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「原発ホワイトアウト」若杉 冽

2016/07/12公開 更新
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原発ホワイトアウト (講談社文庫)


【私の評価】★★★★☆(80点)


要約と感想レビュー


原発メルトダウン小説

東大法学部卒の現役キャリア官僚による原発メルトダウンを主題にした小説です。共産党工作員による新潟での原発事故ストーリーは、最後に少しだけ触れるだけ。その内容のほとんどは、電力業界に関わる官僚、政治家、電力会社の裏の構造の暴露話になっています。(どこまでが正しいのか、どこまでがフィクションなのか私にもわからないところがあります)


例えば、電力会社による選挙応援の対象は保守政党だけではなく、リベラルの政党は電力会社の労働組合が同じように支援して、どちら側が勝っても電力会社の恩が売れるようにしているのです。また、原子力の立地地点からの地元採用は毎年数十人、累計1000名を超えているのです。落選中の元議員に客員教授のポストや非上場会社の顧問のポスト当てがっているのは事実なのでしょう。


取引先のうち気心の知れた仲間の企業を「東栄会」という名前で組織化し、各社受注額の約四パーセント程度を東栄会に預託する・・関東電力の外部への発注額は年間で二兆円もあるので、約800億円が、形式的には受注会社が東栄会に預託したカネ、実質的に関東電力が自由に使えるカネ、となる(p63)

競争させたい官僚

これまで国家戦略として原子力を進める政治家と、主導権を取ろうとする官僚、電力の安定供給を目指す電力会社が原子力開発を進めてきました。もちろんそこには金の話があり、組織としての主導権争いがあり、大組織の影響の行使もあるのです。それぞれの組織が、それぞれの思惑の中で現状があるということなのでしょう。


官僚は「電力システム改革をやりました」と保守政党と一緒に胸を張りつつ、実際には競争が進展しない状態、というのが現実の落とし所であり、あくまでも競争レベルは官僚が決めているのです。現在ある原子力をどう運転していくのか、地震、風雪害などの天災、テロへの対策をどれだけ準備するべきなのか、考えさせてくれる一冊でした。


この本にあるような各関係者の思惑を理解しつつ、あるべき日本のエネルギーの安定供給を考えていくことが、大事なのではないでしょうか。若杉さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・現在の大衆は、原始人よりも粗野で愚かで短絡的だ・・太陽光や風力は、お天気次第、風まかせなのは明らかだし、安定した基幹電源とはなりえない。どうがんばったって、電気代は三倍になる(p78)


・法律上は県や市町村長の権限など、まったく明文化して規定されていないにもかかわらず、「地元の知事や市町村長の同意がないと原子力発電所の稼働はできない」という、事実上のルールが定着してしまっている(p112)


・日本電力連盟広報部の世に知られざる仕事内容は、マスコミの言動を監視することである。広報部は、部長、副部長以下六名の体制。勤務時間中はひたすら、新聞、雑誌、テレビを六名で手分けをしてチェックし、原子力発電や電力会社に対して批判的な言動をチェックする。問題があればプレッシャーをかける(p206)


・アメリカのNRCみたいに4000人も職員がいて、職員の流動性があって、職員が最新の知見を持っているっていうなら別ですよ。でも、原子力規制庁の審査員は80人、しかもロートルだ。そんなアメリカみたいなことは無理ですよね(p267)


原発ホワイトアウト (講談社文庫)
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若杉 冽
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【私の評価】★★★★☆(80点)


目次

序 章 70メートル送電塔
第1章 選挙の裏側
第2章 記者会見
第3章 官邸前デモ
第4章 落選議員のカネ
第5章 再稼働の必然
第6章 記者失格
第7章 知事が嵌まった罠
第8章 商工族のドン
第9章 盗聴
第10章 暴走する新聞
第11章 検事総長と総理の密会
第12章 大スクープ
第13章 御用記者の群れ
第14章 官のためのエネルギー計画
第15章 デモ潰し
第16章 知事逮捕
第17章 再稼働の日
第18章 国家公務員法違反
終 章 原発ホワイトアウト


著者経歴

若杉冽(わかすぎ れつ)・・・東京大学法学部卒業。国家公務員1種試験合格。現在、霞が関の省庁に勤務。


原子力関係書籍

「電力と震災 東北「復興」電力物語 」町田 徹
「原発ホワイトアウト」若杉 冽
「原発と大津波 警告を葬った人々」添田 孝史


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