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これが2021年新書大賞?「人新世の「資本論」」斎藤幸平

2022/08/21公開 更新
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「人新世の「資本論」」斎藤幸平


【私の評価】★★☆☆☆(64点)


要約と感想レビュー

資本主義社会は終焉に近い

2021年新書大賞ということで手にした一冊です。ところが読み進めると、気候変動や貧富の差の拡大による不満から現代の資本主義社会は終焉に近づいており、暴力もいとわない変革が起きるか、別の社会システムに置き換えられると主張する本でした。内容は、左翼や共産勢力の主張とあまり変わらないのです。


では主張の根拠は何なのだろうと読み進めると、グローバルに経済成長を目指す資本主義では、労働分配率が低くなり労働者が豊かにならないこと、世界的な自然資源が収奪され、労働者が搾取され、大規模環境破壊を引き起こし、地球温暖化を加速し地球を破壊するというのです。こうした主張は抽象的なもので、どのようなデータに基づき主張するのか明らかにしてほしいと感じました。


鉄、ガソリン、洋服の綿花、牛丼の牛肉・・・労働力の搾取と自然資源の収奪なしに、私たちの豊かな生活は不可能(p27)

次の社会は脱成長共産主義

では著者はどういった社会を目指しているのかといえば、「脱成長コミュニズム」です。なぜなぜコミュニズムなのか、という問いに対して著者は、極右の自警団やネオナチのような過激派、マフィアが支配する野蛮状態を避けようとするなら、コミュニティの自治と相互扶助が必要となると主張しています。私にはロシアのプーチンが、ウクライナ侵攻を正当化したのと同じロジックに見えました。


また具体的なコミュニズムの例としては、水や電力、住居、医療、教育といったものを公共財として、自分たちで民主主義的に管理するとしています。電力は自由化されましたが、なんだ、これは今の日本社会そのものではないでしょうか。水道は自治体が運営していましたが、官僚によるコスト高が問題となっています。経済が成長しようとすると増税して、経済が成長しないようにしてきたわけで、著者の目指す「脱成長コミュニズム」は、これまでの日本なのです。


そしてさらに大きな問題は、民主主義社会を「刷新」するために、イギリスの環境運動「絶滅への叛逆」とフランスの「黄色いベスト運動」を引用し、逮捕されることを厭わない「過激な」運動が社会を変えるとしているのです。不安を煽って、労働者による革命を目指す共産党の考えと同じように見えるのです。


資本主義に生きる労働者のあり方を、マルクスはしばしば「奴隷制」と呼んでいた(p253)

根拠なき主張で説得性なし

著者は、脱成長コミュニズムによって無限の経済成長を断念することで、万人の繁栄と持続可能性が現実化し、「自由の国」を作り出し、労働時間を削減して、生活の質を向上させるとしています。北朝鮮が労働者の楽園であったことを思い出しました。


なぜこの本が「2021年新書大賞」なのか私には理解できませんでした。主張は自由ですが、根拠となるものが論理性がなく、納得できる内容ではなかったため、★2つとしました。もう少し勉強しましょう。斎藤さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・家賃、携帯電話代、交通費と飲み会代を払ったら、給料はあっという間になくなる・・・経済成長はいつまで自然と犠牲にし続けるのだろうか(p120)


・マルクスは、資本主義の辛い現実が引き起こす苦悩を和らげる「宗教」を「大衆のアヘン」だと批判した。SDGsはまさに現代版「大衆のアヘン」である(p4)


・経済成長を至上目的にしないなら、男性中心型の製造業重視から脱却し、労働集約型のケア労働を重視する(p316)


▼引用は、この本からです
「人新世の「資本論」」斎藤幸平


【私の評価】★★☆☆☆(64点)


目次

はじめに――SDGsは「大衆のアヘン」である!
第1章:気候変動と帝国的生活様式
第2章:気候ケインズ主義の限界
第3章:資本主義システムでの脱成長を撃つ
第4章:「人新世」のマルクス
第5章:加速主義という現実逃避
第6章:欠乏の資本主義、潤沢なコミュニズム
第7章:脱成長コミュニズムが世界を救う
第8章 気候正義という「梃子」
おわりに――歴史を終わらせないために



著者経歴

斎藤幸平(さいとう こうへい)・・・1987年生まれ。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想、社会思想。Karl Marx's Ecosocialism:Capital,Nature,and the Unfinished Critique of Political Economy(邦訳『大洪水の前に』)によって、権威ある「ドイッチャー記念賞」を歴代最年少で受賞


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