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「幸福なる人生―ウォレス伝」渡部昇一

2021/05/20本のソムリエ メルマガ登録
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「幸福なる人生―ウォレス伝」渡部昇一


【私の評価】★★★★☆(81点)


内容と感想

 私が渡部昇一先生を知ったのは、本を本格的に読み始めた頃のことです。私が当時、一番衝撃を受けた「自分のための人生」を翻訳されていたのが渡部先生でした。渡部先生の専門は英語学ですが、成功哲学系や政治・歴史についても多くの著作を発表しています。


 その渡部先生が2017年に亡くなり、未完の遺稿が発見されました。その内容がこの本、イギリス人アルフレッド・ウォレスの人生を一人称で語ったものだったのです。


・ウォレスのように死にたい、これが父の悲願であった(p7)


 この本で紹介されるイギリス人アルフレッド・ウォレスは、ブラジル、インドネシアなどを探検し、昆虫、生物を採集、探検記録を出版するなどした博物学者です。マレーシア、インドネシアの探検では島々の生物の分布図をつくり、バリ島の周辺でオーストラリア側の島と生物相が全く違うことを示し、その線はウォレス線と言われています。


 生物の採集が大好きなウォレスが、私には日本の博物学者南方熊楠とかぶって見えるのでした。


・仕事がある時でも日曜は完全に自由でしたから、採集箱を持って長い時間山の中を歩き回るのが常でした。そしてその採集箱を宝で一杯にして帰るのです。それからその種を同定し、乾燥させて標本にしました(p136)


 ウォレスが特筆すべきなのは、ダーウィンが「種の起源」で示した自然淘汰という考え方を探検の中で生物採集する中で考え出したことでしょう。つまり、ウォレスは探検しながら生物の変種がいかに多いのか、自分の目で見て知り、多くの変種が自然の中で淘汰されることにより新種が生き残るのではないか、という仮説を持つに至ったのです。


 こうした考えをダーウィンと文通しながら意見交換する中で、ダーウィンが「種の起源」で自然選択による進化論を発表するのです。多くの人は、進化論=ダーウィンを思い浮かべると思いますが、現地調査でデータを集め、自然選択というアイデアを考え出したのはウォレスであると考えられるのです。


・私の主張は野生状況における「生存闘争」のみが新種の固定につらなる、としたのです・・・いかに変種というものが多いものか、ということは熱帯雨林で「虫取り」をやっていた私にとって圧倒的な印象なのです(p311)


 渡部先生はウォレスの生き方を理想とし、最後に残したのもウォレスの人生でした。ではウォレスの人生とは何だったのかといえば、好きなものに没頭し、知的で科学的な成果と思想を残したというもののように感じました。


 渡部先生も多くの著作を通して多くの思想を残してくれました。渡部先生、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・ダーウィンの方は最後まで自然淘汰です。人間も含めて自然淘汰です・・・ところがウォレスは、・・人間の体の進化は非常な早い時期に止まって動かない・・・あとは脳だけが進化したのだと(p356)


・"幸福とは目的を持って働くことであり、その目的が高貴であればあるほど幸福も大きい"のです。私は今それを実感しています(p318)


・私の兄弟姉妹の生存状況を見ると、女のきょうだいは五人いたうち、一人が生後半年足らずで死亡、二人が六歳と八歳で死亡、一人が22歳で死亡。つまり五人のうち四人までは夭折。フランセス(愛称ファニイ)だけは81歳まで生きています。男の兄弟は私を入れて四人ですが、兄のウィリアムと弟のハーバートが夭折。アメリカに行った大工のジョン兄は77歳で死亡。私は90歳まで生きました(p199)


・『創造の自然史の痕跡』(・・1844)・・・この本は出版された時は匿名でしたが、今ではロバート・チェンバーズであることがわかっています・・・進化論は無神論とか、キリスト教の聖書の記述に反するとかで物凄い非難を受ける時代だったのです・・・チェンバーズの本はその15年も前に出された本物の進化論だったのですから、その反響のすさまじさは想像できるでしょう(p168)


・その頃は丁度クリミア戦争の末期でしたが、ロシアの領土拡大主義の危険についてはシンガポールでも実感していました・・・後に私がクリミア戦争観を変えたのは、わがイギリスやドイツやフランスもロシアと同じことをやってきていたのではないか、と思うようになったからです(p251)


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▼引用は、この本からです
「幸福なる人生―ウォレス伝」渡部昇一
渡部昇一、扶桑社


【私の評価】★★★★☆(81点)



目次

1 少年時代の多様な体験
2 自然に親しんだ測量士時代
3 友人たち・学問・本との出会い
4 アマゾンへ―探検家の誕生
5 探検と標本とひらめき
6 文明への疑問と「サラワク法則」
7 虫取屋の「テルナテ論文」


著者紹介

 渡部昇一(わたなべ しょういち)・・・1930年、山形県生まれ。上智大学大学院修士課程修了。ドイツ・ミュンスター大学、イギリス・オックスフォード大学留学。Dr.phil.(1958)、Dr.Phil.h.c(1994)。上智大学教授を経て、上智大学名誉教授。その間、フルブライト教授としてアメリカの4州6大学で講義。専門の英語学のみならず幅広い評論活動を展開する。1976年第24回エッセイストクラブ賞受賞。1985年第1回正論大賞受賞。2017年4月17日逝去。享年86。


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