「放射線医が語る福島で起こっている本当のこと」中川 恵一
2017/07/13公開 更新本のソムリエ [PR]
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
要約と感想レビュー
福島第一原子力発電所の事故は、悲惨なものでした。多くの周辺自治体の人たちが、国の指示で避難し、今も多くの人が避難しています。この本では、今回の事故の放射線で死亡する人より、避難のストレスで死亡した人が多かったのではないかと問題提起しています。特に自分では動けないような介護老人は、避難により多くの人が亡くなっているのです。
・3年半に及ぶ避難生活は、住民の心身をズタズタにしてきました・・直接死を上回る3089人(2014年3月末現在)の「震災関連死」・・体調不良や過労、自殺など(p79)
つまり、福島ではデータに基づく合理的な判断ができていないのではないかということです。
なぜ、避難すると亡くなるリスクが高い人まで避難させるのか。
なぜ、自然被ばく量が約2mSv/年で、100mSvでガンが0.5%増える程度なのに除染の目標が1mSv/年なのか。
なぜ、世界の原子力発電所では放流している弱い放射線しか出さないトリチウムを含んだ汚染水が放流できないのか。
・広島・長崎のような一瞬の被ばくでは、100ミリシーベルト以上になると・・がん死亡が0.5%増えます(p36)
特に放射能に関しては、理論や統計的に間違った判断が行われやすいのだと思いました。なぜなら、放射能というものが見えず、影響もすぐには出現せず、なんとなく怖いものだからです。
例えば、日本人の自然被ばく量は平均約2.09ミリシーベルト/年で、自ら望んで受ける「医療被ばく」は平均3.87ミリシーベルト/年なのです。イランの温泉保養地ラムサールではウラン鉱石による自然被ばくが、1年間で260ミリシーベルトにもなるのです。
現在も放出できていない汚染水のトリチウムについても、1リットル当たり6万ベクレルまでは海洋放出してよいと認められており、毎日2リットル飲んだとしても、1年間の被ばく量は0.8ミリシーベルト程度なのです。そもそも天然の魚介類を摂取することによって、日本人は年約1ミリシーベルト程度の自然な内部被ばくを受けているのにです。
現実問題として、風評被害が出るじゃないかということもあると思います。合理的な報道と合理的な意思決定ができない日本人の特性は、先の大戦中から今まで変わらないのだなとも感じました。中川さん、良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・肥満や運動不足、塩分の摂りすぎは200~400ミリシーベルトの被ばくに相当します。タバコを吸ったり、毎日3合以上のお酒を飲むと、がん死亡率のリスクは1.6~2倍に跳ね上がりますが、これは2000ミリシーベルトの被ばくに相当します(p4)
・飯館村の老人ホームを避難させようとした愚・・・高齢者を動かすと、むしろ亡くなる確率が高まるというのは、データとして出てきています(p51)
・飛行機と自家用車を比べたら、自家用車の危険のほうが確率的には絶対に高いわけです・・9・11の後にものすごくアメリカで交通事故が増えちゃった(p165)
▼引用は下記の書籍からです。
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【私の評価】★★★☆☆(77点)
目次
第一章 放射線のウソ・ホント
第二章 がんのウソ・ホント
第三章 避難が最大のリスクという福島の皮肉
第四章 豊かさと健康長寿は相関する
第五章 「バカの壁」で健康を損ねる人類
著者経歴
中川恵一(なかがわ けいいち)・・・1960年、東京生まれ。東京大学医学部附属病院放射線科准教授。東京大学医学部医学科卒業後、スイスのポール・シェラー研究所に客員研究員として留学。
放射線・放射能関連書籍
「小説1ミリシーベルト」松崎忠男
「世界一わかりやすい放射能の本当の話 完全対策編」宝島社
「復興の日本人論 誰も書かなかった福島」川口 マーン惠美
「放射線医が語る福島で起こっている本当のこと」中川 恵一
「はじめての福島学」開沼博
「ヤクザと原発 福島第一潜入記」鈴木 智彦
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