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「ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由」川口・マーン・惠美

2016/06/17公開 更新
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ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由


【私の評価】★★★☆☆(72点)


要約と感想レビュー

ドイツの原発は全部止まっていない

岡目八目というように、海外から見ると日本がよく見えるらしい。ドイツ在住の長い川口さんには日本の原子力政策は、どのように見えたのでしょうか。まず、川口さんは日本が原子力をすべて停止してしまったことに驚いたようです。


なぜならば、原発をやめると言っているドイツでも、原発が全部止まっているわけではないのです。書籍の執筆時で17基のうち9基稼働しているという。それに対して、日本は突然、50基の原子力すべてを止めてしまったのです。どれだけすごい決断をしているか、良く考える必要があると著者は言うのです。


つまり、運転しながらでも耐震、耐津波対策はできるはずです。運転しないことで、電気料金が上昇することになります。チェルノブイリ事故の後も、スリーマイル事故の後も、原子力をすべて停止するという判断にはならなかったのです。


東電以外の電力会社は、事故を起こしたわけでもない。原発を急に止める理由は何もなかったはずだ。・・安全強化は、運転しながらでもできる。どこの国の原発でも、そうしてきた(p205)

日本のCO2排出量はたったの3%

ドイツでは、脱原発の一方で再生可能エネルギーを大量導入しています。再エネは、お天気が悪いと発電量が急速に減るので、バックアップ電源として、ピーク時の需要をほぼ100%満たせるだけの容量を確保しておかなければなりません。デンマークでも風力が30%、バイオマスが15%と再エネ電気の割合がすでに大きいのですが、しわ取りのためのバックアップ電源が不足する昼間の時間帯には、ノルウェーやスウェーデンから水力の電気を買っているのです。


その結果なのか、再エネがすべての原因ではありませんが、ドイツでは電気料金が2倍になっています。川口さんの言いたいことは、外国の事例を正しく調査して、良い仕組みは真似て、悪し仕組みは導入しない。そのようにして長期的にゆっくりと脱原発、再エネ導入を進めればいいのではないかということです。


そもそもCO2の排出量を減らすために再エネを導入しているのですが、現在アメリカの1.7倍のCO2を排出している中国が100万キロワット級の大型石炭発電所を年に50基ほども建設していることを考えなくてはならないのでしょう。世界の3%しかCO2を排出していない日本でCO2を削減するよりも、新興国のCO2削減の手助けをした方が効果的なはずなのです。


ドイツの脱原発・・2022年までにすべての原発を停止。・・連邦系統規制庁の長官は言った。「どう決定しようがあなた方の自由だ。ただ、自分たちが何を決定したかを知るべきだ」(p27)

不安定な再エネにはバックアップが必要

ドイツでも日本でも再エネがどれだけ発電できるかは太陽と風しだいです。そのバックアップを常に準備している電力会社が儲からないのは当然で、電力会社を倒産させるわけにもいかず、いずれ、火力発電所に補助金を出さなければならなくなるだろうと予想しています。実際、日本では2024年から容量市場ということで、発電所が存在することにお金を払う仕組みができているのです。


今の日本は、ドイツの失敗をまねるだけでなく、さらに加速して失敗しようとしているように見えるようです。頭の良いはずの日本人が残念なことです。川口さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・再エネで儲かる人がいる一方、投資するお金のない貧乏人にとっては、再エネはタダどころか、電気代の値上がりをもたらす元凶だ(p56)


・日本には、電気が足りなくなったとき、あるいは、あまったときに融通をつけ合える隣国がない。これは、決定的なデメリットだ(p202)


・世界原子力発電事業者協会(WANO)は、女川発電所に対して、原子力功労者賞を授与している。理由は、①日ごろから緊急時の対応をはじめとした事前準備に備えてきたこと、②巨大地震と津波にもかかわらず、発電所の3基すべてを安全に冷温停止に導いたこと、③震災で被災した地域住民を受け入れ、地域と共に困難を乗り越えたこと(p170)


・リスクマネージメントとは何か・・目の手術は原則として、一人の医師が両目いっぺんにすることはない・・一人で一度にすると、万が一・・・両目を失明してしまう危険があるからだ(p3)


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【私の評価】★★★☆☆(72点)


目次

ドイツが脱原発を決めるまでの紆余曲折
脱原発を理解するための電力の基礎
ドイツの夢見た再エネが直面した現実
今、ドイツで起こっていること
ドイツの再エネ法が2014年に改正されたわけ
「再エネ先進国」を見習えない理由
原発はどれだけ怖いのか?
ドイツの放射性廃棄物貯蔵問題はどうなっているか
日本の原発を見にいく
日本の電力供給、苦闘の歴史と現在
ドイツの脱原発を真似てはいけない理由
日本の豊かさを壊さない賢明な選択を



著者経歴

川口マーン惠美(かわぐち まーん えみ)・・・1956年大阪生まれ。日本大学芸術学部卒業。1985年、ドイツ・シュツットガルト国立音楽大学大学院ピアノ科卒業。シュツットガルト在住。


原子力発電関連書籍

「「脱原発」を論破する―今、日本人の知性が試されている!」長浜 浩明
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「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」菅 直人
「日本電力戦争: 資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜」山岡 淳一郎
「電力と震災 東北「復興」電力物語 」町田 徹
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