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「日本電力戦争: 資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜」山岡 淳一郎

2016/07/16公開 更新
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日本電力戦争: 資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜


【私の評価】★★☆☆☆(63点)


要約と感想レビュー

 日本のエネルギーの4割は、電気の形で供給されています。つまり、電力を考えることは日本のエネルギーを考えることなのです。この本では、電力の歴史の裏側が若干わかりますが、表面的な理解という印象でした。


 まず基本としては、エネルギーとは国家の基盤であり、エネルギーを他国に依存しすぎると国家の存立が脅かされるということです。そして著者が懸念しているのは、現在進められている電力自由化が、矛盾をはらんでいるということです。


 例えば、これまで電力会社は総括原価の名の基に、国家の方針に合わせて原子力発電を推進してきました。ところが、電力市場の自由化によって電力会社は競争の名のもとに原子力の安全のために投資をしにくくなってしまったのです。


 さらに、原子力発電で事故が発生すれば、国は責任を回避し、すべての責任を電力会社に負わせ、東京電力のようにバラバラに解体、実質国有化されてしまいます。これでは、電力会社が原子力発電を維持することは非常に難しくなっているのです。


・東電が国有化に抵抗したら、「法的整理という手段を見せつつ、交渉すること」と記してあり・・ペーパーには「原子力の国有化」も明記されている・・原発の提供を渋る電力会社に対しては、「今後、バックエンドの費用を含めて、無限責任を自社で全部負う」と脅せば、「ほとんどの電力会社は原子力国営会社に参画」する、と見通す(p149)


 この本に書かれてあるところでは、原子力の国有化という流れもあったようです。実際、電力自由化の環境下で原子力をどう運用していくのか、リスクが高すぎるゆえに難しい課題なのです。かといって、国営会社も不安が残ります。多くの人が認めるように国営会社の欠点は、創意工夫を欠き、迅速に仕事を進めることができない点にあるからです。


 しかし歴史を見ると、官僚は電力の国有化を志向することがわかります。戦時中には日本発送電という「国営会社」がありました。戦後のGHQによる電力民営化では「電源開発促進法」という建前を考えだし、特殊法人の「電源開発株式会社」を設立し、官僚が天下って大規模な電源開発を行いました。


 石油業界も電力業界も自由化され、エネルギーの安定供給が脅かされています。エネルギーセキュリティを考えつつ、自由化の設計をしてほしいものです。エネルギーは国家の存亡にかかわることですから、こんなはずだった、というわけにはいかないのです。


 山岡さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・エネルギー資源の獲得は商社の双肩にかかっている。近年、商社は天然ガスや石油、ウラン資源などの上流開発に直接投資し、自ら生産者のポジションを確保している(p56)


・シェール革命の担い手は、メジャーではなく、その他大勢の小さな企業である(p91)


・松永安左エ門・・産業は民間の諸君の自主発奮と努力にまたねばならぬ。官庁に頼るなどもってのほかで、官吏は人間のくずである。この考えを改めない限りは、日本の発展は望めない(p171)


・経済界は電力国管に関して次のような懸念を並べた。
 ・官営は、鉄道、製鉄、電信電話なども、ことごとく非能率的である。
 ・新設の発送電会社が開業するまで民間の新規開発が禁じられるのでで電力不足になる・・(p176)


日本電力戦争: 資源と権益、原子力をめぐる闘争の系譜
山岡 淳一郎
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【私の評価】★★☆☆☆(63点)


目次

プロローグ 海図なき航海
第1章 国のかたちを決める資源―揺れるエネルギー供給体制
第2章 シェール革命の大渦のなかへ―フクシマ、オバマ、米国産LNG
第3章 「原発稼働ゼロ」のゆくえ―「国民的議論」は何だったのか
第4章 電力支配をめぐる闘争―統制を壊す「電力の鬼」
第5章 脱石油と原子力―「ファウスト的契約」のツケ
第6章 牙をむくグローバリズム―資源獲得と原発輸出のはてに...



著者経歴

 山岡淳一郎(やまおか じゅんいちろう)・・・1959年松山市生まれ。出版関連会社、ライター集団を経てノンフィクション作家となる。「人と時代」を共通テーマとして、建築、医療、近代史、ビジネス、スポーツなど分野を超えて旺盛に執筆


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