【書評】「日本人へ リーダー篇」塩野七生
2021/03/03公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(82点)
要約と感想レビュー
皇帝の在任期間が短くなり政策の継続性が低下
塩野七生といえば、イタリア在住で古代ローマの歴史小説を書いてきた人です。この本は2010年発行なので、民主党の鳩山政権の頃に出版されたものです。
当時は湾岸戦争に1兆円支払って感謝もされない、自民党の首相が1,2年でころころ変わる。その結果、民主党に政権を取られるなど日本の将来が不安視されていた時代です。
古代ローマでも三世紀になると皇帝の在任期間が短くなり、政策の継続性が失われ、ローマ衰退の遠因となったという。内閣総理大臣の足を引っ張ることを社命にしている新聞社は、国家を破滅に向かって引っ張っているということなのでしょう。
三世紀ローマの皇帝たちの実質在位期間は、一人につき二年と考えてよい・・・三世紀に入ったとたんに、ローマの軍事力が弱体化したのではない。経済力が衰退したのでもなかった。これらは、後になって襲ってくる現象である。皇帝の交代が激しく、在位期間が短く、それゆえに政策の継続性が失われることによる力の浪費の結果として、生まれてきた現象なのである(p41)
自衛隊は国際政治の駒
海外にいると日本のおかしな点がよく見えると言われるようにローマ在住の塩野七生さんだから見えるところがあるようです。
国際政治は冷徹なものであり、国連中心など現実的ではありません。自ら防衛に立とうとしない国家を誰も助けることはないのです。マキアヴェッリも、自ら防衛に立とうと思わない者を誰も助けない、と言っているのです。それが、欧米人の考え方でなのでしょう。
また、「自衛隊員は政治の駒か」と批判した新聞記事を批判しています。自衛隊は国際政治の駒であり、駒であることこそが健全。日本ではメディアの影響で当たり前のことが当たり前ことととされず、非現実的なことがまかり通っていることについて、よくよく考える必要があるように感じました。
日本に帰国中に読んだ新聞の記事に、自衛隊員は政治の駒か、と題したものがあった。私だったらこれに、次のように答える。そう、軍隊は国際政治の駒なのです。そして、駒になりきることこそが、軍隊の健全性さを保つうえでの正道なのです、と(p59)
情報収集の徹底
中世・ルネサンス時代の都市国家ヴェネツィア共和国は徹底した情報収集とそれを駆使しての冷徹な外交で国際社会を生き延びました。また、マキアヴェッリは「常に勝ちつづける秘訣とは、中ぐらいの勝者でいつづけることにある」と言っています。
したがって、著者の提案は、国のトップは短期間に変えない。徹底した国家としての情報収集。中くらいの勝者の位置をキープする。大義でなく国益を考えた冷徹な判断などです。
国家としてこうした提案が反映されるような仕組みがあるのか、ないのかが国家の未来を決定するように思えました。
1000年後に日本の歴史はどのように書かれるのだろうか、と興味がわきました。塩野さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・各国首脳が国連中心であるべきと叫ぼうとも、叫んでいる彼ら自身からしてそれが現実的ではないことを知っている(p16)
・大義などはないのだ。といって、新秩序をつくる力はもっていない。この現実を見極めれば、やれることは限られてくる(p65)
・問題点を指摘し対策の必要を訴えながらも為政者からは無視されてきた人を、「カッサンドラ」と呼ぶ・・・「カッサンドラ」になりたくなかったら、権力をもつべきだと言っているのである(p144)
・失業とは生活の手段を奪われるだけでなく自尊心を育くむ手段さえ奪われることだ・・・紀元前一世紀にはローマ軍団は徴兵制から志願制に移行するが、これさえも市民に誇りを育くむ機会を与える効用を考慮したうえでの、失業対策であったと思っている(p211)
・属州民には兵役の義務がなかったからで、カエサルとは同時代人であった哲学者キケロは、この属州税を、安全保障税だと言っている(p14)
・イラク南部のナッシリアのイタリア軍駐屯地に対する自爆攻撃・・・当事者であるイタリア人が「戦死者」と呼んでいるのに、それがなぜ日本のマスコミを通ると「犠牲者」になってしまうのか(p55)
・先進各国への中国からの密入国者はあい変わらずだし、イタリアの中国人コミュニティの内部では、先着の中国人が後着の中国人を奴隷のようにこき使って摘発される・・・・私には中国は、マイナスを周辺にまき散らしながら大国への道を邁進していくと思えてならない(p221)
・彼らの国での憲法は・・改変する気にさえなれば改変するもの・・・護憲を叫びつづけるのは、ユダヤ教徒にとっての神は、日本人にとっては、憲法をつくったというアメリカ人かと、アメリカ嫌いでは人後に落ちないフランス人などは勘ぐったりしている(p45)
【私の評価】★★★★☆(82点)
目次
1
イラク戦争を見ながら
アメリカではなくローマだったら
クールであることの勧め ほか
2
想像力について
政治オンチの大国という困った存在
プロとアマのちがいについて ほか
3
歴史認識の共有、について
問題の単純化という才能
拝啓小泉純一郎様 ほか
著者経歴
塩野 七生(しおの ななみ)・・・1937年7月、東京生まれ。学習院大学文学部哲学科卒業後、イタリアに遊学。1968年から執筆活動を開始。1970年、『チェーザレ・ボルジアあるいは優雅なる冷酷』で毎日出版文化賞を受賞。この年よりイタリアに在住。1981年、『海の都の物語』でサントリー学芸賞。1982年、菊池寛賞。1988年、『わが友マキアヴェッリ』で女流文学賞。1999年、司馬遼太郎賞。2002年にはイタリア政府より国家功労勲章を授与される。2007年、文化功労者に。『ローマ人の物語』は2006年に全15巻が完結
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