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「成金炎上 昭和恐慌は警告する」山岡 淳一郎

2011/07/18公開 更新
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成金炎上


【私の評価】★★★☆☆(79点)


要約と感想レビュー

 戦前、鈴木商店という財閥がありました。リーダーは金子直吉。世界恐慌、関東大震災、台湾銀行の破綻から鈴木商店は倒産、解体、吸収され、以下の企業として現在に至っています。


 神戸製鋼所
 帝人
 サッポロビール/アサヒビール(旧帝國麦酒)
 太平洋セメント(日本セメント)
 IHI(播磨造船所)
 昭和シェル石油(旭石油)
 双日(日本商業)
 三井住友海上火災保険(新日本火災保険)


・内地の商売は、日本人どうしの内輪のカネが動くだけ。芸者と花合わせをやるようなもんだ。何より、外人から『金』をとらなくちゃいかん(金子直吉)(p36)


 大正時代、第一次世界大戦の戦時需要に乗って、鈴木商店は鋼材、銑鉄、船舶、小麦などをに買い占め、船舶の大量発注と同時に造船用鋼材の販売で莫大な利益をたたき出し、日本一売り上げる商社となります。


 そうした中、富山で発生した米騒動を発端として、鈴木商店が米の買占めしているとマスコミに報道されたため、全国で米騒動の中で鈴木商店の本店や関係施設を焼き討ちされました。実は鈴木商店は米を買占めるどころか、安価な南アジアや朝鮮から外米を大量に輸入していました。その一方で三井物産は、関係のある米商人を使って米を買い占める一方で「三井家」の名で米の廉売、窮民救済に100万円の寄付を行うなどの怪しい動きを見せていたのと対照的です。


 第一次大戦後の不況から小麦相場が乱高下し業績が悪化すると、鈴木商店は樟脳ビジネスで関係の深い台湾銀行に依存していきます。グループ内に銀行を持たない鈴木商店は、資金繰りに窮することになるのです。他の銀行を持つ財閥のように不況時に融資を引き締めて資金を確保し、その一方で取引会社を潰し、系列会社として買収することができなかったのです。


 1930年に金解禁が実施されると、日本の金保有は激減し、通貨量は収縮し為替相場の上昇と折からのデフレ策で、物価は、一気に二割、三割と下落し、失業地獄が現れた。そこに世界恐慌が襲来し、鈴木商店の破綻が決まったのです。


 鈴木商店の勃興から倒産までの流れを、政治と国際金融と合わせてみていくことで、昭和初期に引き戻されました。銀行を所有する三井、三菱に対して、商売一本で勝負する鈴木商店は、なにわ商人というところでしょうか。そのプロ意識が、時代の政治と金融状況と、組織の統制不足から追い詰められていくのです。


 経済恐慌から、緊縮財政、そして経済困窮から民衆が不満を持つという歴史に、現代と似ていると思いました。日本の経済政策はどうしてもデフレ傾向となるようなのです。民間の活力を信じない日本の金融マンの特性なのでしょうか。


 昭和の歴史では、その後、軍部の政治介入、戦争へ進んでいくことになります。好況があれば不況があるわけで、そこに政治、軍、マスコミの煽動と国家政策が時代を動かしていくのです。今後、日本はどうなるのか。ちょっと不安になりました。山岡さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・80年前の大恐慌は、世界的な「金(正貨)」の争奪戦を経て、発生した。通貨制度の世界標準だった「金本位制」の理論が世界経済の膨張という現実に裏切られ、恐慌が拡大している(p4)


・戦争の場合に・・・相手国からの海陸の封鎖を受けて、なおその国の経済が国民の生活力を維持し得るか否か・・「封鎖に堪えうる準備とは何ぞや」と問い、「平時から金を多く貯蔵するということ」と断定している(金子)(p216)


・帝国主義下の戦争は、殺し合いを前提にした「投機」だった。戦勝国は、容赦なく領土と賠償金を奪った。人類が、その愚かさに気づくには多大な犠牲と歳月を要する・・(p68)


・三井物産は、明治の後半から海外に有望な学卒者を派遣して実務を修得させた。三井が強いのは「人材の貯水池」と呼ばれるほど、育成に力を入れてきたからだ。商社は、ひとが財産だ。一にひと、二にひと、三にひと、である。(p115)


・幕末の動乱期、三井は朝廷方、幕府方、双方に資金を提供した。どちらが政権をとってもいいように「二股」をかけたのだ・・・明治新政府が発足し、勝ち馬に乗った三井は、晴れて御用商人に取り立てられた(p79)


成金炎上 昭和恐慌は警告する
山岡 淳一郎
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【私の評価】★★★☆☆(79点)


目次

第1章 丁稚、大欲を抱く
第2章 白鼠と泥亀、大正ベンチャーの旗手がゆく
第3章 大戦バブルと鈴木炎上
第4章 財閥の逆襲、鈴木王国崩壊
第5章 恐慌の鬼子たち



著者経歴

 山岡淳一郎(やまおか じゅんいちろう)・・・1959年松山市生まれ。出版関連会社、ライター集団を経てノンフィクション作家となる。「人と時代」を共通テーマとして、建築、医療、近代史、ビジネス、スポーツなど分野を超えて旺盛に執筆


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