【書評】「何が、会社の目的を妨げるのか」エリヤフ・ゴールドラット、ラミ・ゴールドラット
2025/12/15公開 更新
Tweet
【私の評価】★★★★☆(85点)
要約と感想レビュー
販売力を高める工場の改善
大野耐一氏のトヨタ生産方式に学び、理論化して欧米に紹介してきたゴールドラット博士の思いをまとめた一冊です。
まず、フォード生産方式の特徴は、組立部品を置くスペースを制限して、スペースがいっぱいになったら、そこに部品を供給する作業員が生産作業を停止するところにあったとしています。それに対して、トヨタ生産方式の特徴は、一つひとつの部品をどれだけ用意するか、その数量を「かんばん」で制限したところにあると解説しています。
そうやって工場の在庫を減らし、スループット(発注から納入までの期間)を短くし、生産能力を高めたら、工場従業員をリストラするのではなく、販売を高めることに注力すべきだと主張しています。それまで納期1ヶ月で高い商品が、納期1週間で安くなるのですから、売上増のチャンスなのです。
それに対しリストラは従業員の生活を破壊し、社内の人間関係を破壊し、務改善は進まなくなってしまいます。社員と経営の「和」を重んじる日本の経営をゴールドラット博士は高く評価していましたが、同時に欧米の経営手法を真似する日本企業に、大きな危惧を抱いていたという。
余剰キャパシティが明らかになると、会社の経営層は余分なキャパシティを適正レベルまで削除して、コスト削減を図ろうとする。とんでもない間違いである・・・営業部門を激励して、さらなる売上げ獲得に生かせばいい(p176)
トヨタ生産方式の本質
ゴールドラット博士がトヨタ生産方式について、詳しく調べていることがわかります。
トヨタ生産方式を主導した大野耐一氏は、「ムダは犯罪に等しい」として、作りすぎの在庫、手待ち、運搬などのムダの削減を進めました。
特に作りすぎのムダについては、部品の数量を「かんばん」によって制限しました。ただし、一気に減らしたのではありません。「かんばん」を徐々に減らし、その過程で露呈したボトルネックを探しては改善するという試行錯誤を重ね、最適在庫を見極めていったのです。
また大野氏はバッチサイズ(一度に作る量)も減らし、結果として段取り替えの頻度を増加させました。バッチが大きいと部品が工程間で滞留し、必要な部品が作られるのに待ち時間が長くなるため、これを解消する狙いでした。
ところが当初は、段取り替えの時間が長く、生産時間はより長くなりました。現場の苛立ちは大野氏への反発となったのです。1940年代後半から1960年代前半にかけて社内では、「忌まわしき大野方式」と呼ばれていたといいます。大野氏は現場の反発に耐えながら、段取り時間短縮に努力したのです。
段取り時間が短縮してくると、一気に生産フローは早くなり、リードタイムも短くなり、在庫が減り、生産コストも下がっていったのです。バッチ減、段取替え増による混乱の先に、スループット向上、仕掛品削減を確信していた大野氏はある意味天才であり、その天才を殺さなかったトヨタ自動車という組織に驚くばかりです。
TPS(トヨタ生産方式)は、全体の流れをよくしてリードタイムを短縮することが目的であり、部分最適の追求は排除されなければならないという考え方に根ざしています(p39)
ドラム・バッファ・ロープとは
ゴールドラット社はトヨタ生産方式とジャストインタイムを「ドラム・バッファ・ロープ」として欧米企業に紹介しています。ドラムはボトルネックであり、その状態に合わせてロープでつないだようにバッファ(余裕)を連動させるのです。
つまり、部品はボトルネックにちょうど部供給されるように、適切なバッファ(余裕)をもって作りはじめる。ボトルネックに滞留が増えたら、注文の納期に含まれる余裕(バッファ)を増やして、滞留を減らす。
さらに非ボトルネックのバッチサイズを半分にすれば、仕掛りなどの在庫量と待機時間が減るでしょう。
