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「小説1ミリシーベルト」松崎忠男

2018/06/25公開 更新
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小説 1ミリシーベルト


【私の評価】★★☆☆☆(69点)


要約と感想レビュー

 福島第一原発事故後の除染の目標が年間1ミリシーベルトになった経緯を、元文部科学省の技官であった著者が教えてくれます。著者は、①放射線作業員の線量限度が五年間で100ミリシーベルト、年平均20ミリシーベルトであること、②年100ミリシーベルトは野菜不足や運動不足、受動喫煙のリスクと同じであること、③通常の線量が年間2.4ミリシーベルトであることを勘案して、年20ミリシーベルトを落としどころとしたいと考えたようです。


 1ミリシーベルトを堅持しようとすると、多くの人々が避難しなければならなくなります。お年寄りが寒い体育館で避難生活をすることとなり、それが引き金をなって体力が低下し、病状を悪化させるお年寄りが、すでに大勢出ていたのです。実際、双葉町の病院では一晩で14人もの死者が出ていたのです。


・ICRPの放射線防護の三原則の一つ、最適化を適用するように勧告しているのです・・『合理的に達成できる限り低く』とする考え方です。放射線被曝を抑えるために、逆に他のリスクが高くなったり、あるいは経済的、社会的に受け入れられないほどの大規模な防護措置を取らなければならない場合は、放射線防護だけではなく、他のリスクも含め総合的に考えましょう、という意味です(p92)


 ところが、1ミリシーベルトを主張するグループが出てきて、著者と意見が対立します。自然放射線で一年間に平均2.4ミリシーベルト被曝するというのに、どうして1ミリシーベルトにそこまで拘(こだわ)るのか著者には理解ができませんでした。わずかな放射線被曝を回避することで生じる他のリスクにはまるで目が向いていないのです。


 著者は年20ミリシーベルトでもリスクはとても小さく、避難によるストレスや環境変化のほうがリスクが高いと主張しました。しかし最終的に除染の目標は年間1ミリシーベルトとなってしまいました。そのせいで、被災地では病院から避難した老人が多数亡くなっているのです。なぜ、放射線の影響度の現実を理解してくれないのか・・・著者の苦悩は高まるばかりでした。


・お年寄りが放射線を浴びたとして、どれだけ癌のリスクが上がるというんでしょう・・癌には長い潜伏期間があります。癌になるより先に寿命がくる人達です。もっと現実的に考えるべきです」「今の発言、不適切だと思います。お年寄りを愚弄しています」若い女性の声がした(p95)


 小説としては稚拙なものでしたが、現場の雰囲気は分かりました。そういえば、内閣官房参与だった某教授が20ミリシーベルトを学問上もヒューマニズムの点からも受け入れがたいとして、辞任したことを思い出しました。そうした辞任ばかり報道して、20ミリシーベルトの本質を報道するマスコミはありませんでした。


 非常事態とはいえ1ミリシーベルトの基準、すべての原子力の停止、不安定な太陽光の大量導入は、几帳面な日本人らしい判断として歴史に残るのでしょう。松崎さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・放射線作業従事者の線量限度は、年間50ミリシーベルト、かつ五年間で100ミリシーベルト、つまり年平均にすると20ミリシーベルト、また公衆の線量については、年間1ミリシーベルトを担保するよう原子力関連施設からの排気濃度や排水濃度が定められています(p58)


・欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、微量でも弱い放射線を浴び続けることは・・大きな健康被害をもたらすと主張する・・・大志田は腹が立ってきた。ECRRなんかをICRPと同列に並べ比較している。ICRPと名前が似ているだけでECRRなどまったく論評に値しない組織だ。記者の不勉強も甚だしい(p153)


・原子力に限らず、本務を疎かにし、政治運動に没頭するような大学教員は通常、定年まで助教暮らしだ。たまに私大で教授になる者もいるが、あくまで例外に過ぎない(p85)


・原発反対運動にのめり込んでいる大学教員は、まともな研究などほとんどやっていないことは、大学関係者なら大抵知っている。「当然、論文が書けないわけだ。だから、自分の力で研究費は取れないし、研究チームにも入れてもらえない。昔はそれでもなんとかやっていけたんだよ。ところが法人化で、助教まで含めて、一人ひとり厳しく業績を評価されるようになった」(p143)


▼引用は下記の書籍からです。
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【私の評価】★★☆☆☆(69点)


目次

プロローグ
第一章 放射能分析
第二章 食品安全委員会
第三章 ALARA
第四章 校庭利用問題
エピローグ



著者経歴

 松崎忠男(まつざき ただお)・・・1953年生まれ。東京大学工学部卒業、米国ペンシルベニア大学大学院修士課程修了。旧科学技術庁に入庁。文部科学省で科学技術行政などに携わる。『小説 1ミリシーベルト』で第4回エネルギーフォーラム小説賞を受賞


放射線・放射能関連書籍

「小説1ミリシーベルト」松崎忠男
「世界一わかりやすい放射能の本当の話 完全対策編」宝島社
「復興の日本人論 誰も書かなかった福島」川口 マーン惠美
「放射線医が語る福島で起こっている本当のこと」中川 恵一
「はじめての福島学」開沼博
「ヤクザと原発 福島第一潜入記」鈴木 智彦


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