「原発と大津波 警告を葬った人々」添田 孝史

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原発と大津波 警告を葬った人々 (岩波新書)

【私の評価】★★★★☆(81点)


■東日本大震災では、福島第一原発の
 唯一の外部電源供給元である新福島変電所と
 送電線が被害を受け、外部電源を喪失。


 さらに非常用ディーゼル発電機の冷却系統や
 直流電源も水没して、すべての電源を失い、
 炉心溶融を起こしてしまいました。


 その一方で、女川原発電所、東海第二原発は
 事前に対策を打っていたため、
 最悪の事態は避けることができたのです。


・東北電力が女川1号機の設置許可を申請したのは1970年、
 福島第一1号機の申請から4年後のことだ・・
 東北電力は土木工学や地球物理学など
 社外の専門家らを集めた「海外施設研究委員会」を
 設けて議論した。「明治三陸津波や昭和三陸津波よりも
 震源が南にある地震、例えば貞観や慶長等の地震による
 津波の波高はもっと大きくなることもあるだろう」
 といった検討の結果、敷地高さを
 14.8メートルにすることを決めた(p11)


■東京電力には、今回の福島第一原発の
 炉心溶融を回避するチャンスが
 何度かあったことがわかります。


 まず、同時期に建設された東北電力女川原発は
 過去の津波の歴史を踏まえ、
 敷地高さを15メートルとしていました。
 それに対し福島第一は、津波に対しては敷地高さ
 4メートルで十分とし、30メートルの台地を
 掘り下げて10メートルとしているのです。


 福島第一原発が先行していたとはいえ、
 女川原発の設計を横目で見ながら
 東電の経営者はどう思っていたのでしょうか。


 1998年には津波防災対策の手引きが見直され、
 東電社内での計算では福島第一原発で
 15メートルの津波が予想されたにもかかわらず、
 確率論などを理由に対策を打ちませんでした。


 2006年9月に耐震指針が改訂され、
 既存原発の安全性を報告するよう指示が
 出されています。このときも津波高さの
 計算結果について土木学会で議論して
 もらうことで時間稼ぎをしています。


 対照的に東海第二原発(日本原電)は2009年に
 津波対策工事を開始し2011年3月の震災前に、
 一部対策工事を完了していたことで、
 最悪の事態を避けることができているのです。


・茨城県は独自の津波浸水予想を2007年10月に公表・・
 東海第二原発(日本原電)の地点では、
 予想される津波高さが5.72メートルとなり、
 原電が土木学会手法で想定していた
 4.86メートルを上回った・・
 原電が対策見直しを余儀なくされる。
 そこで津波に備えて側壁をかさ上げする工事を
 2009年7月に開始し、工事が終了したのは
 東北地方太平洋沖地震のわずか2日前だった(p184)


■発電所の設備はすべて、
 根拠を持って設計されています。
 つまり、信頼性とコストのバランスが
 検討されているのです。


 もし、福島第一原発向けの変電所が
 1箇所でなく3箇所だったら。
 送電線が2系統でなく3系統だったら。
 非常用電源を高い場所に設置していたら。
 追加の津波対策を打っていたら。


 どこかの段階で、日本原子力発電の
 東海第二原発のようにコストを覚悟して
 何らかの対策が打たれていれば、
 歴史は変わっていたのでしょうか。


 添田さん、
 良い本をありがとうございました。


───────────────


■この本で私が共感したところは次のとおりです。


・東北電力副社長だった平井弥之助氏・・・
 平井氏は東北電力を退いて電力中央研究所の
 技術研究所長の職にあったとき、
 「海岸施設研究委員会」に加わり、
 貞観津波を配慮せよと強く主張していたという・・・
 平井氏の実家(宮城県岩沼市)の近くには神社があり、
 現在の海岸線から7キロ以上内陸にあるが、
 そこにまで過去の大津波が到達したという
 文書が残されている(p12)


