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「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」菅 直人

2021/09/18公開 更新
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「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」菅 直人


【私の評価】★★★☆☆(72点)


要約と感想レビュー

退陣の条件は再エネ固定価格買取制度の導入

福島第一原発事故で1号機が水素爆発する日の午前中に、現地にヘリコプターで乗り込んで現場でのベント作業を中断させ、首相退陣前に原子力発電所が再稼働できないよう原子力規制委員会を作り、退陣の条件の一つとして再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)を導入させた菅 直人元首相は今、何を考えているのでしょうか。


再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)の前は、国の審議会ではヨーロッパでFITの賦課金によって電気料金が急上昇していることを考慮して、RPS制度(発電事業者に一定割合以上の再エネの調達を義務づけ)や余剰の太陽光を買取る程度のものでした。ところが東日本大震災の後、菅 直人元首相は脱原発を実現するには、原子力に代わるだけの再エネが必要であり、発電事業者が「これなら利益が出せる」と思える価格が必要と、太陽光発電は1キロワットあたり42円と家庭料金の30円よりはるかに高い価格にしてしまったのです。


さらにドイツでは再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)は産業用には適用されませんが、日本では適用されます。日本の産業を潰すことが、民主党の目的ではないのかと私は疑念を持っているのはこれが理由です。特に興味深いのは、今でも著者の菅直人氏は太陽光発電の拡大を主張しており、ソーラーシェアリング(農営型太陽光電池)で農地を活用すれば、蓄電池導入と組み合わせて日本の電力の全量が発電可能と書いていることです。


私はいつ退陣するのかと問われた。そこで、退陣の三条件として、このFIT法、第2次補正予算、特例公債法の成立を挙げた。そして三つとも成立したので、8月下旬に辞任を表明する(p34)

太陽光・風力発電は不安定電源で高価

太陽光発電や風力発電の電力は売値より高価で、かつ不安定であり、日本の電気料金は再エネ固定価格買取制度の賦課金2.7兆円(2021年度)が上乗せされ、約15%上昇しています。菅直人氏は太陽光発電の拡大を主張するだけで、このまま再エネを増やしていけば、日本の電気料金がどうなるのか理解しているはずなのに、その点は言わないのです。


また、太陽光は昼しか発電できませんので、太陽光発電を大量導入したことによって昼に余った電気は、捨てるか貯めるしかありません。貯めるにしても、比較的安価な揚水発電でも効率は7割くらいで、この揚水発電でさえ、日本では開発が進まないのです。仮に揚水発電よりもさらに高価な蓄電設備を増設するとしても、その負担をするのは消費者です。このまま太陽光発電を増やし、蓄電装置も必要などと進んでいけば電気料金はドイツのように2倍に近づいていくでしょう。元首相でありながら、電力の価格を上昇させ、国家を疲弊させる可能性についてまったく説明しないのです。


さらに著者の菅直人氏は,福島第一原子力事故後に原子力をすべて停止させました。チェルノブイリ原子力事故やスリーマイル島原子力事故と同じように、原子力発電所を運転しながら,安全対策を行うこともできたのです。原子力を停止することで、毎年3兆円の燃料費相当額が燃料費調整制度に基づき電気料金に上乗せされることになりました。再エネ固定価格買取制度の賦課金2.7兆円(2021年度)と合わせれば、30%弱の電気料金を上昇させていることになるのです。年間6兆円弱、10年で50兆円国民負担を増やし、再エネ導入の拡大に合わせて今後も負担は増えていくのです。


東日本大震災は異常に巨大な天災地変ではない?

