社
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【私の評価】★★★★☆(85点)


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著者経歴

司馬 遼太郎(しば りょうたろう)・・・1923年大阪市生まれ。本名、福田 定一。学徒出陣のため大阪外国語学校蒙古語部卒業後、入隊。終戦後、いくつかの新聞社に勤務。「ペルシャの幻術師」で講談倶楽部賞、1960年『梟の城』で直木賞を受賞。1961年に産経新聞社を退職し、作家生活に入る。『竜馬がゆく』『国盗り物語』『坂の上の雲』『空海の風景』『翔ぶが如く』など構想の雄大さ、自在で明晰な視座による作品を多数発表。1996年逝去。


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