・福島第一原発の津波への備え・・
 小名浜港で、設置許可申請の六年前に記録された
 +3.122メートルの津波をもとに、
 「潮位差を加えても防災面から敷地地盤高は
 O.P.+4.000メートルで充分である」
 (小林健三郎「福島原子力発電所の計画における
 一考察」『土木施行』1971年7月)と判断し、
 非常用海水ポンプなどは高さ4メートルの埋め立て地に、
 原子炉建屋を高さ10メートルの敷地に東電は配置した。
 10メートルという数値は、高さ30メートルの
 台地を掘り下げる費用、海水を汲み上げる
 ポンプの動力費、地質の情況などを総合的に勘案して、
 最も経済的として決めたらしい(p10)


・2011年3月7日。東電と保安院は非公開の
 打ち合わせをしていた・・
 資料には、貞観地震と津波地震二種類、
 計三種類の想定水位が記載されている
  貞観津波 9.2メートル
  地震本部の津波地震
  1.1896年明治三陸沖タイプの場合 15.7メートル
  2.1677年房総沖タイプの場合   13.6メートル
 どれも福島第一原発の当時の想定6.1メートルを
 大きく上回っていた・・・
 津波地震の予測結果は、東電が計算して三年もたった
 その日、初めて保安院に報告されたらしい(p113)


・97年6月の電事連総合部会で、(通産省から)
 指示があったことが報告されている・・・
 シミュレーション結果の二倍の津波高さが
 原発に到達したとき、原発がどんな被害を受けるか、
 その対策として何が考えられるかを提示するよう
 電力会社に要請している・・
 電事連はこの指示をうけて、
 「津波に関するプラント概略影響評価」を
 2000年2月に総合部会に報告している・・・
 この時点で、東電は福島第一原発が全国で
 もっとも津波に対する余裕の小さい
 原発であることを知っていたことになる。
 約半分の28基は、想定の倍の津波高さでも
 影響がないことがわかった(p32)


・耐震指針が2006年9月に改訂され、保安院は
 各電力会社に既存原発のバックチェックを指示した。
 東電は福島第一原発では5号機を代表として選び・・・
 中間報告書を2008年3月に提出した・・・
 勝俣恒久会長も出席した会合で、
 福島第一原発で従来の想定を上回り、津波高さが
 7.7メートル以上になり、さらに大きくなる可能性も
 記載去れた資料が配られている・・・
 シミュレーションの結果、津波地震が福島第一原発に
 高さ15.7メートルの津波をもたらす
 可能性があるとわかった(p100)


・怖いのは、組織の中で定年退職までつつがなく過ごし、
 良い条件の天下り先や第二の就職先を確保するためなら、
 私も彼らと同じように振る舞った可能性が、
 少なくからずあることだ(p189)


・東北大学理学部に箕浦(みのうら)幸治教授・・
 箕浦教授は、地層から過去の大津波を調べる方法を
 1986年に世界で初めて報告した業績で知られている・・
 仙台平野で津波堆積物を地層の中からみつけた。
 ここ3000年の間に少なくとも三回の大津波が
 起きていることがわかり、それは内陸四キロまで
 入り込んでいた(p82)


・インドネシアのスマトラ沖で2004年12月に発生した
 M9.1の巨大地震の大津波は、インド洋を隔てて
 千数百キロ離れたインド東岸南部にある
 マドラス原発2号機(1986年運転開始、22万キロワット)
 の取水トンネルからポンプ室に入り、
 原子炉の冷却に必要なポンプを水没させて
 運転不能にし、緊急停止させた。当時、
 マドラス原発の津波想定は約2.5メートルと低く、
 福島第一原発の設計当初の値
 (3.1メートル)と同程度(p94)


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■目次

序章 手さぐりの建設
第1章 利益相反―土木学会の退廃
第2章 連携失敗―地震本部と中央防災会議
第3章 不作為―東電動かず
第4章 保安院―規制権限を行使せず
第5章 能力の限界・見逃し・倫理欠如―不作為の脇役たち
終章 責任の在処



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