ラインに投入され作業が開始されているすべての注文のうち、カラーコードが赤色の割合が5%を下回ったらタイムバッファーを減らし、10%を超えたらタイムバッファーを増やすというようにすればいい(p175)
究極のバッチサイズは部品一個流し
納期を守るために、ボトルネックの能力に合わせた受注を行うこと、ボトルネックにすべてを合わせて生産していくという当たり前のようで当たり前でないことの説明でした。そもそもボトルネックがどこにあるのか、把握していない会社も多いのではないでしょうか。
極論すれば、究極のバッチサイズは、部品一個流しだとしている点も未来を感じさせます。将来はネットで自動車を発注すると、それから作り始め1週間後に納車されるという時代になるのでしょうか。
ゴールドラットさん、良い本をありがとうございました。
| 無料メルマガ「1分間書評!『一日一冊:人生の智恵』」(独自配信) 3万人が読んでいる定番書評メルマガ(独自配信)です。「空メール購読」ボタンから空メールを送信してください。「空メール」がうまくいかない人は、「こちら」から登録してください。 |
この本で私が共感した名言
・博士は、現場に、「ああしろ!こうしろ!」と指示するのではなく、経営幹部がすべきシンプルな質問を挙げていた。それが、次の質問だ。「何か、助けられることはないですか?」(p95)
・「人のせいにして、問題は解決するだろうか?」ゴールドラット博士は、私たちにこう問いかけた(p50)
・スループット会計では、製造間接費の配賦を行わず、原材料などの真の変動費のみを考慮する。販売高は同じなのに在庫を増やせば、その原材料費のぶんだけ会社からキャッシュが減り、売れないかもしれない在庫という負債を抱えてしまうことが明らかになる(p247)
・目標達成を阻む最大の障害が、目標を低くしすぎることである(p128)
▼引用は、この本からです

Amazon.co.jpで詳細を見る
エリヤフ・ゴールドラット、ラミ・ゴールドラット (著)、ダイヤモンド社
【私の評価】★★★★☆(85点)
目次
はじめに(日本を愛してやまなかった父の危惧 ラミ・ゴールドラット)
Part1 言行編
第1章 INTERVIEW なぜ、私は『ザ・ゴール』の邦訳を許可しなかったのか
第2章 INTERVIEW 効率を正しく追求すれば、むしろリストラの必要はなくなる
第3章 INTERVIEW 繁栄し続ける企業には「調和」がある
第4章 INTERVIEW 適者生存
第5章 直伝 ゴールドラット博士の20の教え
Part2 論文・著作編
第6章 ARTICLE TOCとは何か
第7章 ARTICLE 巨人の肩の上に立って
第8章 ARTICLE フォードに学び、フォードを超えた男
第9章 『ザ・ゴール』シリーズ翻訳者が厳選
あなたの常識が覆る50の「至言」
解説 月曜日を楽しみな会社にするために
著者経歴
ラミ・ゴールドラット(Rami Goldratt)・・・TOC(制約理論)の創始者であるエリヤフ・ゴールドラット博士の息子で、現在ゴールドラットグループ(Goldratt Group)のグローバルCEOを務め、TOC(制約理論)やイノベーション理論を世界に広める活動をしている。
エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)・・・イスラエルの物理学者。1948年生まれ。『ザ・ゴール』で説明した生産管理の手法をTOC(Theory of Constraints:制約条件の理論)と名づけ、その研究や教育を推進する研究所を設立した。その後、博士はTOCを単なる生産管理の理論から、新しい会計方法(スループット会計)や一般的な問題解決の手法(思考プロセス)へと発展させ、アメリカの生産管理やサプライチェーン・マネジメントに大きな影響を与えた
この記事が参考になったと思った方は、クリックをお願いいたします。
↓ ↓ ↓
![]()
この記事が気に入ったらいいね!


























コメントする