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「項羽と劉邦(上)」司馬 遼太郎

2006/11/16公開 更新
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項羽と劉邦(上) (新潮文庫)


【私の評価】★★★☆☆(77点)


要約と感想レビュー

司馬 遼太郎の本はいつ読んでも面白いのですが、この本を手にして失敗したと思いました。項羽と劉邦という人物を中心に「三国志」の時代を鮮やかに描き出してくれるのですが、面白いので止まりません。こうした本は、その人物の性格、時代の背景、雰囲気といったものを理解しなくては書けないものです。


例えば、当時の「王」とは実質は流民の親分で傘下の流民をたえず食わせつづけるか、せめてその期待を抱かせつづけなければ、殺される存在であったとしています。それを出演者を通じてリアルに描写していくのが、司馬 遼太郎の筆力なのでしょう。


・(項梁というのは、策の多いひとだな)召平は、おもった。策の多いのは読書をしすぎたせいかもしれない。その点は、自分に似ている。(p273)


私が、司馬 遼太郎の本が好きなのは、歴史小説を書きながら、ときおり、人間というものの性質、本質といったものを書いてくれるからです。例えば、劉邦については、無邪気で平凡であり、そのため幕僚や武将たちは、自分たちが智恵をふりしぼってでもこの頭目を補助しなければどうにもならないと思うようになっていたとしています。


実は、そうした人間の性質を書きたくて司馬さんは小説を書かれていたのかもしれません。歴史を学び、人間というものを学ぶことのできる一冊です。一日一冊読むには厳しい本ですが、ゆっくり時間があるときには最適の一冊でしょう。★3つとしました。


この本で私が共感した名言

・秦の法律では、いったん徴発されてしまった兵や土工が所定の期日までに目的地に着かない場合、全員が死刑ということになっている。(p45)


・暦世、この大陸にあっては兵士と盗賊の区別がつきがたく、戦って買っては掠奪し、掠奪を期待することで士気もあがるという習性があったが、蕭何は極端にこれをきらった。(p350)


・権力が人々の恐怖を食い物ににして成長してゆくとき、生起(おこ)る事がらというのは、みな似たような、いわば信じがたいほどのお伽噺ふうであることが多い。(p448)


▼引用は、この本からです。


【私の評価】★★★☆☆(77点)


著者経歴

司馬 遼太郎(しば りょうたろう)・・・1923年大阪市生まれ。本名、福田 定一。学徒出陣のため大阪外国語学校蒙古語部卒業後、陸軍に入隊。満州へ行き、終戦時は本土の戦車連隊所属。復員後、朝日新聞社を経て、産業経済新聞社入社。「ペルシャの幻術師」で講談倶楽部賞、1960年『梟の城』で直木賞を受賞。1961年に産経新聞社を退職し、作家生活に入る。『竜馬がゆく』『国盗り物語』『坂の上の雲』『空海の風景』『翔ぶが如く』など構想の雄大さ、自在で明晰な視座による作品を多数発表。1996年逝去。


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