「小説1ミリシーベルト」松崎忠男


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【私の評価】★★☆☆☆(69点)
要約と感想レビュー
■元文部科学省の技官が書いた
福島第一原発事故後の除染の目標が
年間1ミリシーベルトになった経緯です。
著者は、放射線作業員の線量限度が
五年間で100ミリシーベルト、
年平均20ミリシーベルトであること。
年100ミリシーベルトは
野菜不足や運動不足、受動喫煙の
リスクと同じであること。
通常の線量が年間2.4ミリシーベルト
であることを勘案して、
年20ミリシーベルトを落としどころと
したいと考えたようです。
・1ミリシーベルトを堅持しようとすると、おびただしい数の人々が避難しなければなりません。お年寄りが寒い体育館で避難生活をしています。避難生活が引き金をなって体力が低下し、病状を悪化させるお年寄りが、すでに大勢出ています・・双葉町の病院では・・一晩で14人もの死者が出たそうです(p94)
■ところが、1ミリシーベルトを
主張するグループと意見が対立します。
著者は年20ミリシーベルトでも
リスクはとても小さく、
避難によるストレスや環境変化のほうが
リスクが高いと主張しました。
実際に、被災地では
病院から避難した老人が
多数亡くなっているのです。
なぜ、放射線の影響度の現実を
理解してくれないのか・・・
著者の苦悩は高まるばかりです。
・お年寄りが放射線を浴びたとして、どれだけ癌のリスクが上がるというんでしょう・・癌には長い潜伏期間があります。癌になるより先に寿命がくる人達です。もっと現実的に考えるべきです」「今の発言、不適切だと思います。お年寄りを愚弄しています」若い女性の声がした(p95)
■小説としては稚拙なものでしたが、
現場の雰囲気は分かりました。
そういえば、
内閣官房参与だった某教授が
20ミリシーベルトを学問上も
ヒューマニズムの点からも受け入れがたいとして、
辞任したことを思い出しました。
非常事態とはいえ
1ミリシーベルトの基準、
すべての原子力の停止、
不安定な太陽光の大量導入は、
几帳面な日本人らしい判断として
歴史に残るのでしょう。
松崎さん
良い本をありがとうございました。
この本で私が共感した名言
・放射線作業従事者の線量限度は、年間50ミリシーベルト、かつ五年間で100ミリシーベルト、つまり年平均にすると20ミリシーベルト、また公衆の線量については、年間1ミリシーベルトを担保するよう原子力関連施設からの排気濃度や排水濃度が定められています(p58)
・ICRPの放射線防護の三原則の一つ、最適化を適用するように勧告しているのです・・『合理的に達成できる限り低く』とする考え方です。放射線被曝を抑えるために、逆に他のリスクが高くなったり、あるいは経済的、社会的に受け入れられないほどの大規模な防護措置を取らなければならない場合は、放射線防護だけではなく、他のリスクも含め総合的に考えましょう、という意味です(p92)
・欧州放射線リスク委員会(ECRR)は、微量でも弱い放射線を浴び続けることは・・大きな健康被害をもたらすと主張する・・・大志田は腹が立ってきた。ECRRなんかをICRPと同列に並べ比較している。ICRPと名前が似ているだけでECRRなどまったく論評に値しない組織だ。記者の不勉強も甚だしい(p153)
・反対グループの主張は、やはり年間1ミリシーベルトです。自然放射線で一年間に平均2.4ミリシーベルト被曝するというのに、どうして1ミリシーベルトにそこまで拘(こだわ)るのか・・放射線被曝を回避することしか頭にないですからね。他のリスクにはまるで目が向いていない(p253)
・原子力に限らず、本務を疎かにし、政治運動に没頭するような大学教員は通常、定年まで助教暮らしだ。たまに私大で教授になる者もいるが、あくまで例外に過ぎない(p85)
・原発反対運動にのめり込んでいる大学教員は、まともな研究などほとんどやっていないことは、大学関係者なら大抵知っている。「当然、論文が書けないわけだ。だから、自分の力で研究費は取れないし、研究チームにも入れてもらえない。昔はそれでもなんとかやっていけたんだよ。ところが法人化で、助教まで含めて、一人ひとり厳しく業績を評価されるようになった」(p143)
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▼引用は下記の書籍からです。
【私の評価】★★☆☆☆(69点)
目次
プロローグ
第一章 放射能分析
第二章 食品安全委員会
第三章 ALARA
第四章 校庭利用問題
エピローグ
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「世界一わかりやすい放射能の本当の話 完全対策編」宝島社
「復興の日本人論 誰も書かなかった福島」川口 マーン惠美
「放射線医が語る福島で起こっている本当のこと」中川 恵一
「はじめての福島学」開沼博
「ヤクザと原発 福島第一潜入記」鈴木 智彦