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「大世界史 現代を生きぬく最強の教科書」池上 彰、佐藤 優

2018/08/09公開 更新
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大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)


【私の評価】★★★★☆(88点)


要約と感想レビュー

現代社会の国際関係について、ジャーナリスト池上さんと元外務省職員の佐藤さんの対談です。3年前の本ですので、トランプ大統領就任も予想できないし、北朝鮮も核兵器の開発を完了していません。しかし、テレビを見ているだけではわからないことがある、ということを教えてくれる一冊でした。


当時の混乱の中心は中東であり、現在も中東で多くの戦乱と衝突が起きています。中東からの難民問題で、EUが揺れはじめた時期なのです。本書が予想しているのは、いずれ核兵器が拡散するということです。そして、中国が「明王朝」、イランが「ペルシャ帝国」、トルコが「オスマン帝国」の再興を目指して膨張していくであろうことです。


まず、イランの核保有により核拡散が起きる可能性があります。佐藤さんは、サウジアラビアとパキスタンの秘密協定について言及し、すぐに池上さんがイランが核兵器を持った場合には、可及的速やかにパキスタン内の核弾頭のいくつかをサウジアラビア領内に移す、という秘密協定が結ばれた、とされていることですねと解説しているのです。


・イランには「ペルシャ帝国」、トルコには「オスマン帝国」という、それぞれかつての「帝国」としての記憶があります。トルコのエルドアン大統領は、まさに「オスマン帝国よ再び」という動きを見せています(p49)


イスラエル、ロシアの情報機関と近い佐藤さんは、ある意味、心の中が読めない怖さがあります。例えば、佐藤さんは、「イスラム国」による日本人人質事件が、安倍晋三首相が中東を歴訪したことが原因であると批判することについて、間違いであるとしています。つまり「イスラム国」の狙いは、イスラム法のみが適用される単一のカリフ帝国(イスラム帝国)を建設することで日本の首相は関係ないと当たり前のことを説明するのです。


その一方で、ロシアのワーニン駐デンマーク大使が、デンマークに欧州ミサイル防衛(MD)計画にデンマークが参加した場合、デンマークの艦船がロシアの核攻撃の対象になる、と「警告」したことを指摘し、ロシアの恐ろしさを強調するのです。佐藤さんは若干ロシア寄りの傾向があるので注意が必要だと思うのです。


世界は平和の時代から、紛争の時代に入ってきているという。例えば、トルコのエルドアン大統領が独裁者になりつつあり、政府批判をした新聞記者を次々に捕まえていることを池上さんは指摘するのです。また、シリアのアサド政権はイラン「ペルシャ帝国」の傀儡であり、隣接するトルコはイラン「ペルシャ帝国」のシリア進出を許さないと佐藤さんは指摘するのです。


旧ロシアに詳しいい佐藤さんは、タジキスタンは、国内におけるイスラム原理主義過激派の策動を封じ込めることができていない事実上の破綻国家だし、ウズベキスタンも、キルギスも国境を接するフェルガナ盆地を実効支配できていないという意味で破綻しているという。佐藤さんのインテリジェンスに付いていけるジャーナリストは、池上くらいの実力がないと厳しいのでしょう。池上さん、佐藤さん、良い本をありがとうございました。


この本で私が共感した名言

・東ドイツには、自由ドイツ青年団という社会主義統一党の青年組織がありました。そこには通常、牧師の子供は入らない。しかし、メルケルは入りました・・・アメリカのCIAからすると、メルケルは、共産主義者で、「加入戦術」をやっているようにも見える・・・単にドイツの首相だから盗聴したのではなく、米国は、メルケル個人の来歴に疑念を抱いていると思います(佐藤)(p123)


・イエメン情勢・・・フーシの背後にイランがいる・・イラン対サウジアラビアの直接対決がイエメンで起きていることが重要なのだ。これがシーア派とスンニ派の本格的な宗教戦争に拡大する危険性は高い(イスラエル情報機関の元幹部)(p36)


・二年前、スーダンを支援していたのはイランで、スーダン経由でパレスチナのガザ地区に兵器と資金が大量に流れ込んでいました。そのためイスラエルは、公式には絶対に認めませんが、スーダン船を攻撃して沈めています(佐藤)(p48)


・ギリシャ人の働き方というのは、精神的に近い民族であるロシア人の働き方と極めて近い・・・たとえば、ロシアの出版社の始業時間が10時だとします。すると、編集者は、10時に家を出る・・・10時半に就く。ロッカーの前で身繕いして、お茶を飲んで、前日のテレビ番組の話を皆でして、だいたい12時になる。すると、12時から午後2時までは昼休みです・・・仕事が終わるのは5時・・そして年に二カ月の休みを取る(佐藤)(p112)


・ユーロ危機で、ダメージが大きかった国は、イタリア、スペイン、ポルトガル、アイルランドなど、カトリック系ばかりです。やはり、プロテスタントの勤勉と資本主義を結びつけて論じたマックス・ウェーバーは正しかった(池上)(p199)


・ヨーロッパの大学では、リベラルアーツと呼ばれる七科目が学問の基本だとされました。文法、修辞学、論理学、算術、幾何学、天文学、音楽の七科です(池上)・・・池上さんは、現代のリベラルアーツとして、「宗教」「宇宙」「人類の旅路」「人間と病気」「経済学」「歴史」「日本と日本人」の七つを挙げていますね(佐藤)(p224)


大世界史 現代を生きぬく最強の教科書 (文春新書)
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池上 彰 佐藤 優
文藝春秋
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【私の評価】★★★★☆(88点)


目次

1 なぜ、いま、大世界史か
2 中東こそ大転換の震源地
3 オスマン帝国の逆襲
4 習近平の中国は明王朝
5 ドイツ帝国の復活が問題だ
6 「アメリカvs.ロシア」の地政学
7 「右」も「左」も沖縄を知らない
8 「イスラム国」が核をもつ日
9 ウェストファリア条約から始まる
10 ビリギャルの世界史的意義
11 最強の世界史勉強法



著者経歴

池上 彰(いけがみ あきら)・・・1950年、長野県生まれ。慶応義塾大学卒業後、NHKに記者として入局。事件、事故、災害、消費者問題、教育問題等を取材。2005年に独立。名城大学教授、東京工業大学特命教授。


佐藤 優(さとう まさる)・・・1960年生まれ。日本の作家。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授。在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。
2002年に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕される。2005年に執行猶予付き有罪判決(懲役2年6か月、執行猶予4年)を受け東京高等裁判所、最高裁判所は上告を棄却し、判決が確定した。


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