【書評】「友情について 僕と豊島昭彦君の44年」佐藤 優
2019/08/22公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
余命1年で人生を振り返る
1年生存率40%(余命1年)と言われたとき、私たちはどうするでしょうか。
すい臓がんと告知された佐藤氏の友人である豊島君は、自分がこの世に生きた証を遺したいと佐藤氏に伝えたのです。そこから佐藤氏と豊島君の44年間の人生を振り返る本作りがはじまりまったのです。それがこの本です。
豊島君は日債銀のシステム部門に就職します。日債銀が経営破たんしたタイミングで、豊島君はシステム部門内の開発部門から企画部門に異動しました。ところが、日銀から派遣されていた金融再生委員会のシステム担当者は「まるで虫けらに対するような」横柄な態度で豊島君たちに接したという。
豊島君は、しばらく沈黙した。その後、「自分がこの世に生きた証を遺したい」と言った。「そうか、わかった。じゃあ、一緒に本を作ろう。豊島君の人生を振り返る本だ」(p35)
ゆうちょ銀行でのいじめ
日債銀があおぞら銀行として再出発すると、外国人上司と仕事をすることになります。言葉の通じない外国人上司に苦労し、さらに転職したゆうちょ銀行では上司と部下からパワハラに合いました。
ゆうちょ銀行では「担当部長の仕事は組織間で押し付け合いになっている業務を調整してどこかの部署に押し込むことだ」と教えられショックを受けたという。
また、ゆうちょ銀行は民営化後も旧郵政省キャリア組の執行役が猛烈な巻き返しを図っており、元部下を豊島君の直属の上司に据えるなどして嫌がらせをしたという。具体的には、「どうしてこんな簡単なことができないのですか」「よくそんなことであおぞら銀行の部長をやってられましたね」などと言われるのです。
豊島君は、言い返せずに沈黙していることが多かったという。言い返せないから、一層、強い口調で詰問してくるというのです。毎日毎日お前はダメだと言われ続けて豊島君は次第にプライドと自信を失くしていったというのです。
この本が出版されることによって当時のゆうちょ銀行の人にとっては、佐藤氏の友人である豊島君をいじめたのは、大きな判断ミスだったと感じていることでしょう。豊島君は非常に人の良い、真面目な人であったことがよく伝わってきました。
上司から起案者に対して厳しい追及がなされることがある。ゆうちょ銀行の場合、追及の仕方が極めて攻撃的かつ高圧的で・・・部下を徹底的に追い込んでいく。逆に部下が上司を「詰める」ケースもある。部下の方が実務に詳しく上司が後から着任した場合によく起こる。部下が「こんなこともわからないのですか」「ちゃんと判断してください」などと執拗に責め立てる。ゆうちょ銀行には下剋上のような風土もあった(p222)
理解できる友人は貴重
「あいつ今何してる?」というテレビ番組でゲストの学生時代の同級生の人生を振り返る番組がありますが、その番組を見ているようでした。そして最後に涙が出てきました。それは二人が真に理解できる友人であるように感じたからです。
そうした友人を持てただけで人生は充分幸せになるのだなと感じたのです。佐藤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・豊島君と著者が親しく付き合ったのは、高校1年生の1年間と、2018年10月以降の数か月に過ぎないが、相互理解の深さは無限である。だから、40年以上、別の道を歩んだことは2人の友情にとって、なんの障碍にならなかった。理由は、「少数でよいので、真に理解できる友人を持つことができる人とそうでない人では、人生の意味が大きく異なってくる」から(p249)
・最後に豊島君に、人生のこれまでの経験から、生きていく上でとくに重要と思う事柄を8項目に 整理してもらった。
1.こんなもんだと思うこと・・
2.仕事以外に自分の生きる目標を作る。好きなこと、やりたいことを見つけること・・
3.いい経験をしていると思うこと・・
8.一喜一憂しないこと・・(p269)
・当時、浦高(埼玉県立浦和高等学校)の教師はあまり転勤がなかった・・また、地方公務員法の兼業禁止規定に違反するにもかかわらず、東京の予備校で講師をつとめている教師も数人いた・・「厳しいかど温かみがあった」のか、「面倒な生徒には触らない」という事なかれ主義だったのかはよくわからないが、規格外の生徒をあえて型にはめるということはしなかった(p78)
・「言葉が通じない」上司とどうつきあうか・・・豊島君は、暗中模索の世界でもがきながら、必死で自分に与えられた任務を全うしようとした。豊島君の意識の根底には、国や文化が違っても、同じ人間なのだから根本的なところは努力をすればわかりあえるという思いがあった。豊島君は基本的に性善説の立場をとる・・・私(佐藤)はキリスト教徒なので・・性悪説をとる・・嫌な人間に対しては、理解しようと努力したりはしない(p174)
・東日本大震災に関して・・(あおぞら銀行の)プリンス社長は放射能汚染により東京が使えなくなる事態を想定して、大阪に本社機能を移転させる方策を本気で考えていた・・・外国人の方がより敏感でかつ真剣に考えていることに豊島君は強いショックを受けた(p203)
・組織には、それぞれ文化がある。組織で戦力になるには10年は必要だ。それは同時に自分が属する組織の文化に染まるということでもある・・・一旦、この遺伝子を身につけると、転職した場合には、異なる「組織の遺伝子」との間で文化摩擦を起こしやすい。このストレスは大きいので転職は勧めない。また、自己都合で転職する場合、年収が下がる(p215)
・一般論として、この種の「他人に対して厳しい人」は、自分に対しては甘い。この上司もそういう性格の人だった。少なくとも豊島君にこの上司は必要な情報を流してくれないことが多かった・・・興味深いのは、この上司は言い返してくるタイプの部下に対しては、上から目線で詰問調の物言いはしなかった。豊島君は私に「僕は人によって接し方が変わる人間を、絶対に信用しない」と言った(p228)
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
第1章 友情(フィリア)
1 豊島昭彦君
2 突然の告知
第2章 礎の時代
3 少年時代
4 浦高生
5 大学生
第3章 疾風怒涛
6 日本債券信用銀行
7 経営破綻
8 再出発
9 堪忍袋
第4章 灯火
10 転職はしたけれど
11 挫けない人
著者経歴
佐藤 優(さとう まさる)・・・1960年生まれ。日本の作家。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授。在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。2002年に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕される。2005年に執行猶予付き有罪判決(懲役2年6か月、執行猶予4年)を受け東京高等裁判所、最高裁判所は上告を棄却し、判決が確定した。
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