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「大人の読書」谷沢 永一、渡部 昇一

2021/08/12公開 更新
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「大人の読書」谷沢 永一、渡部 昇一


【私の評価】★★★★☆(82点)


要約と感想レビュー

 2017年に亡くなられた渡部昇一先生の未読の本で、「読書」がテーマとなれば読まざるをえないでしょう。関西大学名誉教授であった谷沢 永一先生も残念ながら2011年に亡くなっています。


 この本を読みはじめて、いきなりびっくりしたのが、渡部先生が夏目漱石の「道草」を読んで、漱石が幼稚に見えたという発言です。若い時に普通に読んでいた小説が、75歳で読んでみたら、自分が進歩しすぎて48歳の漱石の小説の中の悩みが低レベルでバカらしく感じたというのです。


 確かに年寄りには経験と学びに裏打ちされた知恵がありますから、50歳程度はまだまだ人生の若造のようなものなのかもしれません。


・漱石が幼稚に思えるという大変な体験・・・漱石は49歳で亡くなっています・・・50歳の人が書いた小説を、75歳になって読んで感動したら、おかしいのかもしれません(渡部)(p25)


 興味深いのは、両氏とも社会主義、マルクス主義が現実から乖離した空論であることを指摘しているところでしょう。弱者や貧者の不満を焚き付けて、国家を転覆し、地上の楽園と称する自分が支配する独裁国家を増やそうと考えている人々がいるのです。


 現に一部の大学には極左組織が残っているし、世界には未だに人民共和国といった名称にもかかわらず人民の自由を迫害する独裁国家が多数存在しているのです。思想は大切ですが、空論の思想によってこれだけ多くの人の人生や自由が破壊されることに恐ろしさを感じました。


・マルクスは徹底的に模倣です。独創性は何もない。『共産党宣言』の根本はエンゲルスが書いた・・・エンゲルスも本当は歴史を知らない。モルガンの『古代社会』を読んで、それを勝手に解釈し、夢の古代社会を創った(谷沢)(p77)


 知の巨人ともいえるお二人の話は欧米の歴史から日本の歴史、経済、政治にまで飛んでいきます。意外だったのは空想の世界である小説も読まれているし、あえて哲学を否定しているところもあり、世の中に対して自分のスタンスを説明できるレベルに確立しているのがすごいと感じました。


 お二人とも80歳近くのときの著作なので、やはり60歳を超えてから何をするのかということが問題でしょう。この本で紹介されているのは、日本地図を作った伊能忠敬。三井物産社長から引退後、茶道のリーダーとなった益田孝。林学者にして富豪となった本多静六。60歳から何か自分のやりたいことをやってみなさい、というお二人の助言が文脈から伝わってきました。


 渡部さん、谷沢さん、良い本をありがとうございました。


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この本で私が共感した名言

・自分と関係ない世界にめり込ませてくれる小説というのはいいですね・・・『蝉しぐれ』にしても、読むと青春の気分に戻るような気がする(渡部)(p108)


・北康利。山本七平賞を受けた『白洲次郎 占領を背負った男』は素晴らしい(渡部)・・・北康利の本業は証券マンだけれども(のち退職)、本業をこなしつつ郷土史家として歩み出しました(谷沢)(p43)


・ブロック経済がこの前の戦争の大きな原因でしょう・・・戦争中にブレトン・ウッズ会議を開き、戦後の経済をどうするかを議論し、自由貿易という方向を決めた(渡部)(p211)


・マルクスは資本家というものが、オギャアと生まれたときから財産を持っている人たちばかりのように思っている。ところが、世界の大工業を興した人は全部、素寒貧から始め、信用を得て、資本を投資してもらって企業を大きくした。この信用ということを強調したのがシュンペーターです(谷沢)(p214)


・日本史や社会科学関係では、岩波・朝日系で評価された本を思い切って捨てるところから始めないとダメです。全部邪悪だというぐらいの見方にしないといけません(渡部)(p183)


・「嘘でも何遍も繰り返して言えば力がある」といえば、これを近年、一番利用したのはシナです・・・「日本は残虐だ」「残虐だ」と言っている。逆に、それをやらなかったのが日本です(渡部)(p189)


・私は日本民族が外交に向かないのではないかという気がします。自分が誠意を見せて譲歩すれば先方も腹を割って譲歩してくれるという迷信が払拭できない。国内ではそれでいいでしょうが、外向けには通用しません(谷沢)(p191)


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▼引用は、この本からです
「大人の読書」谷沢 永一、渡部 昇一
谷沢 永一、渡部 昇一、PHP研究所
※タイトルを「人生後半に読むべき本」に変えて2006年に再出版されています。


【私の評価】★★★★☆(82点)



目次

第1章 人生後半を豊かにする智恵
第2章 人生の味わい、豊かさを教えてくれる本
第3章 「娯楽の本」はこう選べばもっとおもしろくなる
第4章 古典を読む愉悦にひたる
第5章 歴史と楽しくつきあえる本
第6章 社会を読み解くための必携本
終章 マイ・ライブラリーを作る楽しみ


著者経歴

 谷沢永一(たにざわ えいいち)・・・関西大学名誉教授。文学博士。昭和4年、大阪市生まれ。昭和32年、関西大学大学院博士課程修了。関西大学文学部教授を経て、平成3年、退職。サントリー学藝賞。大阪市民表彰文化功労。大阪文化賞。読売文学賞。毎日書評賞。専攻は日本近代文学、書誌学。評論家としても多方面で活躍


 渡部昇一(わたなべ しょういち)・・・昭和5年、山形県生まれ。上智大学大学院修士課程修了。ドイツ、イギリスに留学後、母校で教鞭をとるかたわら、アメリカ各地でも講義。上智大学教授を経て、上智大学名誉教授。専門の英語学だけでなく、歴史、哲学、人生論など、執筆ジャンルは幅広い。


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