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「縛られた巨人 南方熊楠の生涯」神坂 次郎

2020/02/21本のソムリエ メルマガ登録
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【私の評価】★★★★☆(84点)


内容と感想

 テレビで東大生が天才として選んだ第1位が、南方熊楠(みなかたくまぐす)だったので手にした一冊です。南方熊楠は和歌山の富豪の家に生まれ、小学校の頃から他の家の百科事典を読み、暗記して自宅で紙に書き写していたという。


 ところが中学以降のつまらない授業には興味を示さず、成績は満点もあれば0点もあるという状況となり。嫌いな授業に時間を潰している暇があったら、百科事典を読み、昆虫や植物を観察・採取したほうがよほど楽しいという風だったという。


・熊楠は・・小学校の帰りに読書に通った・・熊楠が全漢文の『和漢三才図会』百五巻を読破し、ことごとく写しおわったのは五年後のことである・・次には植物学大辞典というべき明の李時珍の著になる『本草綱目』52巻21冊を、それも同様に丸暗記してきて、1年がかりで写し終えている(p14)
 

 南方(みなかた)は、東京大学予備門(のちの旧制第一高等学校)に入学しますが、授業がつまらなかったのか早々と実家に戻っています。そして渡米。大学に入ったり、サーカス団と同行したりし、フロリダやキューバなどで植物を採集したりしています。


 その後ロンドンに移ると、極貧のなかで科学雑誌「ネイチャー」への寄稿、大英博物館で書籍を写本、英国人だけでなく孫文とも親交を広げているのはすごいですね。その一方で、大英博物館で暴力事件を起こして出入り禁止になったり、酒浸りの日々など豪快な人だったことが伺えます。


・大学に入ることにも学位にも興味を示そうとせず、権威にも頼らず、わが目で万巻の書を読破し、自分の目で植物を観察し採取し、自分で考え自分で励んできた、それがliterary man(文士)だと、熊楠は思う(p163)


 帰国後は、実家とのいざこざはありますが、現在の和歌山の白浜の隣、田辺に居をかまえ、熊野の地で植物調査を行います。62歳のときには田辺の神島に昭和天皇を迎え、粘菌について説明を行っています。キャラメルの大きな箱に粘菌標本を入れて天皇へ献上したのは、熊楠らしいところなのでしょう。


 金や権威、世渡りなど無視して、自分のやりたいことをやった自由人という印象でした。ただ、自分を評価してくれない世の中に不満もあり、酒を飲んで憂さを晴らしているようにも思いました。神坂さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・中学校時代の熊楠は、神童と謳われた小学校時代と打ってかわり、成績もあまりはかばかしいものではなかった。退屈な学校の授業などより、熊楠には自分の好むままに野山を走りまわって自然の生物を観察したり、読書や写本に熱中しているほうが愉しかったのである(p16)


・明治17年7月、熊楠、念願の東京大学予備門の試験に合格・・・けれど、天下の秀才が雲のごとく集まるという大学予備門の授業も、熊楠には味気ないものであった・・興味のない授業は欠席して、ひたすら上野の図書館に通って思うままに和漢洋の書を読みふけり、またある時は、白梅亭に出ている女都々逸の立花家橋之助に通いつめたり《随分欠席多くて学校の成績よろしからず》と、気ままな暮らしにうつつをぬかしていた(p28)


・粘菌というのは動物界と植物界の間に置かれた原始動物の一群で、動物であり植物でもあり、一夜にして動物から植物に変身する変形菌でもある(p32)


・熊楠というのは愉しい男である・・傍聴席の応援に心がはずみ、はずみだすと自分でも弁舌がとめどもなくなる。「かの横暴の本部長は、氏子を恫喝して神木を伐らすのである。片っ端から学術上の淵源を破壊せしめるのである。そのうえ夜を18日間も監獄に入れたのである。その事件の告発張本人を・・・(p290)


・「おかけなさい」その天皇の声は、感激家の熊楠を肝がふるえるほどに感動させた。そしてまた、新聞紙に包まれた粘菌類の標本や、キャラメルの大きな箱に標本を入れて献上した熊楠の飾り気のない爛漫な人柄は、ながく天皇の心の底に残った。熊楠の話をききながら、天皇はときに笑いごえをあげられたという(p369)


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神坂 次郎、新潮社


【私の評価】★★★★☆(84点)



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目次

神童クマグス
天下の男といわれたい
わが思うことは涯なし
フロリダ泥砂の中に埋もるや
馬小屋の哲人
Ros Marの謎
さらば孫文
龍動水滸伝
リバプールふたたび
孫文の白いヘルメット
熊野蒙昧の天地
わが頭抜けて那智山中を飛ぶ
われに恋慕の思いあり
帰りなんいざ
小生いまだ女を知らざりしなり
稲八金天大明権現王子の出現
予、警察署長を蛙の如く投げ
人魚の裁判
われゲスネルのごとく
人の交わりにも季節あり
蚤をとるか天下をとるか
時空のミケトゾア
雨にけぶる神島を見て
熊楠への旅のおわりに


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