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「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か」カトリーン・マルサル

2022/11/12公開 更新
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「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か」カトリーン・マルサル


【私の評価】★★☆☆☆(67点)


要約と感想レビュー

 タイトルの答えは、マーガレット・ダグラスというアダム・スミスの母親です。著者が言いたいのは、「国富論」で自由市場の優位性を説いたアダム・スミスが、家事については母親に頼り切っていたという事実です。つまり、現代社会では男性の労働はお金に換算されるのに、女性の家事の成果は理解されていない。女性が家庭で無償労働の大半を引き受け、会社では男性よりも低賃金・低待遇に甘んじる状況は変えていかなければならない!というのが著者の主張です。


 確かに世界は、自由主義市場によって発展してきました。しかしその一方で、経済格差が拡大し、強欲な金融取引によって金融危機が起きています。もっと女性が男性と同じ待遇で社会進出することができれば貧富の差が解消し、強欲なビジネスが女性パワーによって緩和され、出生率も高くなるのではないか、というのが著者の思いなのです。


・家族のために薪を集めてくる11歳の少女がいる。彼女の労働は経済発展に欠かせないものだが、国の統計には記録されない(p27)


 不思議なのは、著者はスウェーデンの新聞記者であるにもかかわらず、根拠やファクトチェックが甘いということです。例えば、アダム・スミスは「国富論」で自由市場の大切さを説明していますが、同時に社会における「道徳」の大切さも説いていたはずです。


 また、女性の社会進出が進めば出生率が上がるとか、強欲と競争が女性の進出によって弱められるなど根拠がどこにあるのか明示されていないところも不安になりました。正しい主張も、正しい根拠と合理的な説明がなければ、その信ぴょう性が疑われてしまう恐れがあると思うのです。特にマスコミ関係者なら、プロとしてしっかりとしたファクトチェックをお願いしたいものです。


・アダム・スミスは、あらゆるものに「自然価格」があると述べた・・・投資家のジョージ・ソロスは・・市場は常に、まちがっている・・主張する(p109)


 労働者が労働組合活動によって、奴隷からひとりの人間になったように、ジェンダー平等という活動によって女性も奴隷から普通の人間として扱ってほしいという考え方には賛成です。夫婦で働くことによって可処分所得が増え、出生率も上がるとすれば、それがベストなのでしょう。


 日本でも女性の社会進出が進んでいくと思いますので、スウェーデンの仕組みを教えてもらうほうが有益ではないかと思いました。本の評価としては★2としました。マルサルさん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・途上国では栄養不足で人が死に、先進国では肥満で人が死ぬ(p71)


・男性が自分の雇っている家政婦と結婚したら、国のGDPが減ってしまう(p85)


・労働者は奴隷ではなく、誇り高いひとりの人間になった・・・ただし、この考え方は女性を置き去りにしていた(p244)


・社会全体がかぎりない欲と競争の渦のなかに倒れ込まないためには、女性のやわらかな世界が逆方向へと重みをつけなくてはならない(p162)


・父親が働き母親が家にいるという伝統的な家族モデルでは、出生率の上昇はみこめない・・・出生率を下げることがさまざまな研究で指摘されている(p256)


▼引用は、この本からです
「アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か」カトリーン・マルサル
カトリーン・マルサル 河出書房新社


【私の評価】★★☆☆☆(67点)


目次

プロローグ 経済と女性の話をしよう
アダム・スミスの食事を作ったのは誰か
ロビンソン・クルーソーはなぜ経済学のヒーローなのか
女性はどうして男性より収入が低いのか
経済成長の果実はどこに消えたのか
私たちは競争する自由が欲しかったのか
ウォール街はいつからカジノになったのか
金融市場は何を悪魔に差しだしたのか
経済人とはいったい誰だったのか
金の卵を産むガチョウを殺すのは誰か
ナイチンゲールはなぜお金の問題を語ったか
格差社会はどのように仕組まれてきたか
「自分への投資」は人間を何に変えるのか
個人主義は何を私たちの体から奪ったか
経済人はなぜ「女らしさ」に依存するのか
経済の神話にどうして女性が出てこないのか
私たちはどうすれば苦しみから解放されるのか
経済人にさよならを言おう



著者経歴

 カトリーン・マルサル(Katrine Marcal)・・・スウェーデン出身、英国在住のジャーナリスト。スウェーデンの大手新聞Dagens Nyheter紙記者。政治、経済、フェミニズムなどの記事を寄稿するほか、ミシェル・オバマへの単独インタビューを担当。2015年、BBCの選ぶ「今年の女性100人」に選出。経済と女性、イノベーションについてTEDxなどで講演をおこなっている。ガーディアン紙のブック・オブ・ザ・イヤー(2015年)に選出された。


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