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「渋沢栄一: 変わり身の早さと未来を見抜く眼力」橘木 俊詔

2024/07/02公開 更新
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「渋沢栄一: 変わり身の早さと未来を見抜く眼力」橘木 俊詔


【私の評価】★★☆☆☆(63点)


要約と感想レビュー

フランスで銀行と株式会社を目撃する

新一万円札の肖像となる渋沢栄一について経済学者である著者が、文献を読んでまとめた一冊です。


渋沢栄一は農民時代に、藩の代官から突然御用金の調達を命じられ、江戸幕府体制に不信感を持ちます。渋沢は幕府が庶民から不条理にお金を巻き上げていると考え、倒幕活動に参加するようになるのです。


そんな渋沢も徳川慶喜の家臣となった縁で、パリ万国博覧会に幕府使節団の会計係として参加することになります。渋沢は、第三共和国フランスが銀行や株式会社、鉄道建設によって発展している姿を目撃することになるのです。


渋沢は、多くの人のお金を集めて産業に投資する銀行と株式会社という仕組みこそが、幕府という官僚主義を打破するものと見えたのでしょう。渋沢は官僚が規制を強めると経済は活力を失い、民間主導の資本主義こそが経済の活性化に貢献すると見抜いていたのです。


栄一は富貴を求める欲望を否定せず、お金持ちになる行動を肯定しており、それが資本主義の繁栄につながると判断している(p157)

軍事費増加反対で大久保利通と対立

また、渋沢栄一の特筆すべきことは、大蔵省で富国強兵のために軍事費増加を主張する大久保利通と対立したことでしょう。渋沢は国家財政の収支規律を守り、軍事的支出だけ突出させることに反対したのです。しかし大久保の対応が高圧的だったため、渋沢は退官し、民間に下るのです。


渋沢は戦争には一貫して反対でしたが、戦争がはじまれば戦日調達に協力しています。こうした行動は、あくまで日本のために主張すべきことは主張し、一旦、日本の国家としての方針が決まれば、日本のために活動するという考え方なのでしょう。そういえば、松下幸之助も戦争には反対でしたが、戦争がはじまれば軍用の船や飛行機を製造しています。


戦争には反対するが日本が一度戦闘状態に入ると愛国者の顔を露呈して、戦争協力のため(例えば、金募集策など)の政策を熱心に行うのであった(p202)

福沢諭吉と渋沢栄一は植民地主義者?

経済学の視点からまとめているのかと思ったら、福沢諭吉と渋沢栄一が韓国から植民地主義者と批判されている点を指摘するなど、著者の政治的な主張が多すぎると感じました。具体的には、渋沢が朝鮮に第一国立銀行の支店や出張所を開設したこと、朝鮮の経済発展のために鉄道建設を進めたことが「かなりの植民地主義を感じざるを得ない」と書いているのです。


さらに、著者は渋沢栄一と岩崎弥太郎を比較し、お金もうけのためならなんでもやる三菱の岩崎に対し、渋沢は倫理的経営を重視していたとしています。ところが著者は、そうした渋沢をして「企業を潰してまで労働者の味方にはならない、あくまで経営者だったことも確実である」と序章に書いているのです。


大学の先生であったにもかかわらず、著者は、会社を潰しても労働者のために働くのが経営者と考えているようなのです。この点は、私には理解できませんでした。橘木さん、参考になる本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・「脱亜入欧」で朝鮮を見下したと解釈された福沢と、朝鮮での植民地支配の実行役の一人であった渋沢は、韓国からすると植民地主義者なのである(p10)


・廃藩置県・・特に重要な人物は・・軍を統率して治安の維持にあたった西郷隆盛、当時、大蔵大輔(実質的な大蔵大臣)だった井上馨、そして井上の直接の部下だった渋沢栄一の三名だった(p48)


・東京養育院・・ロシア皇太子た滞日するのを控え、東京の街中に数多くいた浮浪者や孤児が皇太子の目に留まるのを防ぐため、それわの人を一堂に集めて隠すという目的があった(p134)


・夏目漱石の処女作「吾輩は猫である」のなかで、「僕は実業家は学生時代から大嫌いだ、金さえ取れれば何でもする」と主人は話している・・商人や経済人を蔑視する風潮は、漱石のみならず明治時代の一般風潮としてあったのである(p171)


▼引用は、この本からです
「渋沢栄一: 変わり身の早さと未来を見抜く眼力」橘木 俊詔
橘木 俊詔、平凡社


【私の評価】★★☆☆☆(63点)


目次

序章 渋沢栄一の生涯を振り返る
第1章 大きな影響をもたらした「大蔵省」時代
第2章 フランス滞在で学んだこと
第3章 銀行業を中心にした経営者として
第4章 弱者の味方だったのか
第5章 教育への取り組み
第6章 経済政策と民間外交



著者経歴

橘木 俊詔(たちばなき としあき)・・・1943年兵庫県生まれ。小樽商科大学卒業。大阪大学大学院を経て、ジョンズ・ホプキンス大学大学院博士課程修了。仏・独・英に滞在後、京都大学大学院経済学研究科教授、同志社大学経済学部教授、京都女子大学客員教授を歴任。現在、京都大学名誉教授。


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