【書評】「世界史の極意」佐藤優
2020/05/14公開 更新

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【私の評価】★★★★☆(80点)
要約と感想レビュー
帝国主義の時代が訪れる
中国は、ロシアや周辺諸国と関係を深めながら、帝国主義的な力による支配地域の拡大を図っています。歴史的に覇権国家が弱体化すると次の覇権国家の座を狙って経済、軍事で主導権争いが起きるのです。帝国主義の時代には、欧米諸国が「力」で勢力を拡大しました。現代も中国、ロシアが「力」で勢力を拡大しようとしているのです。
イギリスの南アフリカ植民地の首相セシル=ローズ(1853-1902)は、「(イギリスの)貧民による内乱を欲しないならば、われわれは帝国主義者とならなければならない」と言っていたという。帝国主義は外部を攻撃することで、国内問題を解消しようとするのです。
著者の認識は、現代社会は世界大戦の一歩手前ということです。そうした状況に対し、歴史を読み解くことで日本としてどのように対処すればよいのか考える一冊となっています。
大きなポイントは、自由主義の背後にはつねに覇権国家の存在があり、覇権国家が弱体化すると、帝国主義の時代が訪れるということです・・イギリスが弱くなると、ドイツやアメリカが台頭し、群雄割拠の帝国主義の時代が訪れる(p50)
バチカンがソ連を崩壊させた
興味深かったのは、バチカン(ローマ教皇庁)がソ連を崩壊させた、というところでしょう。実はバチカン(ローマ教皇庁)は世界を動かす力を持っているというのです。ヨハネ・パウロ二世の時代に、共産主義を崩壊させる戦略を持っていたという。
そして今、中国政府は、中国内のカトリック教会の高位聖職者の人事権がバチカンにあることを認めていません。2018年、中国とバチカンは司教の任命権で対立し、結局、互いの関与を認める暫定合意で和解しています。中国では宗教抑圧が続いており、バチカンとの関係は必ずしも友好とはいえません。中国とバチカンの関係が中国の運命を決める可能性があるのです。
バチカンの世界戦略の第一段階は、ヨハネ・パウロ二世のとき、共産主義を崩壊させることでした。この戦略は、1991年のソ連崩壊で実現します。第二段階は、イスラムに対しての戦略です・・・では、どうやってバチカンはイスラム原理主義を封じ込めるのか・・・異文化対話を通じてイスラム穏健派を味方につける(p179)
世界大戦を避けるため百万人が亡くなる必要がある
世界大戦を避けるための答えは、双方が「もう殺し合いをしたくない」と思うことだという。そのために、過去と同じように数百万人が亡くなる必要があるのか、それとも数万人でよいのか。
著者は私たちにできることは人権、命の尊厳、愛、信頼といったことを啓蒙すること、またはよりレベルのセンスを磨くことだという。佐藤さん、良い本をありがとうございました。
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この本で私が共感した名言
・ロシア正教には僧侶に「キャリア組」と「ノンキャリア組」があります。ノンキャリアは婚姻可能で、結婚して各地域に勤務する。一方、キャリアは修道院や教会に勤務するが、結婚はできない。ちなみにカトリック教会では聖職者全員が結婚できない。プロテスタント教会は全員が結婚できる(p194)
・イスラム過激派はほとんどスンニ派のハンバリー学派に属しています・・・このハンバリー学派の一つにワッハーブ派がある・・・ワッハーブは、サウジの王様と協力してワッハーブ王国をつくり、これがのちのサウジアラビア王国の素地となりました。そのため、現在でも、サウジアラビアの国教はワッハーブ派です・・ワッハーブ派は・・・ムハンマド時代の原始イスラム教への回帰を唱え、極端な禁欲主義を掲げます(p208)
・ハプスブルク帝国のなかでチェコ民族が覚醒したように・・・もっと小さな民族に主権を持たせることで危機を乗り越えようという動きが出てくる・・・対照的に、国民国家の危機をグローバルな理念で乗り越えようとする動きも出てきます・・現代のEUも見方によっては、西ローマ帝国、さらにはローマ帝国への回帰ということもできるでしょう(p230)
【私の評価】★★★★☆(80点)
目次
歴史は悲劇を繰り返すのか?―世界史をアナロジカルに読み解く
第1章 多極化する世界を読み解く極意―「新・帝国主義」を歴史的にとらえる
第2章 民族問題を読み解く極意―「ナショナリズム」を歴史的にとらえる
第3章 宗教紛争を読み解く極意―「イスラム国」「EU」を歴史的にとらえる
著者経歴
佐藤 優(さとう まさる)・・・1960年生まれ。日本の作家。学位は神学修士(同志社大学・1985年)。同志社大学神学部客員教授、静岡文化芸術大学招聘客員教授。在ロシア日本国大使館三等書記官、外務省国際情報局分析第一課主任分析官、外務省大臣官房総務課課長補佐を歴任。2002年に鈴木宗男事件に絡む背任容疑で逮捕される。2005年に執行猶予付き有罪判決(懲役2年6か月、執行猶予4年)を受け東京高等裁判所、最高裁判所は上告を棄却し、判決が確定した。
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