次に原子力発電への菅直人氏の取り組みを見ていきましょう。驚くのは、原子力損害賠償法では異常に巨大な天災地変によって生じた原子力損害賠償は、電力会社の負担は1事業所当たり1,200億円と定められているのに、すべて東京電力の責任としたのが首相であった菅直人氏であるということです。


これも法律に書いてあることをひっくり返すという判断であり、超法規的措置に近いものと言えます。東京電力から見れば、この判断により原子力を推進してきた国から裏切られ、国営化され、バラバラに解体されることになったのです。もちろん、財務省が資金のシナリオを作り、経産省が東京電力に幹部を送り込んで解体・支配するシナリオを作ったと思われますが、それを許容し決定したのは菅直人元首相であり、その結果責任を負う立場なのです。


原子力損害賠償法という法律があり、・・・「その損害が異常に巨大な天災地変又は社会的動乱によって生じたものであるときは、この限りではない」という規定もありました。東電の清水社長は、今回の事故は巨大津波という天災によるものだから、東電は免責される可能性があると発言したのですが、私は、「東電を免責すると、誰が賠償責任を負うのか。国がすべての賠償責任を負うのは違うだろう」と答弁しました(p208)

東京電力を国営化し解体

原子力損害賠償支援機構法についての記載もありますが、同じように大切なことを説明していません。


菅直人氏は原子力損害賠償支援機構法に基づき"8兆円ものの税金が投入されている"と説明し、あたかも税金で負担しているように書いています。実は、8兆円(現在は13.5兆円)の国債を当面の賠償支払い原資としますが、その国債の半分は東京電力が返済し、残りの半分は一般負担金として東京電力を含む原子力発電事業者である各電力会社が毎年返済しているのです。中部電力は毎年150億円、被災した東北電力も107億円も支払っており、これが25年間続くのです。


これは原子力事故が起きたので、東京電力を各電力会社が支援する仕組みを事後法で作り上げた保険のような仕組みであり、超法規的措置なため正確に記述するとまずいことになりそうなので、簡易的に説明しているのでしょう。本来は国の原子力政策に協力してきた東京電力は免責され、国が支えるという構造であったのですが、財務省や経産省がそんな約束を守るつもりはなく、民主党だから丸め込めたと理解されるべきなのでしょう。


原子力損害賠償支援機構法という法律を制定し・・・資本金は政府出資が70億円、電力会社など原子力事業者12社が70億円を出した・・・この機構には8兆円もの税金が投入されている(p134)

菅直人氏の意図はどこにあるのか

この本を読んでわかることは、大切なことが書いてないということです。元首相という国家の責任者で、すべての情報が手元にあったはずですから、これは意図的と思われます。著者の菅直人氏は学生運動から市民活動家に転じ,日本国の首相となり、大切なことを説明しないままに、これだけの成果を成し遂げることができました。


菅直人氏は、これまでの人生をこのスタイルで生き抜いてきたのであり、今後も大切なことを説明せずに活動を続けていくのでしょう。菅直人さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・日本では原発を所有する9電力会社が送電網の利用を不当に制限しているため、風力発電が期待したほどには伸びていない(p103)


・目先の利く政治家がいたことで、日本は石炭から石油へと転換でき、原子力も推進された。次は再生可能エネルギーだと、なぜ気づかないのだろう(p188)


▼引用は、この本からです
「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」菅 直人


【私の評価】★★★☆☆(72点)


目次

第1章 「原発ゼロ」の真実
第2章 再生可能エネルギーと水素社会
第3章 真の電力改革
第4章 原発と政治



著者経歴

菅 直人(かん なおと)・・・1946年山口県宇部市生まれ。衆議院議員、弁理士。1970年東京工業大学理学部応用物理学科卒業。社会民主連合結成に参加し、1980年衆議院議員選挙に初当選。1994年新党さきがけに入党し、1996年「自社さ政権」での第1次橋本内閣で厚生大臣に就任。同年、鳩山由紀夫氏らと民主党を結成し、党代表に就任。2010年6月第94代内閣総理大臣に就任(~2011年9月)。


原子力発電関連書籍

「「脱原発」を論破する―今、日本人の知性が試されている!」長浜 浩明
「ドイツの脱原発がよくわかる本: 日本が見習ってはいけない理由」川口・マーン・惠美
「原発事故 10年目の真実 始動した再エネ水素社会」菅 直人
「日本電力戦争: 資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜」山岡 淳一郎
「電力と震災 東北「復興」電力物語 」町田 徹
「原発ホワイトアウト」若杉 冽


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